車椅子 車椅子の概要

車椅子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/19 03:06 UTC 版)

一般的な車椅子。公共の施設などでの車椅子利用者のために設けられたスペースの一例。詳しくは車椅子スペース参照
国際シンボルマーク(International Symbol of Access)。車椅子に限らず、障害者全般が利用できる施設である事を示す。ピクトグラムを参照

筋力などの理由により一般的なものの利用が困難な場合、「電動車いす[注釈 2]」の利用が検討される。こちらは動力電動モーターを使用したものであるが、いわゆる「セニアカー(シニアカー[注釈 3]」などと呼称されるものとは構造が異なる。そのほかにも、重度な障害者向けにストレッチャーのような形態のものや、各種障害者スポーツに特化したものも存在する。以下、該当項目を参照のこと。

2010年11月30日までは、「椅」(い)が常用漢字外であったこともあり、日本の法令では「椅子」を平仮名車いすと表記した。

使用者として、身体障害者の内でも下肢障害者が想定されるが、脳性まひなどによる不随意運動パーキンソン病などによる振戦により身体の動作がうまくいかない場合や、内部疾患(心臓や呼吸器)による中長距離の歩行が困難な者、加齢による筋力低下、怪我(骨折など)による一時的使用など、幅広く使われている。そのため、普段は使わない人でも、中長距離歩行に不安の有るものが移動の時には使用し、こういった人々の利用に供する為、公共施設や病院には備え付けのものが常備されていたり、自治体などでは貸し出しのシステムが備えられている場合がある。 自治体などで車椅子体験会でも使われることもある。

歴史

諸葛亮
1680年頃に描かれたと思われる孔子の絵。孔子が生きていた時代、このような車椅子があったかどうかは不明であるが、絵を描いた時代の人は、孔子の移動方法として、このような発想をした。

椅子車輪という発明が存在した地域から、自然発生的に生まれたと考えられており、その歴史はかなり古い。車輪のついた家具という発明は、記録に残っている限り、紀元前6世紀から5世紀頃、中国の石板に見られる碑文や、ギリシャの花瓶に描かれている乳母車である。障害者を運ぶために使われる車椅子の初期の記録は、3世紀ごろの中国に遡る。当時の車椅子は、重い物を運ぶための手押し車に近いものであり、障害者だけでなく、重い物も運ぶもので、障害者専用として明確に区分けされていたわけではなかった[1][2][3][4]

有名なところでは、障害者ではないが諸葛亮三国志演義の中で、車輪のついた椅子に乗っている描写がある。三国志演義はの時代に書かれており、この時代の中国には、車椅子という発想が存在していたことを示している。

また、1595年に描かれたとされる、スペイン王フェリペ2世の肖像には、召使に押してもらう型(今で言う介助型)に乗っている姿が描かれている。この車椅子を発明した人物の名は不明である。これは、肘掛けや足置きを備えた精巧なものであったが、一方で車輪は小さく、移動にはかなりの労力を要するなど、欠点があった[5]

自走式タイプが初めて考案されたのは、1650年、ステファン・ファルファという人物によって(ファーフラーとも。自身が下肢に障害があった模様で、自走といっても今のような後輪を直接回すのではなく、前輪をギヤ駆動のクランクで回す形式であった)。これらは、障害者も利用したが、障害者でない者も利用しており、当時は「車椅子は障害者の乗り物」という現代人の常識とは異なっていたようである。ヨーロッパでは、18世紀のはじめ頃から車椅子が商業的に製造されていたと考えられている[6][7][8]

