植木鉢 概説

植木鉢

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/06 07:13 UTC 版)

概説

植木鉢とは植木など様々な植物を植えるための容器の総称である。植物は一般的にを張り、そこから水分・養分を吸収するための土壌(土)が必要だが、それを保ってくれる容器である。また植物の角度や位置を保ってくれる。[注 1]

植物の種まき発芽挿し木栽培・育成、展示など様々な目的で用いられている。目的ごとに様々な分類があり、たとえば植物の生育過程別にみると、種まきに用いるものは「播種(はしゅ)鉢」、栽培途中に用いるものは「仕立て鉢(したてばち)」、仕立て上がった後に移し美しく見せるために用いるものを「化粧鉢」などと分類している。また形状による分類法など、様々な分類法がある。→#分類

なお、日本では植木鉢とプランターを形状的に区別することが多いが、欧米ではあまり区別をしない。「」とも呼び、古来鉢植えを「盆養」と呼んだ。

植木鉢は基本的に園芸店やホームセンターなどで購入できる。また、条件を満たす様々な容器をそのまま転用したり、加工して植木鉢とすることも可能である。

構造と材質

陶製の植木鉢の一例(駄温鉢)
逆さにした状態。中央に排水孔が開いている
プラスチック製の植木鉢と受け皿
透明の植木鉢
構造

植木鉢は上面部分が開放され、底面には水抜きのための穴が開けられた構造が一般的である。つまり、用土が常に一定の水分を保ちつつ、余分な水分が排出されるようになっている。また、底面が平面ではなく、周囲が盛り上がり、部分的に切り欠きを作るなど、底からの水はけにも配慮されているものが多い。これは、排水が悪いと有害菌の繁殖や老廃物、有害物質などの蓄積が進むこと、また多くの植物は根も呼吸しているのでそれが阻害されることなどから植物の生育が悪くなるので、それを避けるためのものである。したがって、この構造に合致し、なおかつ有害物質を含有していなければ汎用の容器を転用しても差し支えない。しかし、欧米では孔の開いていない植木鉢も多い。このようなものは鑑賞の時のみに使われ、日本では植木鉢カバーと見なすこともあるが、欧米では一般に区別をしない。また、まったく平らな板に土を盛り上げても植物を栽培することはでき、実際に盆栽にはこのようなものもあり、これも特殊ながら植木鉢と呼びうるものだが、この場合自然に排水するので排水孔は不要である。水草用の鉢も排水孔がない方が良いことが多い。なお、側面に植え込み口や排水孔を持つ植木鉢も稀にある。なお西欧では、排水孔のある植木鉢は受け皿(鉢受皿)がセットになっているのが普通である。また鑑賞鉢ではスタンド、台がセットになっているものも少なくない。

上端の周囲はやや厚くなっているか、盛り上げてあるのが普通である。これは強度保持と持ち運びの扱いやすさのためである。

地植えに比べれば、培養土の容量が限られるので地下部の生育には限度があり、そのため地上部も小型化することが多い(花は小型化しないことが多く、むしろ施肥などの管理に左右される)。しかし、むしろそれを積極的に利用することも多く、場合によっては盆栽のように、あえて小さめの植木鉢に植え、更に根を切り詰めたりして地上部の生育を抑制し矮小化させる技術も盛んに行なわれる(根を切り詰めるのは新根の発生を促す意味もある)。地上部も剪定したり成長抑制ホルモンを使用することもある。

さらに、その地の土質や環境では栽培できないものでも鉢の培養土やその置き場所、管理などを調節することで栽培を可能にすると言う面もあり、特殊な条件を求める植物であっても鉢植えならば栽培が可能になる例も少なくない。多くの洋ラン着生植物だが、鉢植えで栽培されている。

材質

栽培用、観賞用など、その目的に応じて材質は多岐にわたるが、特に陶磁器が非常に多い。中でも土器陶器が多く、その理由としては保水、排水や通気のバランスがよいこと、美観的に植物によくなじむこと、直射日光や水に対して丈夫なこと、比較的安価で大量に供給ができることなどによる。特に素焼きテラコッタ)のもの(つまり釉薬をかけないもの)は通気が良く、鉢表面からの水分蒸散により鉢内が蒸れにくく、多くの植物の育成に適している。ただし素焼きのものは乾きやすいこと、割れやすいことと美観に劣る欠点がある。

