短調による12の練習曲
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短調による12の練習曲 作品39 全曲 | |
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短調による12の練習曲(Douze études dans tous les tons mineurs)作品39は、シャルル=ヴァランタン・アルカンによって作曲され、1857年に出版されたピアノのための練習曲集。全12曲からなり、フランソワ=ジョゼフ・フェティスに献呈された。
タイトル通り全12曲が短調で構成され、「長調による12の練習曲」作品35と対を成している(こちらもフェティスに献呈されている)。
楽曲
イ短調に始まり、下降五度循環によりニ短調、ト短調…変ホ短調、嬰ト短調(=変イ短調)を経て最後にホ短調となる。
- 第1番 イ短調 あたかも風のように(Comme le vent)プレスティッシマメンテ
- 第2番 ニ短調 モロッソのリズムで(En rythme molossique)リゾルート
- 第3番 ト短調 悪魔のスケルツォ(Scherzo-diabolico)プレスティッシモ
- 第4番 ハ短調 ピアノ独奏による交響曲(Symphonie pour piano seul)第1楽章 アレグロ・モデラート
- 第5番 ヘ短調 ピアノ独奏による交響曲 第2楽章 アンダンティーノ
- 第6番 変ロ短調 ピアノ独奏による交響曲 第3楽章 メヌエットのテンポで
- 第7番 変ホ短調 ピアノ独奏による交響曲 第4楽章 プレスト
- 第8番 嬰ト短調 ピアノ独奏による協奏曲(Concerto pour piano seul)第1楽章 アレグロ・アッサイ
- 第9番 嬰ハ短調 ピアノ独奏による協奏曲 第2楽章 アダージョ
- 第10番 嬰ヘ短調 ピアノ独奏による協奏曲 第3楽章 蛮族風のアレグレット
- 第11番 ロ短調 序曲(Ouverture)マエストーソ〜ラントマン〜アレグロ
- 第12番 ホ短調 イソップの饗宴(Le festin d'Ésope)アレグレット
楽曲(詳細)
『長調による12の練習曲』が全曲で1時間程度(フランツ・リストの『超絶技巧練習曲』などと同等)であったのに対し、この作品は全曲を演奏すると約2時間を要する、破格の規模を持つ巨大な曲集であり、またアルカンの培ってきた音楽語法やピアノ書法の一つの集大成とも言える作品である。森下唯は、「ピアノ表現の限界と、そしてまた自身の音楽表現の限界をも目指した」曲集と形容し、それが『練習曲』と題されていることについて「技巧そのものが音楽となり、音楽そのものが技巧となる、そんな究極の名技性の体現を目指したアルカンの誇りに満ちた宣言」と分析している。
『交響曲』や、『協奏曲』、『序曲』といった題名を見てわかるとおり、この曲集の特徴の一つとなるのが、ピアノによるオーケストラの響きの再現である。オーケストラ作品を思わせる指示もたびたび見られ、例えば第8番から第10番の『協奏曲』では、「ピアノソロ」と「トゥッティ」が書き分けられている。
演奏機会の多いとはいえないアルカン作品の中では、代表作として比較的取り上げられる機会も多く、全曲録音はロナルド・スミス、ジャック・ギボンズ、ミヒャエル・ナナサコフ(自動演奏)、ステファニー・マッカラム、ヴィンチェンツォ・マルテンポ、森下唯[1]が達成し、エゴン・ペトリ、ジョン・オグドン、レイモンド・レーウェンタール、ベルナール・リンガイセン、中村攝、マルカンドレ・アムランなどが抜粋を録音している。
参考文献
- 森下唯(2005) アルカン、縛られざるプロメテウス―― 同時代性から遠く離れて――
- William Alexander Eddie (2007) Charles Valentin Alkan: His Life and His Music Ashgate Publishing
脚注
- ^ “アルカン ピアノ・コレクション 3 《風のように》”. 森下唯公式ウェブサイト. 2021年8月25日閲覧。
外部リンク
- 12 Etudes in all the Minor Keys, Op.39の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- 短調による12の練習曲 - ピティナ・ピアノ曲事典
- Works for Piano Solo opp. 39-61 - Alkan Society - ディスコグラフィ
短調による12の練習曲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 16:02 UTC 版)
「マルカンドレ・アムラン」の記事における「短調による12の練習曲」の解説
