標準韓国朝鮮語の場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 07:30 UTC 版)
規範主義的な韓国朝鮮語の場合も、事情は規範主義的な日本語と類似している。李翊燮他(2004:220)では、「韓国語は位階秩序が厳格に反映される言語である」「日本語が大変よく似た水準であるだけで、細分化された敬語法で有名なジャバ語も、韓国語よりは遙に単純な水準に思われる。」として韓国語を日本語と同様、貴賎や主従という位階秩序が尊蔑に反映され、貴賎・主従・尊蔑の区別を厳密に義務付ける言語であると主張している。 また、李翊燮他(2004:221-223)では、規範主義韓国語の主たる二人称代名詞が5つ挙げられているが、너/nɔ/(お前)、자네/jane/(君)、당신/daŋsin/(あんた)はすべて、相手の下賎を表示する待遇表現であり、わずかに댁/tɛk/(お宅)と어르신/ɔrɯsin/(旦那様)のみが、相手の下賎を表示しない丁寧な二人称代名詞である、としている。 これらのうち、너は、最も話者にとっての心理的緊張の低い形式であり、対等な関係であれば最も打ち解けた表現で、対等な関係を保証しない場合は、相手に対しその下賎を強く表現する表現となる。李翊燮他(2004:221)では、幼い未成年者や自分の子供を呼ぶ、最も相手を軽蔑した言い方であるとしている。자네がそれに続くが、これは対等な関係であれば打ち解けた表現で、対等な関係を保証しない場合には相手を下賎だと見なしつつも、너よりは相手の持つ力を重んじた表現である。李翊燮他(2004:221)によれば、小学校や中学校の教師が生徒を呼ぶ際には너で社会イデオロギー上許容されるが、大学教授と大学生/大学院生の場合、자네の方が望ましいと主張している。당신は、対等な関係であれば、やや古い世代の夫婦間などで用いられ、対等な関係を保証しない場合に相手を賎しいとして扱う二人称代名詞の中では最も丁寧であり、ちょうど上に挙げた、規範主義日本語の「あなた」に酷似している。 李翊燮他(2004:221-222)によれば、당신は、英語における二人称代名詞youの訳語としても用いられたり、不特定多数に向けた二人称としても用いられ、この際は下賎だと見なす意味は通常ない。これも規範主義日本語での「あなた」同様である。相手への呼称でも、優位者・支配者には、役割名称+님/nim/もしくは、固有名称+씨/σi/を使い、対して劣位者・服従者には、役職名や固有名の呼び捨てで応じ、規範主義日本語と類似したやり方で貴賎と主従の関係を明示する。李翊燮他(2004:225-234)に、呼称による細かい差別について乗っている。 スピーチレベルでの差別では、李翊燮他(2004:247-260)は、その表現が相手に自身の優位と相手の劣位を表示することの多い、4スピーチレベルと、その表現が相手に自身の劣位と相手の優位を表示することの多い丁寧に分類される2スピーチレベルが区別されると主張する。また、主体や客体への心的態度を表す動詞も存在する。規範主義イデオロギーの中で軽蔑される対象としては、李翊燮他(2004:265-269)によれば、自分より出生順が晩い者、組織加入順が晩い者、女性、職位が劣っている者である。これらは、標準日本語のイデオロギーとも共通する。 植田晃次(2009:119-120)によれば、朝鮮民主主義人民共和国の金日成は、「我々のことばは礼儀作法をはっきり表すことができるので、人々の共産主義道徳教育にも非常にいいのです」と意見を述べた。しかし、下に述べる西ヨーロッパ諸語や漢語諸語では、「共産主義」の道徳はむしろ不平等な待遇表現を是正する方向を掲げている。 韓国朝鮮標準語では、上に挙げたとおり、日本標準語同様、出生順が晩い者、とりわけ子供には軽蔑的な待遇表現が横行しているが、これも日本標準語同様であるが、必ずしも話者全員が、その標準的規範主義イデオロギーに基づく待遇表現に賛同しているものではない。たとえば、金成妍(2010:113-114)には、方定煥をはじめとする児童の権利擁護者たちが、子供に敬語を用いて、対等な人格を認めていたことを記述している。
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