第3部 山椒魚戦争
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/06 19:12 UTC 版)
山椒魚は実はこれ以前から人と戦った歴史をわずかながら持っていた。また、各国が次第に山椒魚に武装させ、海面下で小競り合いが起こるようになった。すでに山椒魚の個体数は人間を遙かに超え、人間社会は山椒魚に強く依存するようになっていた。それを危惧する識者も現れ、山椒魚は危険だと標榜する怪文書が出回る。 そうしたある日、アメリカ海岸線で大規模な地震が起き、陸地が広く水没した。続いて中国、アフリカと同様な事件が起こった。地球の火山活動が活発化し、地殻が破壊しはじめたと、世界中で憶測による報道がなされた。そんな折り、世界中のラジオの電波を妨害するような強力な電波がどこからか発せられた。世界中の人間は、そのラジオ放送の声に耳を傾ける。があがあとした蛙のような声は、「ハロー、ハロー、ハロー、山椒魚総統(チーフサラマンダー)が話されます」と言った。続く山椒魚総統の声明。「地震により失われた人命に哀悼の意を表明する。我々は犠牲は求めない、指定する海岸から人間は立ち退いてもらいたい。そうすれば、無駄な死は避けられる」と。地震はすべてが山椒魚により引き起こされたこと、それは単に技術テストであったこと、山椒魚には浅い海域がより多く必要であるため、今後は本格的に海底を増やすこと。「海底を切り開くための鋼鉄や爆薬を人間は供給してほしい、地上世界を解体するために人間は山椒魚に協力してほしい」。悪びれもせずに言われた言葉のあとには、人間のラジオ放送をなぞるように、人類がつくったヒットソングまで流れ、不気味なほど悪意は不在だった。もちろん、西側諸国やアメリカを中心とした各国はこれに反発し、軍艦を出撃するなど山椒魚への軍事行動を試みるが、あっけなく撃沈されてしまう。さらに山椒魚たちは、人間の航路や運河をことごとく封鎖し、人類は窮地に立つ。これが戦争と言えるなら、まことに奇妙な戦争だった。各国は山椒魚に宣戦布告しようにも、山椒魚国家も政府も存在しないからだ。人類が山椒魚を便利に使っている間に、山椒魚たちは、世界人口の7~20倍にも増加しており、海底には工場、石油坑、海草農場、ウナギ養殖場、水力その他自然動力源の利用設備などが揃い、山椒魚たちはそれを意のままに操れるようになっていた。人間が水に毒を流して山椒魚を駆逐しようとすると、山椒魚は報復として毒ガスにより人類を苦しめた。このように山椒魚は人間文明のすべてを継承していたのである。山椒魚は、人間に対し、海中でふんだんに採れる金(きん)と引き換えに、陸地を売れと交渉する。交渉は決裂するが、選択の余地はなく都市は次々に海底に消えていった。 そして、引退したポヴォンドラ氏の元にも山椒魚と水没の影が迫り、「自分が面会を許可したせいでこんなことになった」というポヴォンドラ氏の嘆きが入る。 物語はほぼここで終了し、11章では作者の「いずれ山椒魚たちは内戦を始めて滅亡し、人類は九死に一生を得るだろう」というメタフィクション的な自問自答が挿入され、山椒魚たちの未来も必ずしも明るくはないことが示される。だが、本編末尾は「(山椒魚たちが滅びたあと)そこから先は、僕にもわからないさ」の一文で終わり、山椒魚が滅びても人類の未来は明るいとは限らないことを暗喩して、物語は終わる。
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