土車。「小栗判官絵巻」

日本では、中世近世には疾病などで歩行が困難な者が使用する「土車」「いざり車」と呼ばれる車椅子の原型と呼べるものが存在していた。もしくはに四つの車輪(両方とも製)の付いたもので、使用者はあぐらなどで座り、手に持った地面を突いて、もしくは取り付けたや手押し部分で介助者が動かした。これに乗って寺院巡礼などの長期旅行をする者もいて、記録浄瑠璃作品や浮世絵など)が散見され、また実物が各地の寺院に残っている。明治以降では大正初期からアメリカイギリスから輸入された記録がある。また、1920年頃につくられた「廻転自動車」と呼ばれた物が日本国内で最初に開発された西洋式の原型とされている。ただし、これは文献には残っているものの、正確な製造者や製造年は分かっていない。日本で製造したとはっきり認められるのは、同じく1920年頃、北島藤次郎(北島商会(現、株式会社ケイアイ)創設者)により作られたもので、製であった。これらは戦傷で障害を負った軍人入院患者のために、一部の病院で用いられたようである。

第二次世界大戦では、多くの軍人民間人が負傷した。戦後義肢などとともにその需要が急激に高まっていたが、当時はあらゆる物資が不足しており、これらの障害者になかなか行き渡らなかった。1951年に制定された身体障害者福祉法により、徐々に普及が進んだ。

1964年に行われた東京パラリンピック欧米製の優秀さを目の当たりにし、これをきっかけに日本でも性能が急激に上がることとなる[6][9]

1990年以降、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称「バリアフリー法」)などの制定により社会のバリアフリーが推進され、ノーマライゼーションの観点から車いすを用いての利用、移動を考慮して面のフラット化(段差解消)、ゆるやかなスロープ、車いすの幅を考慮した開口部の広いドアなどを設備した施設が増えている。

購入

福祉用具取扱店など専門業者のほか、ホームセンターなどでも販売されている。電動型は障害者個人の特性に合わせ、専門業者からカスタマイズ販売されることが多い。 Amazonでも車椅子販売がある。

価格は手動で1万円前後 - 50万円超、電動では30万円 - 300万円超と幅広い。なお、福祉機器であるため、本体について消費税は課せられない。

主な助成制度としては以下のものがあるが、スポーツなどに特化したものは対象とならない。

レディメイド(既製品)

大量生産され、ホームセンター等で販売されているものは、以前はほとんどがスチール()製だったが、アルミ製でも安価で出回るようになった。また近年は、インターネット通販も出来るようになっている(ネットだとスチール製は1万円台から。アルミ製でも2万強から探せる)。ただし、素材は値段だけではなく用途や、ユーザーの体格等により決定されるべきであり、アルミ製の特に軽量型と謳われているものの中には、耐荷重が思いのほか軽いものがあるので注意が必要である。強度面のみで言えば圧倒的にスチールが有利であるが、重量が段違いに重い(アルミでは10kg以下も珍しくないが、スチールでは20kgを超えるものもある)ため車両への積み込みが頻繁な場合、注意が必要である。調整個所が限定される為、あらかじめ用意されたいくつかのサイズから選択することになる。背・座面が布張りの平面であるため、重度の身体障害者、体幹変形が著しい場合などには適合が困難であるが、後述のシーティング技術と組み合わせることによって、ある程度の対応が出来る場合もある。

オーダーメイド

身体寸法(手足の長さ・体の幅)や四肢の可動範囲、使用目的を鑑みて、メーカーで受注生産されるもの。価格も高価になり、完成までの期間も長いが、本人の身体に合わせて製作されるために良好な適合が得られる。ただし、調整機構を持たない部分は身体の変化に適応できないので、体格の変化や症状の進行により関節や骨格の萎縮・変形が進むことが見込まれる場合モジュール型の採用が望ましい場合もある。医師の処方、義肢装具士(PO)・理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の助言を受けることが望ましい。

モジュール型(セミオーダー)

