月への降下
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 21:05 UTC 版)
7月20日12:52:00(UTC)にアームストロングとオルドリンは着陸船「イーグル」に乗り込み、月への降下に向けた最終準備に取りかかった。17:44:00に「イーグル」は司令船「コロンビア」から切り離された。「コロンビア」に1人残ったコリンズは、機体をゆっくりと爪先回転(ピルエット)させる着陸船「イーグル」に損傷がないこと、ならびに着陸装置が正常に展開されたことを確認した。アームストロングは "The Eagle has wings!" (「イーグル」には翼がある!)と叫んだ。 降下を開始してしばらくすると、アームストロングとオルドリンは月面上の目標地点を通り過ぎるのが2、3秒早いことに気づき、射程領域(ダウンレンジ)がやや長いようだと地上に報告した。つまり、このままでは着陸目標よりも西に数マイル先の地点に着陸してしまうことを示していた。「イーグル」はあまりにも速く飛びすぎていたのである。その原因は高い質量集中(英語版)にあって宇宙船の軌道が変化したのではないかと考えられた。飛行主任のジーン・クランツは、ドッキングトンネル内の余分な空気圧が原因ではないかと推論した。あるいは、機体の損傷チェック時に行われた「イーグル」の爪先回転飛行が原因となった可能性も考えられた。 降下のためのエンジン噴射に入る5分前、月面から高度6,000フィート(1,800メートル)で、着陸船の航法・誘導コンピュータ(LM guidance computer、LGC)が予期しない警報 "1201" と "1202" を幾度か発し、飛行士の注意を逸らせた。そのとき、ミッション管制センター内にいたコンピュータ技師のジャック・ガーマン(英語版)は、誘導官(Guidance Officer)のスティーブ・ベイルズ(英語版)にそのまま降下を続けても安全であることを告げ、飛行士たちにも中継して伝えられた。これらの警報は "executive overflows" (実行オーバーフロー)を示しており、誘導コンピュータが過負荷状態にあって要求されたすべてのタスクの処理をリアルタイムで完了できず、そのうちのいくつかを遅延させなければならない状態にあることを意味していた。マサチューセッツ工科大学チャールズ・スターク・ドレイパー研究所でアポロ飛行コンピュータのプログラミング責任者(Director of Apollo Flight Computer Programming)を務めたマーガレット・ハミルトンは、当時を思い出して次のように語った。 アポロ11号のその問題に関してコンピュータを責めることは、火災を発見して消防に通報する人を責めるようなものです。実際、コンピュータはエラー状態を認識する以上のことをするようにプログラムされていました。ソフトウェアには回復プログラム一式が組み込まれていたのです。ソフトウェアの動作としては、この場合、優先度の低いタスクを除外して、より重要なものを再構築することでした。コンピュータは、もう少しのところで(着陸の)中止を強制したというよりも、むしろ中止を阻止したといえます。もしもコンピュータがこの問題を認識できずに回復動作をとらなかったら、アポロ11号の月への着陸が上手くいったかどうか、疑わしいと思います。 ミッション中には、司令船とのランデブー用のレーダーのスイッチが誤った位置にあり、月着陸船のコンピュータにランデブー用レーダーと着陸用レーダーの両方から送られてきたデータを同時に処理させようとしたことが原因だと診断された。ソフトウェア技師のドン・アイルズは、2005年の誘導制御会議(Guidance and Control Conference)で発表した論文の中で、この問題は以前アポロ5号で最初の無人月着陸船をテストしている最中に見られたハードウェア設計上の欠陥に原因があると結論づけた。(緊急時着陸中止という万が一の事態に備えて)ランデブー用レーダーをオンにしておくことはコンピュータとは関係ないはずだったが、無作為なハードウェアの電源の入れ方次第では、ランデブーレーダーシステムの2つの部品の間に生じる電気的位相の不整合により、コンピュータに対して固定型アンテナが2つのポジションの間を前後にディザリングするように見えることがある。ランデブー用レーダーがインボランタリカウンタを更新すると、余分な疑似サイクルスチールにより、コンピュータは警告を発する。
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