2009年に全12曲が完成。曲集の名はアルカンの『短調による12の練習曲』を意識したものであり、本人によると曲集全体でアルカンとゴドフスキーへのオマージュとのこと。いずれの曲も大変難易度が高く、演奏至難な作品ばかりである。アムラン自身でさえ、インタビューで「作曲では楽器を使わないため、弾いてみるととても難しい」と語っている。当初作曲していた第1番『熊蜂の飛行による』と第11番『タンゴ』は撤回され、現在のものに差し替えられた。第2番、第5番、第6番、第8番、第11番、第12番はアムランの自作曲。全曲に本人の録音が存在し、発売されている。全曲を通しての初演は、2010年8月にドイツのフズム音楽祭で行われた。 第1番 イ短調『ショパンによるトリプル・エチュード』 "Triple Étude, after Chopin" (1992年完成)同年のフズム音楽祭で披露された。ゴドフスキーの構想を引き継ぎ、ショパンの練習曲からイ短調で書かれた作品10-2、作品25-4、作品25-11(『木枯らし』)の3曲を融合させている。 第2番 ホ短調『ベレニケの髪』 "Coma Berenices" (2008年完成)原題の "Coma Berenices" は「かみのけ座」のことであるが、アムランによれば星座には直接関係はなく、むしろ星座の名前の由来となったベレニケ2世の美しい髪に関係しているという。 また、単語の "coma" が「髪」のほかにも「昏睡」という意味も持っているため、明らかな誤訳であるものの、日本では『昏睡したベレニケ』と表記される場合もある。 第3番 ロ短調『パガニーニ=リストによる』 "after Paganini-Liszt" (1993年完成)『ラ・カンパネラ』の主題による。 第4番 ハ短調『アルカンの無窮動風練習曲による』 "Étude à mouvement perpétuellement semblable, after Alkan" (2005年完成)アルカンの『ピアノ独奏による交響曲 第4楽章』作品39-7と『両手ユニゾンのための練習曲』作品76-3、『イソップの饗宴』作品39-12による。 第5番 ト短調『グロテスクなトッカータ』 "Toccata grottesca" (2008年完成) 第6番 ニ短調『ピアノフォルテのための練習曲、スカルラッティを讃えて』 "Esercizio per pianoforte, Omaggio a Domenico Scarlatti" (1992年完成) 第7番 変ホ短調『チャイコフスキーによる左手のための練習曲』 "after Tchaikovsky, for the left hand alone" (2006年完成)チャイコフスキーの歌曲『子守唄』作品16-1による。 第8番 変ロ短調『ゲーテの魔王による』 "Erlkönig, after Goethe" (2007年完成)ドイツの詩人ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの『魔王』から着想を得て作曲された。 第9番 ヘ短調『ロッシーニによる』 "after Rossini" (1987年完成)ロッシーニの『踊り(ラ・ダンツァ)(英語版)』による。 第10番 嬰ヘ短調『ショパンによる(黒い想念のために)』 "after Chopin ("pour les idées noires")" (1990年完成)ショパンの『黒鍵のエチュード』作品10-5による。 第11番 嬰ハ短調『メヌエット』 "Minuetto" (2009年完成)本曲集の中では最後に完成した作品であり、偶然にも本曲の終止が次の『前奏曲とフーガ』の開始と似ていたため、アムランは「最も早くに書かれた練習曲と最も最後に書かれた曲がまるで一体化しているかのようにつながるのは、個人的には興味深いことだった」と述べている。 第12番 変イ短調『前奏曲とフーガ』 "Prelude and Fugue" (1986年完成)本曲集の中では最初に完成した作品であり、アムランにとっても最初の規模の大きな作品となった。1993年にカナダの出版社ドーベルマン=イッパン(英語版)から刊行された出版譜で、アムランは次のようにコメントした。「思い返してみると、このフーガはとりわけ当時学習していたブゾーニのピアノ協奏曲のタランテラ的な第4楽章とかなり共通するものがあるように思われる。この作品をこのように恐ろしいほど苛酷なヴィルトゥオーゾ的仕掛けの集合体にすることは決して意図してはいなかった。私は単に、むしろ滑稽で、ありふれたフーガ主題を展開し拡張する可能性をいくらか追求したかったのである。この作品は、自らの力で、私が当初思いもしなかった方向へと進み出したのだ! とでも述べておこう」。
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