明障子(あかりしょうじ)の誕生
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「板戸」の記事における「明障子(あかりしょうじ)の誕生」の解説
詳細は「障子」を参照 「格子」は古文書では、「隔子」と書かれている事が多く、元慶七年(884年)河内国観心寺縁起資財帳によると、如法堂の正面に「隔子戸」四具が建てられていたと記録されている。 戸とあるから、蔀ではなく大陸様式の開き戸であったと考えられる。寺院建築の正面には扉形式の格子戸が多用されるようになり、さらに『多武峰略記』によると、天禄三年に建立された双堂形式の講堂の内陣の正面に格子戸五間を建て込み、内陣と外陣の間仕切りに格子戸三具を建て込んでいた。 平安時代後期になると、引き違いの格子戸が広く使用されるようになった。『源氏物語絵巻』『年中行事絵巻』などには、黒漆塗りの格子戸を引き違いに使ったり、嵌め込み式に建て込んだ間仕切りの様子が描かれている。天喜元年(1053年)藤原頼通が建立した、平等院鳳凰堂は四周の開口部には扉を設けているが、その内側に格子遣戸もあわせ用いている。このような格子遣戸の用い方は、隔ての機能を果たしながら、採光や通風を得る事ができる。機能としては、明障子の全身ともいうべきものである。 明障子の誕生は、平安末期のころである。六波羅の地には平家一門の邸宅が、甍を競って建ち並んでいた。なかでも平清盛の六波羅泉殿は、その権勢を象徴する豪壮な邸宅であったという。 その復元図によると、従来の寝殿造りとはかなり異なり、間仕切りを多用した機能的合理的工夫がみられる。その中でも、明障子の使用は画期的な創意工夫であった。室外との隔ては、従来壁面を除き蔀戸や舞良戸が主体であり、開放すると雨風を防ぐ事ができず、誠に不便な建具であった。採光と隔ての機能を果たすため、簾や格子などが使用されていたが、冬期は誠に凌ぎにくいことであった。 京都は盆地でことに冬期の底冷えはつとに有名である。室内では、屏風をめぐらし、几帳で囲み火鉢を抱え込んだと思われる。隔てと採光の機能を充分に果たし、しかも寒風を防ぐ新しい建具として、明障子が誕生した。しかし、明障子のみでは風雨には耐えられないため、舞良戸、蔀、格子などと併せて用いられた。六波羅泉殿の寝殿北廂の、外回りに明障子が三間にわたって使用されていた。 『山槐記』には、この寝殿や広廂に「明障子を撤去する」とか「明障子を立つ」などの記述もある。平清盛が願文を添えて長寛二年(1164年)厳島神社に奉納した『平家納経』図録には、僧侶の庵室に明障子が描がれている。 この時代の明障子の構造は、四周に框を組み、太い竪桟二本に横桟を四本わたし、片面に絹または薄紙を貼ったものであったという。 寝殿造りの室礼を記した古文書の中に、 「柱をたてまわして鴨居を置きてのち、塗子(ぬりこ)の明障子を間ごとに覆う」 とある。『春日権現験絵日記』にも、黒塗りの明障子が描かれている。また、襖障子と同じように、引手に総が付けられている。明障子の歴史的発展の過程で、漆の塗子の縁が寝殿造りに使用され、襖障子と同様な室礼としての位置付けがあった事は、興味深いことである。 框に細い組子骨を用いる現在のような明障子は、鎌倉時代の絵巻物に多く登場するようになるが、多少の時間と技術改良を必要とした。明障子は壊れやすく、現存するものは極めて少ない。 南北朝期康歴二年(1380年)の東寺西院大師堂の再建当時のものとされている明障子が、最古の明障子と言われている。上下の框と桟も同じような幅でできており、縦桟と横桟を交互に編み付ける地獄組子となっており、また桟の見付けと見込みもほぼ同じ寸法でできている。 なお一本の溝に二枚の明障子を引き違いにするという、子持ち障子というものもある。元興寺の鎌倉時代の禅室の明障子が、一本の溝に二枚の明障子を引き違いにしている。当時のみで深い溝を彫るのは、相当の手間であったであろう。二本の溝を彫るよりも、幅の広い溝を一本彫るほうがわずかに簡単であったのであろうか。禅宗様の建築であることから、技巧的な遊びと考えた方が妥当と思われる。 一本の溝に二本の障子を入れても、そのままではどうにもならない。そこで召合わせの縦框はそのままにして柱側の縦框をほぼ溝幅に合わせて作ってある。こうすると明障子は外れることなく、引き違うことができる。ちょっとした工夫である。子持ち障子は、禅宗方丈建築の最古の遺構である、東福寺竜吟庵方丈にも使われている。ここでは、一本の溝に四本の明障子が立てられている。中央の二枚が上記の方法で引き分けられ、外の二枚は幅が狭く、開閉のできない嵌め殺しとなっている。禅宗様の建築では、随所に意匠の工夫や技工の斬新さが見いだされる。
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