一般に売られている素焼き鉢のうち、桟の部分のみ上薬を塗ってあり、全体に赤みがかったものは駄温鉢と呼ばれる。一般的な素焼き鉢が約700℃なのに対し、駄温鉢は約1000℃の高温で焼かれているので、割れにくく丈夫であるが、通気性は若干劣る。言い換えると、水持ちが良い。

育苗のためには、かつては素焼鉢や上述の駄温鉢が主流であったが、現在はビニールポットが圧倒的である。また、パルプやピート(泥炭)をプレスして作った育苗用鉢もある。これらは時間がたつと次第に腐食して土と同化するので、植え替え時に抜かずにそのまま地植えしたり、更に大きな鉢に移し替えることができ、根を痛めることが少ない。ただしこれらは短期間しか使用できず繰り返して使うこともできない。

西欧の観賞用の植木鉢としては、庭園用には石製や土器製、青銅製や製のものが多かった。室内用としてはマヨリカなどの陶器のほか磁器炻器も多い。このほか七宝や、真鍮などの金属製や木製のものも見られる。まれにガラス製のものもある。

中国では景徳鎮などの磁器、宜興などの朱泥、紫泥器が盆栽やの栽培用に作られている。日本では伊万里焼などの磁器、常滑焼の朱泥、信楽焼などが盆栽に、丹波焼の焼締、楽焼や信楽焼などの陶器が宿根草山野草用に作られる。一般草花用の鉢も信楽のものが多い。このほか埼玉県愛知県などの土管のメーカーによって作られている植木鉢もある。また軽石を整形して作られるものもある。

現代では合成樹脂の発達により、プラスチックビニール製の植木鉢が増えている。安価で軽いなどの利点があるが、通気性、耐久性や高級感に乏しく、陶磁器製植木鉢を駆逐するまでには至っていない。しかし先述のように生産農家などではビニール製が大部分を占める。また屋外用のものとしてコンクリート製のものもあるが、石灰分を嫌う植物には適さない。

このほか、アワビシャコガイなど大きめの貝殻や、ヘゴの幹をくり抜いたり、ヤシ殻や筒等の自然物を利用することもある。

歴史

園芸にとって、植木鉢はなくてはならない存在である。もともと園芸は特に都市で行なわれる場合、庭園という場所を必要とする関係上、造園術と密接であり、その統率下にあったと言っても過言ではない。しかし植木鉢の登場により、造園術の束縛を離れて、単独の文化として存在することが容易になったと言うことができる。

植木鉢の起源は明らかではないが、屋外に放置した土器に土が溜り、そこにどこからか種子が飛んで来て落ちたか、あるいは果実の食べ滓の種子を捨てたかして育ったのにヒントを得たのではないかと考えられる。そもそも他の用途の容器からの流用が簡単であることもあり、古代文明にはすでに植木鉢が存在していた思われるが、資料はほとんどない。中国では盆栽の祖型である盆養が遅くとも代には行なわれていたようであり、代には確実に植木鉢による栽培が行なわれていた。

日本では、平安時代には盆養が行なわれ、下って鎌倉時代上野国佐野に住むある零落した武士夫妻が、大の晩、に宿を乞われ、大切にしていた秘蔵の鉢植えの梅、桜、松を饗応のために薪にしてしまうが、このおかげで後に出世するという筋の鉢の木」(能としては室町時代)は有名である。このことから、すでに鎌倉時代には鉢植え(盆養)が趣味園芸として行なわれていたことがうかがえる。

また日本の江戸時代は園芸が非常に興隆した時代であるが、地植えよりは鉢植えの文化であると言ってもよく、それは、小型の植物が多く愛好されたこと、花や葉の非常にデリケートなが追求され、風雨から保護したり、屋内に取り込んだりしてじっくりと近くで花や葉を鑑賞する方向に育種が進んだからである。他にも当然移動が容易なことも大きい。参勤交代により常に自国と江戸を行き来しなければならない大名やその家臣にも花好きが多く、その都度移動できる鉢植えは便利であった。またしばしば行なわれた「花合わせ(品評会)」への出品のため、大阪から江戸へ朝顔の鉢植えを早荷で送った豪商の愛好家もいた。こうして鉢植えによる栽培は将軍、大名から庶民に至るまで幅広く行なわれていた。

