後見人の背任および横領
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 02:18 UTC 版)
「成年後見制度」の記事における「後見人の背任および横領」の解説
後見人の担い手は広がりつつあるが、一方で家族が後見人となり財産管理をする傍らで本人の財産を侵奪したり悪徳リフォーム業者が認知症高齢者の任意後見人になり高額の契約を結んだりする等の事例があるのも事実である。年金生活である知的障害者の家族が、年金収入を家族の生計に充てている事例があるとの指摘もされている。監督人がいない場合、後見人を家庭裁判所が監督する建前だが裁判所の人的資源の限界もあって十分な監督ができていないのが実情である。他方、任意後見の移行型については任意後見受任者が監督を忌避して監督人選任申立てを故意的に懈怠する可能性も学会や新聞紙上等において指摘されており、監督忌避を目的に任意代理契約でそのまま進めて問題が生じているケースもある。 具体的な事例としては、後見人である親族による金銭の着服が発覚し刑事事件となるケースとして、福岡県で知的障害の実兄2人の成年後見人であった実弟がヤミ金業者らと共謀して多額の預金を引き出したとして親族相盗例を排除して業務上横領罪を適用し、福岡地方検察庁特別刑事部によって逮捕・起訴されたことが2006年10月5日付けの毎日新聞によって報じられている。 また、2012年2月には広島高裁で、財産管理能力を考慮せずに親族の一人を成年後見人とした結果、財産を着服されたとして、広島家裁の過失を認める判決が出されている。このような財産着服は、最高裁家庭局によると、2010年6月から2011年3月の10ヵ月間だけでも182件に及ぶという。最高裁は、信託制度を活用する形で、親族後見人による不祥事から本人の財産を保護する方策を検討している。 一方専門職による職業後見人が不当な報酬額を取得し財産を侵奪したりするケースとして、社団法人成年後見センター・リーガルサポート東京支部の元副支部長である司法書士が、任意後見契約において設定された報酬額に加えて日当等を請求し、結果的に年間500万円程度の多額の報酬額を不当に取得したとして問題となった。この司法書士は、2006年春に成年後見に関する書籍を発行するなどの活動を行っていた。 また、東京弁護士会元副会長の弁護士が、2009年から12年までの間に、成年後見人として管理していた千葉県に住む女性の定期預金を解約し、約4200万円を自分の口座に入れるなどして横領した。読売新聞社の取材では、成年後見制度を悪用するなどして高齢者などの財産を着服したり騙し取ったりしたとして、2013年から2015年にかけて23人の弁護士が起訴されている。 このような中で、後見人としての資質の向上や倫理観、懲罰制度についての議論が起こっており、特に裁判所では士業者団体による後見人候補者名簿の作成に当たっては、名簿提出をする団体の研修内容や組織体制を重視してきた。また士業者団体に対し、裁判所が適切な懲罰制度を設けることなどを求める例もでている。また民間団体による市民後見人が後見業務を行う場合には、複数の法人で相互に活動をチェックする体制をとるなど、権限の濫用を防止するための試みも行われているとの報道がなされている。 なお、最高裁の統計によれば、後見人による不正事案は、件数ベース・被害額ベースの双方において、大多数が親族後見人によるものである。件数・被害額ともに平成26年をピークに急激に減少していることが見てとれる。
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