極真カラテ入門
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周囲の励ましもあり治療に専念し、怪我の方は順調に回復していったが、柔道を失った勝昭は悶々とした日々を過ごしていた。次兄の龍夫(サトウ防災設備株式会社代表)は極真会館で空手道を修行しており、1967年(昭和42年)10月10日に初段(黒帯)を允許されていた。佐藤はそれまで龍夫から空手の話を聞いていたが、柔道に熱中しており全く興味を示さなかった。しかし柔道ができなくなったので空手が自分の体でできるのか龍夫に相談した。龍夫は「柔道ほど肩や膝に負担がかからないから、できるかもしれない」と言い、見学してきた感想を「空手は大した事ない」と龍夫に話した。龍夫は「極真会館に入門しなさい」と勧め直した。 入門した初日は山崎照朝と西田幸夫が指導をした。両者には触れると切れそうな、凛呼とした雰囲気がうかがわれると感じていた。稽古が始まり、まごつきながらも一所懸命に突きや蹴りを出した。もとより空手はわからないのだが、山崎・西田の両者の教え方の上手さに感心した。かつて大成高校で柔道のコーチをしていた経験から教える難しさをわかっていたからである。しかし彼らは教え方のツボを知っており、相手の悪い所を指摘し、少し手直しすると、その後の動作は素人目にも見違えるように良くなっている。教え方にも迫力がある。 この時の両者の態度、指導内容がとても良かった事や、翌日の稽古前には大山倍達からも呼ばれて直接激励された事から奮起し、極真カラテを続けていく。佐藤は当時では大柄な部類に入り、しかも羽二重のように柔らかい身体を持っていた事から、逸材として周囲から期待されていた。山崎照朝・西田幸夫の姿が見えないと「ああ、今日は山崎先輩や西田先輩はいないのか」とひどく寂しく感じた。稽古の途中でひょっこり顔を出すような事があると、とたんにうれしく、突きや蹴りにいっそう熱が入った。あくまでも稽古は自分のためにであって、教える人次第で熱心さに差がでるのはおかしい事なのだが、そんな思いをさせるほと山崎と西田には人間的魅力があった。山崎・西田両者に大いに鍛えられもしたが、厳しさの中に愛情があり、暖かいものを感じていた。爾後、まずます山崎・西田を尊敬するようになり、普段の歩き方や話し方など、無意識に両者の真似をしている自分を発見する事もしばしばであった。 入門して3か月後、山崎照朝に勧められ昇段昇級審査を受けた勝昭は緑帯(四級)へ進級を許されたが、同日付で俳優の松田優作も昇級しているのが極真会館機関誌に記録されている。半年後には茶帯への昇級を認められた。この頃の極真会館は「黒帯を允許される者は百人入門したうちから一人いるかどうか」と云われる修行の厳しさだった。佐藤のようにいきなり昇級する例は稀で、過去に橙・青・黄・緑の各帯を飛び越えて、白帯から茶帯へ四階級特進した者は山崎と西田幸夫のみだった。佐藤は稽古熱心な上に、山崎が一般稽古後にも勝昭に居残るよう言い置き、地下道場のサンドバッグで突き、蹴りを手取り足取り指導した事も大きかった。同時期に岸信行も白帯から茶帯に飛び級したが、岸は他流を経験していた。 組手時に龍夫の教えでもあった「参りましたは言うな」を実践していたが、先輩の中には組手時に稽古ではなく単なる弱い者いじめをしている者もいた。勝昭はこのような先輩には柔道で養った闘争心でむしろ下がる事なく、接近戦になると投げ飛ばしたりしていた。実力で勝昭を抑えられない先輩は「あいつは生意気だ」と、木刀や竹刀で殴りかかってくる者もいた。居合わせた他の先輩が止めに入り、大した事にはならなかったが、その後もたびたびこのようなことが起き、勝昭は道場へ通うのが嫌になっていた。また、仕事で編集庶務整理部に配属されていた勝昭は、正式な記者になりたいと思い、社内の記者試験を受けようと勉強を始めていたが、もっと幅広い知識を身につけるため、大学に行こうと考え、1969年(昭和44年)に中央大学経済学部第二部に入学した。これらの理由で徐々に勝昭は道場へ通う頻度が減っていく。だが、空手は好きだったので自主稽古を続け、同年に初開催された第1回オープントーナメント全日本空手道選手権大会にも進行係として、山崎照朝のキックボクシングの試合にセコンドとして協力をしていた。 それから暫くして、取材で後楽園ホールに行った折、偶然大石代悟と再会する。大石から「いま、道場に大山泰彦先輩がきている」と言われた。勝昭は他の先輩から泰彦の凄さを聞いていたので、尊敬していた。その先輩が道場へ復帰していると聞き、翌日、1年ぶりに本部道場へ行った。自主稽古を続けていたので、ブランクを取り戻すのも短期間で済み、勝昭は1970年(昭和45年)の第2回全日本選手権参戦に向けて、道場稽古を再開した。
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