現行のモデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 00:49 UTC 版)
2010年代には、典型的な種族Iの恒星であるほとんどのウォルフ・ライエ星は、大質量星が進化の過程で経る通常の段階であると理解されている。この過程は、赤色超巨星や青色超巨星の段階を経た後か、超大質量の主系列星から直接か、いずれかの形で訪れる。質量の小さな赤色超巨星だけがウォルフ・ライエ星に至る前に超新星爆発を起こすと予想されており、質量の大きな赤色超巨星は恒星大気を放出して高温に戻る。黄色超巨星や高光度青色変光星の段階で超新星爆発を起こすものもあるが、多くはウォルフ・ライエ星に至る。これらの星は、水素のほとんどを失ったり、核融合したりしており、現在は中心核でヘリウムやより重い元素を、寿命の終わりのごく短い期間だけ核融合している。 大質量の主系列星は、非常に高温のコアを作り、CNOサイクルによって急速に水素を融合させ、星全体に強い対流をもたらす。この対流によってヘリウムが表面に混合され、このプロセスは自転によって増強され、コアが表面よりも高速の自転をする差動自転によって増強されうる。また、このような星では、非常に若い年齢で表面の窒素の増加が見られるが、これはCNOサイクルによる炭素と窒素の割合の変化によるものである。恒星大気中の重元素の増加と輝度の上昇によって強い恒星風が発生し、それが輝線スペクトルの原因となっている。これらの星は、十分に高温になるとOf*と呼ばれるスペクトルを形成し、恒星風がさらに強くなるとWNhスペクトルとなる。このことから、WNh星の質量と光度の高さが説明できる。これらの星は、コアの水素が枯渇してくると、やがて高光度青色変光星に成長するか、あるいは混合が十分に効率的に行われていれば (例えば、急速な自転によって)、水素を持たないWN星に直接進化するかもしれない。 ウォルフ・ライエ星は、白色矮星へと衰えていくのではなく、より激しい結末を迎える可能性が高い。そのため、初期の質量が太陽の9倍以上ある星は、必然的に超新星爆発を起こすこととなり、その多くはウォルフ・ライエ星の段階で起こる。 ウォルフ・ライエ星が低温から高温に進化し、最終的にWO星となる、という単純な進化の流れは、観測結果から支持されていない。WO星は非常に珍しい存在で、一般的なWC星よりも光度も質量も比較的大きいことが知られている。他の説明として、WO星は最大級の大質量星からのみ形成される、あるいはWC期のヘリウムコア燃焼に対してWO期はそれ以降の元素核融合に相当し、爆発するまでに数千年という非常に短い終末期の段階にある、あるいはそれら両方である、などが出されている。WO型スペクトルが純粋に高温での電離効果の結果なのか、実際の化学組成の違いを反映しているのか、程度の差はあれど両方の効果が生じているのか、未だ明らかになっていない。 初期質量による恒星の進化の模式図 (太陽と同じ金属量の場合)初期質量 (M☉)進化系列超新星爆発のタイプ60倍以上 O → Of → WNh ↔ LBV →[WNL] IIn 45 - 60倍 O → WNh → LBV/WNE? → WO Ib/c 20 - 45倍 O → RSG → WNE → WC Ib 15 - 20倍 O → RSG ↔ (YHG) ↔ BSG (ブルーループ) II-L (or IIb) 8 - 15倍 B → RSG II-P 略称の解説: O: O型主系列星 Of: 窒素とヘリウムの輝線を見せる進化したO型星 BSG: 青色超巨星 RSG: 赤色超巨星 YHG: 黄色極超巨星 LBV: 高光度青色変光星 WNh: 水素の輝線を持つWN星 WNL: 晩期 WN型ウォルフ・ライエ星(およそWN6 - WN9) WNE: 早期 WN型ウォルフ・ライエ星 (およそWN2 - WN6) WC: WC型ウォルフ・ライエ星 WO: WO型ウォルフ・ライエ星 ウォルフ・ライエ星は大質量星から形成されるが、ウォルフ・ライエ星としての姿を見せるまでの間に、進化した種族Iの星は初期質量の半分以上を失う。例えば、ほ座γ2 Aは、現在太陽の9倍程度の質量であるが、誕生時は少なくとも40M☉の質量を持っていたとされる。高質量星は、形成される頻度が低く、寿命が短いため、非常に珍しい星である。このことは、ウォルフ・ライエ星自体が、最も質量のある主系列星からしか形成されず、ウォルフ・ライエ星である期間が大質量星の一生の中でも比較的短いフェーズであることから、極めて珍しい存在であることを意味している。これはまた、Ib/Ic型超新星がII型に比べて一般的ではない理由でもある。 WNh型星は、分光学的には似ているものの、実際には恒星大気を放出し始めたばかりの進化の浅い星であり、例外的に初期質量の多くを残している。既知の質量最大級の恒星は、O型主系列星ではなくWNh型星である。このような星は、星が形成されてから数千年後、おそらく周囲のガス雲を通して見えるようになる前までに、ヘリウムと窒素を表面に見せるようになる、というのが想定される状況である。別の説明としては、これらの星は質量が大き過ぎて通常の主系列星としては形成できないため、より極端過ぎないサイズの星が合体して生まれた結果である、とするものもある。 観測されたウォルフ・ライエ星の数や種類を単独星の進化だけでモデル化することが困難であることから、連星の重力相互作用によって起こされる質量交換が星の外層の損失を加速させることでウォルフ・ライエ星を形成するという説が有力視されている。WR 122 は、約3兆 キロメートル(約2,000天文単位)もの幅を持つ平らな円盤状のガスが恒星を取り囲んでおり、主星の外層を剥ぎ取った伴星が存在する可能性がある。
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