あらかじめ製作された、たくさんのモジュール(パーツ)の中からユーザーの体格や好みに合うものを選び、組みつけて行き完成させる。ほとんどのモジュールがボルトなどで組み付けられている構造のため、体型の変化や病状の進行による関節骨格硬縮萎縮・変形が起こっても、他のタイプに比べ対応がし易く、現場で調整・仕様変更が可能なものもある。車輪サイズ・車軸位置や座面幅・奥行・傾き、レッグレスト・アームレストなどの高さ・位置・角度・形状など、ほとんどの箇所を調整可能としたフルモジュール型(自操式・介助式・電動式への換装ができるものもある)と、車輪サイズ・車軸位置など限られた部分のみ調整可能にした簡易モジュール型がある。フルオーダー型よりは製作期間が短縮されるが、選択モジュールによっては値段が格段に違ってくる。また調整部位が増える事により、調整機構の無いものに比べ、重量・強度・剛性の面では劣ることが多い。
なお、交付の際には「オーダーメイド」に分類される。

注釈

  1. ^ ここでいう一般的なものとはJIS規格(規格番号JIS T 9201)で定められている「手動車いす」のことで、車いす型式分類における「自走用標準型車いす」や「介助用標準型車いす」などのこと
  2. ^ JIS規格(JIS T 9203)で定められているもの
  3. ^ JIS規格(JIS T 9208)では「ハンドル形電動車いす」と呼ばれる。

出典

  1. ^ History of Wheelchairs”. wheelchair-information.com. 2019年3月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月25日閲覧。
  2. ^ Who Invented the Wheelchair?”. mentalfloss.com. 2019年1月25日閲覧。
  3. ^ Joseph Flaherty (2012年5月24日). “Putting the 'Whee!' Back in 'Wheelchair'”. Wired. https://www.wired.com/design/2012/05/wheelchair/ 2019年1月25日閲覧。 
  4. ^ Maggie Koerth-Baker. “Who Invented the Wheelchair?”. Mental Floss Inc.. 2013年11月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年5月25日閲覧。
  5. ^ History of the Wheelchair”. thoughtco.com. 2019年1月25日閲覧。
  6. ^ a b 車いすのはじまりは? - つくばみらい市 社会福祉協議会
  7. ^ 車椅子の歴史 海外編 - 株式会社ジェー・シー・アイ
  8. ^ 日本生活支援工学会誌 Vol.9 No.2 意匠から見る手動車いすの発展、閲覧2017年8月3日
  9. ^ 車椅子の歴史 日本編 - 株式会社ジェー・シー・アイ
  10. ^ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第76条
  11. ^ 介護保険法施行令第4条
  12. ^ Butt, Muhammad Bilal (2020年1月22日). “Disabled Sports: Sports wheelchairs a hope for disabled sportsman”. Youth Press Pakistan. Youth Publishers (Which owns Pakistan Times). 2022年2月19日閲覧。
  13. ^ 【楽天市場】アルミ折りたたみ自走用車椅子 KA22-40
  14. ^ 公益財団法人テクノエイドHP、福祉用具の選び方使い方情報、移動機器、車いす、片手駆動式車いす、閲覧年月日、2016/12/26
  15. ^ 高速バスの利用 高齢者、身障者の対応. 日本バス協会. 2017年10月9日閲覧.
  16. ^ バリアフリーへの取り組み(車椅子利用者への対応). Bus-Channel. 2017年10月9日閲覧.
  17. ^ 千葉交通が謝罪 車椅子利用者のバス乗車拒否 千葉日報 2017年4月7日
  18. ^ 車椅子理由にバス乗車拒否 千葉県委員会に男性申し立て バス会社に配慮助言 成田 千葉日報 2017年4月6日
  19. ^ 車椅子乗車拒否 バス会社が謝罪 NHK千葉 NEWS WEB 2017年4月6日
  20. ^ “電動車いす、誤使用などで死亡事故多発”. TBS. (2013年9月12日). http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2012905.html 2013年9月12日閲覧。 
  21. ^ 金属探知機に反応しない竹製車椅子を開発 - 産業技術総合研究所、2010年12月21日
  22. ^ 道路交通法 第2条第1項第11号の3”. e-Gov法令検索. 2020年11月28日閲覧。
  23. ^ https://www.taro.org/2018/12/電動車椅子と飲酒.php
  24. ^ 電動車いすの安全利用に関するマニュアルについて|警察庁Webサイト”. 警察庁. 2023年10月28日閲覧。


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