PGNCSの障害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/16 18:10 UTC 版)
「アポロ誘導コンピュータ」の記事における「PGNCSの障害」の解説
PGNCSはアポロ11号による最初の月への降下の際に動作不良となった。そのときAGCは1201 alarm(実行オーバーフロー - 空き領域無し)と1202 alarm(実行オーバーフロー - コアセット無し)を示していた。どちらの場合もレーダーから不正なデータが大量に送られてきサイクルスチールが起きたことが原因で、降下の間はこれを放置した。エラーによりコンピュータ内の実行中タスクは中断されたが、レーダーの周波数データによればアボート信号が発生したのはCPUが処理しきれない頻度のデータが入ってきたためであることは明らかだった。 着陸時、AGCは通常85%の負荷となる予定だった。その際に使われていない毎秒6400サイクルが13%の負荷に相当し、着陸完了までにスケジュールされているタスクの実行には十分な時間だった。下降を開始して5分後、バズ・オルドリンはDSKYに1668というコマンドを打ち込んだ。これはDELTAH(レーダーで計測した高度とコンピュータが計算した高度の差)を計算して表示させるコマンドである。これによって10%の負荷が追加され、1202アラームが発生した。ヒューストンからの「GO」の指示を受けて、オルドリンは再び1668コマンドを打ち込み、もう一度1202アラームが発生した。このアラームを報告したときオルドリンは「1668を打ち込むとこれが起きる」のではないかとコメントしている。幸いなことに、AGCは優先度制御でスケジューリングされていた。そのため、AGCは優先度の低い1668表示タスクを削除し、重要な誘導・航行タスクを完了させるべくスケジュールし、自動的に回復した。管制官スティーブ・ベールズ(英語版)らは何度か「GO」を指示し、着陸は成功した。ベールズは管制チームと宇宙飛行士たちを代表して大統領自由勲章を授与された。 この問題はAGCのバグではなく、宇宙飛行士の間違いでもない。周辺機械設計の問題であり、アポロ5号の技術者が既に指摘し、文書を残していた。しかし問題は試験中に起きただけであり、試験済みの装置を使うほうが新たなレーダーシステムを設計するよりも安全だと結論付けていた。実際のハードウェアでは、ドッキング用レーダーの位置は800Hzの交流で駆動されるシンクロで数値化されるが、これとは別にAGCがタイミング参照に使う800Hzのクロック信号がある。この2つの800Hz信号は同期しておらず、微妙なずれが生じるためにレーダーが動いていないにも関わらずディザによって急速に動いたように見えた。この幻の動きが一連の急速なサイクルスチールの原因である。
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