マインドコントロール 論点

マインドコントロール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/02 17:48 UTC 版)

論点

信教の自由の問題

マインドコントロール論では、「解凍・変革・再凍結」のプロセスに従い信念体系が変化するとされるが、これはそもそも宗教全般でみられる宗教的回心の過程なのではないかという指摘がある[4]。宗教の入信行為に見られる自己の意識・身体感覚の変容という事象を4つの象限(世俗性・異質性・同質性・宗教性)で一般化・類型化すると、世俗性・異質性の象限にマインドコントロール・洗脳が、世俗性・同質性の象限に自己啓発セミナー等での自己開発・変性意識が、異質性・宗教性の象限に宗教的回心が、同質性・宗教性の象限に宗教的サブカルチャーによる癒しがあげられる[7]。同じ事象に異なる説明がなされるのである[7]

破壊的カルト教団による信者の利用という考えは、マインドコントロール論の核心であるが、当人が如何なる信教を支持しようとも当人の自由であるという基本的人権の「信教の自由」に抵触し、また、人間の宗教的行為や宗教集団の多面性を理解するのに有益でないという問題がある[7]

カルトの理解の問題

カルトの信者は、単純で偏った特定の思考や考え方を支持するが、それは彼らが様々な問題を抱え、解決しようとしたことを端緒とする[4]。そうしたカルト問題の本質を無視してマインドコントロール論で説明すると、問題の本質が誤認されてしまう[4]。宗教学者の大田俊寛は、そのため一般社会にいつまでも不全感・不安感が残ると指摘している[4]

そもそも可能なのか

マインドコントロールが文字通りあるとすれば、「まったく気づかないうちにカルトの一員となり、無自覚なまま霊感商法やテロリズムといった反社会的行為にさえ手を染めるようになる」はずだが、具体的な事例がなく、実験で実証されたこともないため、そもそも可能なのかどうかが不明である[4]。大田俊寛は、「こうした種類のカルトは、人々が『精神を操作される』ことによって生じたのではない。『科学的な精神操作が可能である』という幻想が広まり、人々が自らそれを信じ込むことによって生じた、と考えるべきである」と述べている[4]。櫻井義秀は、マインドコントロールは社会心理学的技術の応用とされるが、宗教における入信行為の説明として不十分であるとしている[7]

責任の所在の問題

マインドコントロール論はカルト問題を、マインドコントロールした団体が悪い、その中心にいた指導者が悪いという一方的な形に矮小化し、当該団体と周辺社会、教祖と信者のあいだに生じる複雑な相互作用を無視し、責任の所在を極端に偏って考えがちで、その後の関係者の処遇も公正を欠くことになりやすい[4]。また、当事者がマインドコントロールされていたという理由ですべてをカルトの責任だとすることは、自分自身の主体性を根本的に否定し、自分の行動の責任を全く認めない歪さを生じかねない面がある[4]。他律的行動支配はマインドコントロールの定義の一つだが、社会的行為において論理的な命題を構成できないという問題がある[7]

対話の妨げ

カルトと呼ばれるような団体の問題の解決には、冷静で粘り強い継続的な対話が欠かせないが、マインドコントロール論は、人々にカルトの人間と話すと操られるかもしれないという恐怖感を与えるため、対話が阻害されてしまう[4]。また、マインドコントロールの破壊的カルト教団による信者の利用という定義は、価値中立的な認識ではない[7]

被害妄想の昂進

マインドコントロール論は、「見えない敵が密かに自分をコントロールしようとしている」という陰謀論と極めて似ている[4]。大田俊寛は、カルト側もマインドコントロール論を信じて被害妄想を膨らませ、カルトを批判する外部と互いが信じるマインドコントロール論を応酬し、被害妄想が被害妄想を増大させる悪循環で事態が悪化する恐れがあると述べている[4]

法的な問題

裁判で、関係者の行動すべてを「マインドコントロールされていたか否か」を解明し(そもそも解明できるのかという問題もある)、審理をスムーズに進めることは、極めて困難である[4]。大田俊寛は、また「マインドコントロールされていたから」という理由で犯罪への責任が減免されれば、個人の主体性に立脚する近代の法秩序を維持することができないとしている[4]


  1. ^ 西田公昭 科学研究費助成事業 研究成果報告書「マインド・コントロール防衛スキルの構造とその心理特性の測定法の開発」 科研費による研究 平成27年6月19日
  2. ^ a b c 『実用日本語表現辞典』
  3. ^ a b c d 山根寛 2001.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y 大田俊寛 (2018年9月28日). “社会心理学の「精神操作」幻想 ~グループ・ダイナミックスからマインド・コントロールへ~”. 科研基盤研究A「身心変容技法の比較宗教学-心と体とモノをつなぐワザの総合的研究」(2011年度-2014年度)身心変容技法研究会. 2020年5月18日閲覧。
  5. ^ 三省堂『大辞林』
  6. ^ 西田公昭 講演『マインドコントロールとは何か』 1995年、カルト被害を考える会
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 櫻井義秀 1996.
  8. ^ a b c d e f g h i j k 櫻井義秀 2003.
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  10. ^ ロバート・ジェイ・リフトン思想改造と全体主義の心理学英語版』、1981年ISBN 9780807842539ISBN 9780393002218ISBN 9781614276753
  11. ^ a b c d e f g h i j 櫻井義秀 1997, p. 115.
  12. ^ 紀藤正樹(著)『21世紀の宗教法人法』(朝日新聞社 1995年11月 ISBN 978-4-02-273068-8
  13. ^ 宗教社会学の会(編) 『新世紀の宗教―「聖なるもの」の現代的諸相』(創元社 2002年11月)ISBN 978-4-422-14022-3
  14. ^ a b スティーヴン・ハッサン浅見定雄 (訳) 『マインド・コントロールの恐怖』(恒友出版 1993年6月) ISBN 978-4-7652-3071-1
  15. ^ 西田公昭・黒田文月 2003.
  16. ^ 櫻井義秀 2012, p. 8.
  17. ^ 櫻井義秀 1997, p. 117.
  18. ^ 青春を返せ訴訟判決文
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  20. ^ 小林惠智『マインド・コントロールのすすめ―そのメカニズムと積極的活用法』(1995年11月)ISBN 978-4-7698-0737-7
  21. ^ マデリン・ランドー トバイアス (著), ジャンジャ ラリック (著), Madeleine Landau Tobias (原著), Janja Lalich (原著), 南 暁子 (訳), 上牧 弥生 (訳) 『自由への脱出―カルトのすべてとマインドコントロールからの解放と回復』(中央アート出版社 1998年9月) ISBN 978-4-88639-870-3
  22. ^ 榛 2010, pp. 20–21.
  23. ^ 『統一教会の検証』
  24. ^ 『週刊金曜日』1994年5月13日号 p20~25
  25. ^ 『週刊金曜日』1994年5月20日号 p36~40
  26. ^ 『「マインド・コントロール理論」その虚構の正体ー知られざる宗教破壊運動の構図』
  27. ^ 赤旗社会部pp.30-35「ライフトレーニング」
  28. ^ a b c d e f g 赤旗社会部pp.25-30「合宿セミナー」
  29. ^ a b 赤旗社会部pp.78-86「献身生活」
  30. ^ a b c d コーワン・ブロムリー 2010, pp. 123–125.
  31. ^ コーワン・ブロムリー 2010, pp. 116–119.
  32. ^ a b c d e f g h i コーワン・ブロムリー 2010, pp. 120–125.
  33. ^ a b c 櫻井 2005.
  34. ^ a b c d e f 米本 2010, pp. 62–69.





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