SARS-CoV PLpro阻害剤
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 14:33 UTC 版)
「パパイン様プロテアーゼ」の記事における「SARS-CoV PLpro阻害剤」の解説
一般に酵素阻害剤とは、酵素に結合してその活性を低下させる分子のことであり、SARS-CoV PLproの場合、このタンパク質の阻害剤として機能する可能性のあるさまざまな産物や化合物を見つけるために、いくつかの研究が行われてきた。各阻害剤は、IC50値(値が低いほど、酵素に対する阻害剤の効力が高い)によって酵素との親和性を特徴づけ、さまざまな阻害剤を比較することができる。 SARS-CoV PLpro阻害剤の主な種類と、それぞれの主な例を示す指標の種類説明例設計された酵母を用いたスクリーニングによる同定 2011年、Frieman,M.が率いる研究グループが、SARS-CoV PLproを出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のコロニーで発現させて行った実験で初めて報告された。 NSC158362:細胞培養において、細胞毒性を伴わずにタンパク質の複製を特異的に阻害することができる化合物であるが、PLproのプロテアーゼ、脱ユビキチン化酵素、抗インターフェロン機能を阻害することはできない。 NSC158011:細胞アッセイでPLproのプロテアーゼ活性を阻害できるが、複製能力を阻害することはできない化合物。 チオプリン化合物 これらの化合物はチオカルボニル化合物で、SARS-CoV PLproの競合的、可逆的、選択的阻害剤として機能する。これらの化合物は、Chou, J.K.が率いる研究グループによって発見されたもので、阻害剤となる可能性のある化合物960種類から開始した。 6MP 6TG いずれも、DNAに結合して細胞の複製を妨げる働きがあるため、現在、白血病の治療に使用されている。さらに、その抗癌性と急性毒性から、将来のPLproの酵素阻害剤として最も有望な選択肢の一つとなっている。 天然物阻害剤 SARS-CoVの活性を阻害することが確認されている天然由来の集まり。 トランシノン: Park, J.Y.が率いる研究グループが発見した。Park, J.Y.らは、連続フルオロメトリック・アッセイを用いて、SARS-CoV PLproの活性をIC50値が0.8-30.0 μMの範囲で阻害できるトランシノンを同定することができた。その阻害力の源泉は、酵素に迅速に結合することによると考えられている。この結合により、タンパク質のコンホメーションをゆっくりと異性化および修飾する複合体が形成されることが観察されている[訳語疑問点]。 ジアリールヘプタノイド(英語版): Park, J.Y.Mによる同じ研究で、連続フルオロメトリック・アッセイでも確認されている。発見された最も強力な阻害剤ジアリールヘプタノイド(IC50=4.1)は、α,β-不飽和カルボニル基を持つことが確認されており、システイン残基の活性面と共有結合を形成することによって酵素の阻害が起こる可能性が示唆された。 ゲラニル化フラボノイド: これらは、Cho, J.K.が率いるフルオロメトリック研究で、酵素調節機能と初めて結び付けられた。具体的には、既知の7種類のフラボノイドと5種類の新規誘導体が、SARS-CoV PLproに対して5.0-14.4 μMのIC50値でマイクロモルの阻害作用を示した。 亜鉛イオン(Zn2+) Han, Y.S.らは、ナノモル濃度のSARS-CoV PLproを用いた阻害剤スクリーニングプラットフォームを用いて、亜鉛イオン(Zn2+)とそのコンジュゲート5種がPLproのプロテアーゼ活性を阻害することを確認した。同じ研究で、Mg(II)、Mn(II)、Ca(II)、Ni(II)、Co(II)などの他の金属イオンとそのコンジュゲートの阻害機能についても同様の手順で試験を行った。上記のいずれも、10 μMの濃度で試験した場合、SARS-CoV PLpro活性に対する阻害効果は認められなかった。それでも、Cu(II)はプロテアーゼ活性の70%の阻害剤として作用することがわかった。 Zn2+イオン: SARS-CoV PLproのプロテアーゼ活性を1.3 μMのIC50で阻害することができる。 N-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸– Zn(II): IC50が3.3 μMの亜鉛イオン(Zn2+)コンジュゲート。 ヒドロキシピリジン-2-チオン-Zn(II): IC50が3.7 μMの亜鉛イオン(Zn2+)コンジュゲート。 ナフタレン系阻害剤 ナフタレンクラスの阻害剤は、Ratia K.が主導した研究により、SARS-CoV PLproの阻害効果を検証するため行われた約50,080の化合物を対象としたハイスループットスクリーニング(HTS)によって初めて発見された。発見された最も強力なナフタレン系阻害剤(7724772)は、ラセミ体として同定され、その類似体を合成して、化合物の構造を変更した場合の効果が調査された。これらのバリエーションは、ベンゼン環のメタ位およびオルト位に異なる置換基を付加し、1-または2-ナフチル位の結合を変更したものである。最後に、ベンゼン環上のアミドのメタ位に窒素置換基を付加すると阻害力が低下し、アミン環上の同じ位置に同じ基を加えるとSARS-CoV PLpro酵素に対する阻害力が高まることがわかった[訳語疑問点]。その結果、7724772よりもはるかに強力な阻害剤24を作成することができた。 膨大な数の阻害剤が確認されたが、最も有望なのは次の2つである。657781: IC50値が59 μMであった。 7724772: IC50値が20.1 μMであった。 どちらの化合物もナフチルメチルアミン部分を含んでいるのは興味深いことである。 阻害剤24(化合物GRL0617): 7724772で行った実験的研究から合成され、IC50が0.6±0.1 μMという特徴を持つ。さらに、ウイルス細胞におけるSARS-CoV PLproのウイルス活性を、EC50が14.5±0.8 μM、Kiが0.49±0.08 μMで阻害することも確認された。したがって、SARS-CoV PLproの非常に強力な(非共有結合的かつ競合的な)阻害剤と見なすことができる。 要約すると、これまでに発見された最も強力な阻害剤は、阻害剤24(化合物GRL0617としても知られている)を含むナフタレン系阻害剤である。これらの阻害剤の効力は、SARS-CoV PLproに対する阻害剤の設計に成功したことを意味し、抗ウイルス活性を備えることは、将来の他のコロナウイルスに対しても同様の特性を持つ阻害剤を設計できる可能性がある。
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