水流モデルの限界
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/26 16:33 UTC 版)
水流モデルには限界もある。電気と水の振る舞いの異なる部分について認識することがこのアナロジーを有効に使う上で求められる。 場(マックスウェル方程式、インダクタンス) 電子は電磁場を介して遠くに離れた電子を押したり引いたりすることができる。一方で、水分子は直接接触した分子にのみ力を与えられる。このため、水中での波は音速で伝わるが、電荷の海を伝わる波の速度は音速よりずっと速くなる。また、水流ではエネルギーは水が波として伝えていくが、電気の場合には、電線のまわりの電磁場がエネルギーを伝えるのであって、導線中をエネルギーが伝わるわけではない。また、加速を受けている電子は、磁気力の作用により、周りの電子を引きずったり、引力を及ぼしたりする。 電荷 水とは異なり、荷電粒子は正負どちらの電荷も運ぶことができ、また導体は正味で正または負の電荷を持つことができる。電流に含まれている荷電粒子はほぼ電子であるが、状況によっては正電荷を持つ場合もある。実際、電解液中のH+ イオンやp型半導体の正孔などの例がある。 管の漏れ 電気回路、あるいは回路要素の中の電荷は通常ほぼゼロに等しく、したがって定数である。これはキルヒホッフの電流法則によって示されるが、液体の量は大抵一定ではなく、ここでは類似性はない。流体が非圧縮性であってさえ、回路にはピストンや開放端等が含まれることがあり、したがって系の特定の部分が持つ流体の体積は変化しうる。このため、電流を連続的に流す場合、開かれた湧き出し・吸い込み(水を出す蛇口と水を受けるバケツのようなもの)を持つ水力系で例えることはできず、閉ループにしなくてはならない。 流体速度と金属の抵抗 ホース中を流れる水と同様に、導体中の荷電粒子のドリフト速度は電流に直接比例する。しかし、パイプ中の水はパイプ内側表面でのみ抵抗を受けるが、電荷はむしろフィルターを通っている水と似ており、金属中のすべての点で抵抗を受ける。また、導体中での代表的な電荷の速度は毎分数センチメートルにさえ届かず、「電気摩擦」は非常に大きい。電荷がパイプ中の水並みの速度で動けば、電流は巨大になり、導体は加熱し、蒸発さえしてしまうだろう。金属中の抵抗と電荷速度をモデル化するには、スポンジを詰めたパイプ、または細いストローに満ちたシロップという方が、大口径のパイプよりはいいだろう。導体中の抵抗はほとんどの電気伝導体で定数である。つまり電流が増加すると、電圧降下がそれに比例して増加(オームの法則)する。液体のパイプ中での抵抗は流量に対して線形ではなく、2乗に比例する(ダルシー・ワイスバッハの式)。 量子力学 固体の導体や絶縁体に含まれる電荷は複数のエネルギー準位にわたっているが、パイプ中のある領域中の水が受ける圧力はただ1つの値を持つ。このため、電池による電荷の汲み上げ効果を水力系によって説明することはできない。ダイオードの空乏層および電圧降下、太陽電池、ペルチェ効果等についても同様に説明できない。しかし類似の応答を与える同等のデバイスを考えることはできる。 このモデルを的確に使うには、モデル系(水力系)の原理への相当な理解が求められる。また、水力系の原理の中でも電気回路に適用できるものだけを選ばなければいけない。水力系は一見シンプルである。しかしながら、あらゆる問題がそうなのではなく、たとえば、ポンプのキャビテーション は、よく知られた、複雑な問題で、流体や灌漑の専門家でもなければ、理解できない。「キャビテーション」に対応する電気工学の問題はない。電気回路の詳細な理論が必要となる局面では、水流モデルが誤った理解をもたらす可能性がある。 同様に、現実的に充分ありうるようなモデルを作り出すのは困難なこともある。上記の「電気の摩擦」は水流モデルではスポンジを詰めこんだパイプで表されたが、これが問題となる例で、どうしてもモデル化しようとすれば、現実的にはありそうもないほど複雑になってしまうのである。
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