庶民が普通に使う植木鉢や、繁殖や初期育成などのためには、日用品的な素焼鉢、陶器鉢が用いられていた。江戸の下町での鉢植えの売り歩きなどで売られたものには「土鉢」と呼ばれる素焼の植木鉢が使われていた。江戸では今戸焼が有名であるが、このような日用品的な植木鉢は各地ので製造されていたと思われる。瀬戸焼の陶器鉢もよく用いられ、本来他の容器であったものに排水孔を開けたものもしばしば見られる。入谷朝顔市明治時代初期に始まったものであるが、やはり今戸焼の植木鉢が使われていた。当時の鉢は現在のような型押しではなく、轆轤(ろくろ)を用いて制作されていた。これら現在ほとんど残っていず、ごく稀に今戸焼の鉢が盆栽に使われている程度である。

またそればかりでなく、多くの盆栽は高価に取引されたので、特に江戸時代も中期に至ると植木鉢も伊万里焼の染付など、それに見合う立派な陶磁器のものが製作された。当時の錦絵などを見ると、実に多様な鉢に植物が植えられていることが見て取れる。それらの多くは陶磁器であるが、木製や金属製のものも見られる。それらの中には中国磁器もあるであろうが、日本製の陶磁器も多かったと思われ、古伊万里や楽焼の植木鉢をしばしば見ることがある。また大名が趣味で焼いた御庭焼のようなものもある。一方、淡い花色が多いサクラソウ等では、花色を活かすためもあり、茶道の茶道具にも通ずるわびた風情の陶器鉢が愛用される例も見られる。江戸時代の園芸は、これら多様な陶磁器鉢に支えられていた。特にこの時代には各地で窯業が盛んになったこととも関係しているのであろう。このほか、箱に植物や石、ミニチュアの建築物等を配して景色を模した箱庭も作られた。

ヨーロッパのバロック式庭園では、大理石青銅などでできた古代ギリシア風の飾り鉢がしばしば設置されていた。また16世紀頃から園芸が急速に発展し、イタリアではマヨリカ製の植木鉢も使われた。イギリスやベルギー等でもやはり植木鉢で栽培する植物が特に早くから育種された。イギリス等でははじめの内は素焼で飾り気のない鉢が普通であったが、次第に展示用の飾り鉢が発達し、特に18世紀から19世紀のヨーロッパでは豪華な調度の中でも引けをとらないよう、マイセンセーヴルウェッジウッドをはじめとする著名な窯などでも豪華に装飾された磁器や炻器、陶器の飾り鉢が製作された。特にジャスパーウェアには茶器や壷などに混じって植木鉢もしばしば散見される。また特にフランスで時おり見かけるものに、木製でもマホガニー等を使った豪華なものがあり、製や真鍮製の凝ったデザインのものも少なくない。この時代は産業革命の進展により、ガラスや鉄材の大量生産が可能となり、温室が普及、また一般建築でもガラスの多用により室内が明るくなり、これらにおいて室内での植物栽培が増え、植木鉢の需要が増した。

19世紀に入り、西欧では近代的生産園芸が発展し、大量の育苗用植木鉢が必要になり、これに合わせてイギリスで素焼鉢の大量生産が始まる。こうして生産された鉢は園芸業者や植民地プランテーション等で大量に消費された。やがて日本でも素焼鉢は大量生産され、この状態は第二次大戦後、特に昭和40年代以降ビニールポットに取って代わられるまで続いた。

アメリカでは19世紀末から陶器製造会社がいくつか生まれ、四半世紀ほどの間に世界有数の陶器メーカーに成長する。アメリカでは広い住宅を飾るのに装飾用植木鉢は重要なアイテムであり、これらのメーカーにとって、装飾用植木鉢は主力商品のひとつであった。しかし第二次大戦後は安価な日本陶器の輸入とプラスチック製品の普及により急速に衰退した。現在イギリス、イタリア、日本などで素焼や陶器の植木鉢がよく生産されている。中国でも宜興を中心に生産が盛んで、この他、最近ではタイ製、ヴェトナム製、マレーシア製などの磁器植木鉢もよく輸入されている。


注釈

  1. ^ 植木鉢無しの状態、つまり植物の根に土がついただけの状態のものを例えばコンクリートやタイル張りの場所に置いても、水をやるたびに土壌が流れていってしまい、やがて根がむき出しになってしまう。また植木鉢無しでは、植物の角度(姿勢)が安定しない。

出典

  1. ^ 『栽培法及び作業法』, 職業訓練教材研究会 (2005年2月10日),ISBN 978-4786310218






植木鉢と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「植木鉢」の関連用語

植木鉢のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



植木鉢のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの植木鉢 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS