薬物輸送システムとは? わかりやすく解説

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ドラッグデリバリーシステム

別名:薬物伝達システム、薬物輸送システム、薬物送達システム
英語:Drug delivery systemDDS

薬剤動態量的空間的時間的に制御し目標患部病原体などに的確かつ集中的に作用させる技術薬物動態学における研究対象である。

ドラッグデリバリーシステムに該当する例多岐にわたるが、薬剤を膜などで包んだり、ナノテクノロジー利用した専用カプセル用いたりして、体内徐々に放出徐放)させ、薬剤目的部位まで届けシステムはその一例である(放出制御DDS)。また、薬剤コーティング工夫することにより、胃酸による分解を防ぐとともに、腸での吸収効率化することが目指されることもある(吸収制御DDS)。吸入により肺や気管支直接薬剤作用させるなど、経口投与注射よりも効率的な投与方式選択がドラッグデリバリーシステムの定義に含まれることもある。

ドラッグデリバリーシステムの中でも近年特に盛んに研究が行われているのが、「標的指向型DDS」と呼ばれるシステムである。標的型DDSにもさらに細かい分類があるが、中でも能動的標的指向型DDSミサイルドラッグDDS)」と呼ばれているシステムは、抗体糖鎖などを用いて薬剤標的認識機能付与することを軸としたシステムである。このシステムでは、薬剤がん細胞病原体細胞のみに特異的に作用させることが目指されている。

ドラッグデリバリーシステムの利点としては、必要量上の薬剤投与避けることができる点が挙げられる。これにより、薬剤効果最大限発揮させるとともに副作用抑制することが可能になるまた、服用回数少なくすることができる場合もあり、それによって患者医療関係者双方負担減少する

医薬品の他には、化粧品にもドラッグデリバリーシステムの手法が応用されている例が多い。

ドラッグデリバリーシステム

(薬物輸送システム から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/27 06:21 UTC 版)

ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System, DDS)とは、体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする薬物伝達システムのことである。薬物輸送(送達)システムとも呼ばれる。

ロバート・ランガーはDDSの功績によりチャールズ・スターク・ドレイパー賞を受賞した。

メリット

この技術を使うことにより期待されることは大きく以下の5つに還元できる。

  1. 薬物作用の分離 - 特定の作用だけを取り出す、または抑え込む。
  2. 効果の増強/発現 - 効果がより的確なものとなり、再現性も向上する。投資量の削減や適用拡大(新しい効能の発現など)が期待できる。
  3. 副作用の軽減 - 安全域の拡大を図ることにより、QOLを改善し、患者の負担を軽減する。また、副作用から製薬化が頓挫した化合物を薬として復活させることもできる。
  4. 使用性の改善 - 患者および医療従事者の負担を軽くし、薬物の服用指示違反(コンプライアンス不順守)問題の解消につながる。
  5. 経済性 - 製品のライフサイクルの延長、差別化が図れる。また、医療費や関連費用の削減ができる。研究・開発の効率化が期待できる。

種類

大別すると、標的指向型DDS、放出制御型DDS、吸収制御型DDSの3種類がある[1]。標的指向型は更に、能動的薬物送達系と受動的薬物送達系に分けられる[2]

  • 能動的薬物送達系:薬物運搬体に抗体や糖鎖などを結合させて標的組織への指向性を制御する。
抗体、糖結合、 ホルモン結合、 受容体結合、 抗体薬物複合体融合タンパク質
  • 受動的薬物送達系:薬物運搬体の粒子径や親水性などの物理化学的性質を利用して薬物の体内動態を制御する。
プロドラッグ、ポリエチレングリコール修飾、高分子ミセル、リポソーム、マイクロカプセル、シクロデキストリン、ナノ粒子等
薬物を含む粒子の径[3]
粒子(リポソーム[4]ミセル[5])の径のこと。
  • 直径150nm以下の小さな粒子を皮下投与すると、毛細血管壁を通過できないが毛細リンパ管には侵入できる。リンパ管は癌転移や細菌感染の主な経路であるので、抗がん剤や抗生物質を投与する際に適している。
  • 直径100nm以下の粒子を静脈内に投与すると、腫瘍組織内の新生血管は壁が粗いので、血管壁を通過する。従って粒子が高濃度に腫瘍内に集積する。
  • 直径5μm程度の粒子を静脈内投与すると、毛細血管を通過できないので肺に粒子が集積する。
抗体等の使用
トランスフェリンレセプターや他の腫瘍特異抗原に結合する物質(トランスフェリンや各種抗体)を粒子表面に固定すると、粒子は目標組織に高濃度に集積する。
徐放製剤
そのままでは短時間で吸収・分解されてしまう薬物を長時間にわたって一定の速度で放出し、体内への供給を持続させるよう工夫された製剤。
経皮吸収
経皮吸収剤では、そのままでは吸収されにくい薬物をより多く吸収させるためのデリバリーシステムが開発されている[6]
経皮吸収を促進させる技術として、電流を使ったイオン導入や超音波を使った超音波導入[7]、極小針で皮膚に穴をあけるマイクロニードルがある[8]

出典

  1. ^ 【DDSの現状と展開】第2回 「DDSの3大テクノロジー」|薬事日報ウェブサイト”. 2022年1月4日閲覧。
  2. ^ Papaka, Mamaka (2021年3月8日). “受動的ターゲティング(Passive Targeting) | ちょっと新しいドラッグデリバリーシステム(DDS)”. common-pharm-sci.net. 2022年1月4日閲覧。
  3. ^ 患部を狙い撃つためのDDSによるターゲティング”. 2014年10月9日閲覧。
  4. ^ トランスフェリンを用いたがん細胞へのターゲテイング(Active Targeting)”. 2014年10月9日閲覧。
  5. ^ ミセル化ナノ粒子(高分子ミセル)”. 2014年10月9日閲覧。
  6. ^ ILTS~独自の経皮製剤技術~”. 2014年10月9日閲覧。
  7. ^ 杉林堅次「新しい経皮投与法イオントフォレシス」『ファルマシア』第37巻第5号、2001年、385-387頁、doi:10.14894/faruawpsj.37.5_385NAID 110003644857 
  8. ^ 杉林堅次「薬物の皮膚透過促進とコントロールドリリース」『Drug Delivery System』第31巻第3号、2016年、201-209頁、doi:10.2745/dds.31.201NAID 130005433005 

関連項目

  • プロドラッグ (: prodrug) - ある薬物に、別の分子を化学的に付加して作られた物質。そのままでは薬効を示さず、付加された分子が体内の酵素によって外れると元の薬物に戻る。直接投与すると吸収されなかったり、副作用が現れる薬物をプロドラッグ化することにより使用性の改善を図っている。
  • アンテドラッグ(: antedrug) - 局所に投与して効果が現れたのち、すばやく代謝され副作用の少ない物質に変わる薬物(出典:薬学用語解説 アンテドラッグ”. 2014年10月19日閲覧。
  • スマートポリマー: Smart Polymers) - 外部からの刺激に応答してその性質を変化させる高分子材料の総称であり、生体内の特異的な環境(標的分子やタンパク質、DNAなど)に応答して薬剤を放出するDDS基材への応用が期待されている。

外部リンク



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