ESOPの意義と目的
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/23 00:50 UTC 版)
ESOPは、単に従業員が雇用者株式を所有することを指すものではなく、自由と私有財産制に基づく公正な資本主義運営を個別の企業の自助努力により実現することを目的とする制度である。 ESOPが最初に実現したのは1956年といわれるが、「ESOPについて考え始めたのは、大恐慌の底1931年である。」と発案者であるルイス・ケルソ(英語版)は語っている。ここで、ESOPの出発点は、米国資本主義経済が自壊する様を目の当たりにして発せられた、『資本主義とは何か』という問いにあったことが明らかにされる。(ケルソの資本主義に対する問いは、モーティマー・アドラーとの共著であるThe Capitalist Manifesto他において詳細が明らかにされている。) この本源的な問いに「一つの明快な回答を提示し、さらにこの資本主義システムが不用意に用いられるときに起きる『富の偏在』がもたらす、社会構造に対する破壊的な挑戦(民主主義体制の崩壊、全体主義・国家支配へと向かう社会主義的性向、あるいは混合経済体制の左傾化と官僚の腐敗による社会的不公正と経済の不安定性)から、資本主義を救済する手段」としてケルソが提示したのが、『ESOP=従業員による株式所有を実現する計画』であり、富の創造源である資本そのものを公平かつ正当に分配することによって、経済格差を是正し、資本主義の前提である自由と民主主義を実現するための究極的な手段である。 ケルソ自身は、自由と民主主義の前提に拘って、この手段を制度的強制に依らず、各企業が個別に用いることで資本主義的革命(capitalist revolution)を進行させることを説いている。この革命が目標とする具体的成果は、人間労働力の資本に対する相対的劣後に起因する雇用の減少に対する需要の確保(インフレ、デフレ、バブル等の発生を抑え、経済変動を安定化させること)と、法人所得の個人への広範な分配を可能にすることに基づく法人税率の引き下げ(これによる企業資本の競争力回復)である。これを実態に則して換言すれば、資本に労働者が従属する原始的状態からこの関係を逆転させ、労働者に資本を従属させることによって、労働組合や従業員代表制の法制化などの外部(政府等)の干渉によることなく、合法的かつ公正に労働者の(企業に対する)主権を回復し、同時に株式に付帯する権利を解放することによって、経済における人間性の復権と資本の価値の回復を実現する手段として提起されたものである(『資本主義宣言』)ということを意味する。 したがって、各企業の株式は、労働者の成果分配の一環として、雇用者企業の負担において公正に労働者に分配されなければならず、雇用者企業は自ら株式を資本家から回収して労働者に分配するか、新たに獲得された富を資本化してこれを労働者に分配することが求められる。 これに抵抗する勢力は、ウォール街に表象される金融権力であるとされるが、ケルソ自身が、レバレッジドESOPはこの勢力を資本主義革命に引きずり込むための方便として設計されたが、結局金融権力によって矮小化されていることを告発している。金融批判として、ケルソは他の著述で、労働者が資本を取得する際の金融(ローン)は、中央銀行が積極的に「無利子で」行うべきだとしている。これは、資本の果実が、労働者にではなく金融業者に渡ってしまうことを防止するためである。 この他、企業がESOPの導入に抵抗するいくつかの理由として、利益水準が低いために導入コストに耐えられない、家族所有(ファミリービジネス)を崩したくない、従業員と経営陣が対立しているなどという企業実態が挙げられているが、M&A仲介業者などが、自分たちの手数料ビジネスを失いたくないために否定的であるというものもある。このように、証券仲介業者や投資銀行は総じてESOPに否定的である。 日本でのESOPの効用についての研究は少ないが、米国を中心に多数の実証的研究がなされており、これらの孫引き的なものではあるが米国の状況についてのいくつかの論文が存在する。
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