醜女
『吹取』(狂言) 男が清水観音に妻乞いの祈願をする。観音は男に、「月夜に五条の橋に出て笛を吹け。その音に連れて出て来る女を、妻として授けよう」と夢告する。男は笛が吹けぬので、笛の上手な知人に吹いてもらう。被衣(かづき)姿の女が現れ、喜んだ男が夫婦の対面をしようと女の被衣を取ると、それはたいへんな醜女だった〔*→〔釣り〕2aの『釣針(釣女)』、→〔謎〕3の『二九十八』も同様に、神仏に妻乞いをして被衣姿の女を得るが、醜女だったので男は逃げる〕。
『妖虫』(江戸川乱歩) 殿村京子の母は醜婦ゆえ離縁され、縊死した。京子も醜貌であり、母から「お前は結婚するでない。この母が良い見せしめだ」と言われて育つ。周囲の嘲笑の中で成長した京子は、浮浪者と関係して不具の女児を産み落とし、その浮浪者にさえ捨てられる。京子は美しい顔の女を呪い、ミス・ニッポンの女優、ミス・トウキョウの女学生を殺す。
『かるかや』(説経)「高野の巻」 大唐の帝の娘が、他の帝と祝言するが、三国一の醜女であったため送り返される。父帝は娘をうつほ舟に入れて西の海に流す。讃岐国のとうしん太夫が、筑羅が沖でうつほ舟を拾い上げ、彼女を養女(または下女)とする。あこう御前と呼ばれるこの女が、弘法大師の生母である。
『古事記』中巻 垂仁天皇は、丹波からヒバスヒメ・オトヒメ・ウタゴリヒメ・マトノヒメの4姉妹を召した。しかし姉2人をとどめ、妹2人は醜かったので本国へ帰した。マトノヒメは恥じて、山代国の弟国(乙訓郡)で淵に落ちて死んだ。それでその地をオチクニと名づけ、今では、オトクニと言う。
*醜貌でも帰されない花嫁→〔ほくろ〕1aの『武家義理物語』巻1ー2「ほくろは昔の面影」。
『醜女(しこめ)の深情』(セネット) 億万長者が死に、姪にあたる肥って醜い田舎娘が、莫大な遺産を受け継ぐことになる。それを知った都会の悪党が、美しい情婦と手を切って、田舎娘に結婚を申し込む。ところが億万長者の死は誤報で、田舎娘は財産を得られなかった。すると悪党はあっさり田舎娘を足蹴にする。情婦は田舎娘を気の毒に思い、2人は「あの男は私たちの共通の敵なのよ」と言って抱き合う〔*20代のチャップリンが、悪党を演じている〕。
『今昔物語集』巻3-14 天竺・舎衛(しやゑ)国の波斯匿(はしのく)王と末利夫人(まりぶにん)との間に生まれた娘は、膚は毒蛇のごとく、身は臭く、類まれな醜さだった。王は娘を「金鋼醜女」と呼んだ。父王の催す法会にも、醜さゆえ参列できぬ彼女は、釈迦牟尼仏に祈り、仏の相好にも等しい美女となった。仏は、彼女が醜く生まれた因縁を説いて聞かせた→〔因果応報〕2。
『神道集』巻2-6「熊野権現の事」 天竺・摩訶陀(まかだ)国の善財王には、千人の后がいた。千人のうち、源中将の娘で五衰殿の女御と呼ばれる后が、一番の醜女であった。彼女は、背丈3尺の千手観音を身近に祀(まつ)り、祈ったおかげで、三十二相八十種好の美貌を備えた金色身になる。以後、五衰殿の女御は善財王の寵愛を一身に受け、王子を身ごもった〔*類話の『熊野の御本地のさうし』(御伽草子)では、五衰殿の女御はもともと美女である→〔一夫多妻〕3〕。
『ガラスの仮面』(美内すずえ) 劇作家尾崎一蓮は、自らの作「紅天女」の主役をやれるのは月影千草以外にいない、と公言し、死ぬ時、月影千草に上演権利を与える。月影千草は「紅天女」を演じ続けるが、舞台上のライトが落ちて彼女は顔を傷つけ、女優生命を絶たれる。月影千草は身を隠し、自分の代わりに「紅天女」を演じることのできる女優を捜す。
『東海道四谷怪談』(鶴屋南北)「浪宅」 産後の肥立ちが悪く床についたお岩のもとに、隣家の伊藤喜兵衛から「血の道の薬」が届けられる。薬を呑んだお岩は熱を発して苦しみ、やがて面体がくずれていく。
★4b.一人の男を巡る四人の女の顔半面が、病気・火傷・怪我などで醜く変貌する。
『真景累ケ淵』(三遊亭円朝) 富本の師匠・豊志賀は、若い愛人・新吉(*→〔蒲団〕6)と弟子のお久との仲を嫉妬するうち、顔半面に腫物ができ、醜く爛れる。豊志賀は、新吉を呪いつつ死んでゆく。新吉とお久は駆け落ちするが、お久の顔が豊志賀そっくりに見えたため、新吉はお久を殺してしまう(*→〔鎌〕1)。その後、お久の親類のお累が新吉の妻となる。彼女は薬罐の熱湯を浴びて、顔半面に紫色の火傷痕が残る。新吉は、名主の妾お賤を異母妹と知らず夫婦になって、盗みや人殺しをする。悪事の報いで、お賤は顔を石で打たれ、半面が紫色の痣になる。
『BU・SU』(市川準) ひねくれた性格の森下麦子は、母親を嫌い、東京の伯母のもとへ身を寄せて、芸者になる修行をしつつ高校へ通う。慣れない東京で、麦子は先輩芸者にも高校のクラスメートにも、心を閉ざした。しかし文化祭で八百屋お七を踊ることになり、麦子の心構えが変わった。麦子は伯母の指導を受け、真剣に稽古に取り組む。本番では、大道具の梯子が折れて麦子が転落する、というアクシデントがあったが、母親と麦子は、「東京どうだった?」「面白いと思う。いろんな人がいる」「学校は、どう?」「うん、行ってる」と、話し合えるようになった。
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