静的期待のもとでの最適通貨圏の理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/14 14:54 UTC 版)
「最適通貨圏」の記事における「静的期待のもとでの最適通貨圏の理論」の解説
マンデルが1961年に発表した研究が最も経済学者に引用されるものである。ここでは非対称的ショックが実体経済を害するものだとされており、もし非対称的ショックがあまりにも重要でコントロール不可能であるならば、変動為替相場制のほうが良いと考えられる。 なぜならば、共通通貨圏における共通の中央銀行による金融政策(利子率)を、それぞれの地域の個々の状況に対して適切な水準に設定することが非常に難しくなるであろうからである。 しばしば引用される最適通貨圏を構成するための4つの基準は次のようなものである。 その地域における労働者の移動性。これには物理的な移動が可能ということ(ビザ、労働者の権利など)、自由な移動を妨げる文化的障壁がないこと(言語の違いなど)、そして制度調整(例えばその地域で年金受給が可能である場合、その年金が地域どこでも移転可能であること)が含まれる。 資本移動、価格、および賃金の柔軟性がその地域において解放されていること。これは自動的に貨幣と財を求められているところに配分する需要と供給の市場調整力のためである。実際には、真の賃金の柔軟性は存在しないので、これは完全に働くことはない(ロナルド・マッキノン)。ユーロ圏の国々は、域内での貿易が多くなっており(域内貿易は域外貿易よりも大きい)、最近の「ユーロの持つ効果」に関する実証分析では、単一通貨の導入によってユーロ圏の貿易は、非ユーロ圏と比較して、5~15%増加したと言われている。 リスクの共有システム、例えば、上記の最初の2つの基準に対して不利な影響を受ける地域・セクターに対する資金の再分配を目的とした、自動的に財政移転が行われる仕組み。これは通常、発展の遅れている地域・国への租税移転の形をとる。この政策は、理論的には受け入れられているものだが、政治的に実行することが難しい。なぜなら富裕な地域が自身の歳入を簡単に放棄することはほとんどないからである。名目上は、ヨーロッパの安定・成長協定に非救済条項が定められており、これによれば財政移転は許されない。しかし、2010年の(政府債務に関連した)欧州債務危機においては、非救済条項は2010年4月に実質的に放棄された。 参加国が似た景気循環を有していること。単一通貨圏に参加している国のうち、あるひとつの国が景気過熱や景気後退を経験しているときに他の国が追随する傾向にあるなら、これは域内共通の中央銀行が、景気後退局面において経済成長を促進し、景気過熱の局面ではインフレーションを制御することを可能にする。単一通貨圏の一部の国々が特有の(他の国々とは違う)景気循環を有しているなら、最適な金融政策はバラバラになってしまい、そのため参加国は共通の中央銀行のもとでは悪化する可能性がある。 ただし、1960年代以降、最適通貨圏の条件は段階的に進化しており、学者によって重点の置き方に差異がある。伊藤(2003)によれば最適通貨圏の条件とはつぎの6つである。 域内諸国間の産業構造の類似性、あるいは構成国1国当たりでの産業構造の多様性 経済の開放度と域内貿易依存度の高さ インフレ率の収斂 生産要素価格の伸縮性 生産要素の移動性の高さ 域内諸国間の公的所得移転の高さ(財政の統合) なお、その他の条件も提案されており、それは以下のものである。 生産の多様化(ピーター・ケネン) 同質性への選好 運命の共通性 (「連帯 Solidarity」)
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