領空侵犯原因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 08:10 UTC 版)
ソ連政府によるブラックボックスの隠匿などにより、事件についての多くの疑問点が、冷戦が終結した1990年代まで解明されないままであった。しかしその後冷戦が終結したことを受けて、1991年11月にパリで行なわれた国際テロ対策会議においてオレグ・カルーギンソ連国家保安委員会 (KGB) 議長顧問が、「この事件の詳細を日本側に報告する」と佐々淳行(元 初代内閣安全保障室長 同事件発生当時、防衛庁(現 防衛省)長官官房の官房長として対応に関与していた)に表明した。 その後、実際にロシア政府は回収を秘匿していた007便のブラックボックス(上記のように、記録は墜落の11分前で途切れていた)をICAOに提出し、合わせて残された遺品の遺族たちへの引渡しを行った。ICAOはこれを高い解析技術を持つ第3国であるフランスの航空当局に提出、解析を依頼し、その結果をもとに調査の最終報告をまとめた。 それによると、航路逸脱の原因は以下のいずれかとされた。どの仮説が正しいかは、証言できる者が生存しておらず不明のままである。しかし、いずれにしろ007便の機長と副操縦士によるヒューマンエラーが原因であることは確かである(上記のように、後続の015便との風向きの違いに気づきながら、コース逸脱とは考えなかった)。 慣性航法装置の入力ミス説 航路は、通過地点を順に慣性航法装置 (INS) に打ち込むことで設定するが、経度のみ(もしくは、緯度のみ)がずれて打ち込まれたのではないか、または、出発地の座標が誤って打ち込まれたのではないかなどとする説。 慣性航法装置の起動ミス説 慣性航法装置は飛行前にジャイロを安定させる動作(アライン)が必要である。この動作から実際のナビゲーションを始めるまでにスイッチの切り替えをするが、切り替え前に機体を動かしたのではないかとする説。 慣性航法装置の切り替えミス説 航路に乗るまでHDGモード(方位のみを指定する自動操縦、方位角モード)で飛行し、航路に乗ってからはNAVモード(事前に入力した地点に向かい飛行する自動操縦、誘導モード)にするはずが、乱気流もしくは積乱雲回避のためにHDGモードのまま、NAVモードに切り替えなかった、もしくはHDGモードに切り替えたが、所定の航路から7.5マイル以上離れていたために機械が切り替わらなかったとする説。実際に、切り替え忘れのために日本航空機が航路を逸脱した事例がある。 なお、007便のボイスレコーダーには機長と副操縦士、航空機関士があくびを繰り返すのが記録されていることから、設定ミスもしくは切り替えミスに気づかなかった原因として疲労によるヒューマンエラーを指摘する声もある。実際に3人の運航乗務員は、事故前にソウル→アンカレッジ→ニューヨーク→トロント→アンカレッジという勤務スケジュールであり、休養も取っていたが、ジャーナリストの小山巌は著書で、「時差に疲れて休養を取るというのは、単に眠ればよいという単純な時間のつじつま合わせでは解決しない」と述べており、乗員らは時差ぼけが抜けきらなかった結果、注意力が散漫になった可能性がある。 なお、ICAOの最終報告書は、日本の遺族には原本のコピーのみが手渡され、日本国政府は「ICAOによる調査の中立性、一貫性を失う恐れがある」として、公式の日本語翻訳は作成していない。ボイスレコーダーの音声は、小山巌がICAO本部へ出向いて聞き、著書『ボイスレコーダー撃墜の証言』に日本語訳を収録した。
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