現代のメディアによる科学の伝達
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/08 20:46 UTC 版)
「サイエンスコミュニケーション」の記事における「現代のメディアによる科学の伝達」の解説
科学を公衆に伝える方法は多岐にわたるが、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのサイエンス・コミュニケーション論講師カレン・バルティチュードはそれらを3つのカテゴリに分けた。伝統的なジャーナリズム、ライブ(対面型)イベント、オンラインの交流である。 伝統的なジャーナリズム 新聞や雑誌、テレビ、ラジオなど。受け手の数について一日の長があり、ほとんどの人はこれらのメディアで科学的な情報を入手している。職業的なジャーナリストによって制作されるため、提供される情報は質が高い(正確に書かれ、見せ方が優れている)と考えられる。伝統的なジャーナリズムには論点を提起する役目もあり、政府の政策に影響力を持つことがある。短所としては、科学に関するニュースがひとたび主流メディアに流れたら、当事者の科学者がその伝え方をコントロールできないため、誤解や誤った報道を生みかねない点がある。またこの伝達方式は一方向であり、公衆との対話が起こりえない。さらにまた、ニュースの受け手が科学的背景の全体を理解できるとは限らないので、ニュース内容の範囲を狭めて限られたポイントにだけ集中させる場合が多い。しかし最近の研究では、新聞やテレビ局は「科学の公共圏」の中で広範なアクターを公の討論に引き込む役割を担っていることも示されている。 ライブイベント 例としては公開講座、博物館、科学館、討論会、サイエンスカフェ、サイエンスアート、サイエンスショー、サイエンスフェスティバル(英語版)がある。このスタイルの強みは、より個人的であることと、双方向的であるため科学者が公衆と交流できることである。また科学者が内容をコントロールすることも可能となる。不利な点としては、受け手の数が限られること、人的資源を集約する必要があり高コストであること、すでに科学に関心を持っている受け手にしか訴求しないことが挙げられる。 オンラインの交流 たとえばウェブサイトやブログ、ウィキ、ポッドキャストなどは科学コミュニケーションに用いることができる。ソーシャルメディアは言うまでもない。市民科学のプロジェクトでは、インターネットを通じて一般からデータ収集などの貢献を募ることがあり、オンラインによる科学コミュニケーションの一つの形を提示している。オンラインコミュニケーションは潜在的に巨大な受け手を持ち、科学者と公衆との直接的な交流が可能である。そのコンテンツはいつでも利用可能であり、科学者がコントロールすることもできる。また、受け手と送り手の選択によって一方向にも双方向にもコミュニケーションが行える。しかし、コンテンツがどのように受け取られるかをコントロールしづらいことや、常に管理とアップデートを行う必要があることは不利な点といえる。 公衆は面白い科学知識を求めるが、同時にそれが、リスク規制や科学技術ガバナンスに批判的に関与するために必要な種類の知識であることも期待するという研究がある。したがって、公衆に科学的な知識を伝えるときにはその側面を意識するのが重要である(たとえば、科学コミュニケーションとコメディを組み合わせるなど)。科学コミュニケーションの分野はまだ歴史が浅いため、公衆がどのように、またどういう動機で科学に関与するか、そして様々な形の科学コミュニケーションがそれぞれどのような効果を持つかを正確に突き止めるにはさらなる研究が必要である。とはいえ近年の研究は、メディアが科学者による科学的な説明をねじ曲げたり、売り上げのために科学ニュースをセンセーショナルに伝えるというような旧来の見方からは離れていっている。文脈主義的な、もしくは審議民主主義のフレームワーク[訳語疑問点]の下で研究を行う者にとって、科学とメディアの相互作用は複雑なプロセスである。科学とメディアを二つの社会的システム(またはサブシステム。ニクラス・ルーマンのシステム理論による)として捉え、それらの密接な関係を研究する研究者によれば、科学者の側もまた、一般社会への訴えかけを通じて研究資金を集めようと望み、積極的にメディアに露出しようとする。一方でメディアの側も、現代のリスク社会におけるリスクガバナンスへの市民参加を支援するために科学報道を行うことを重視している。
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