太田川上流の新規ダム計画
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 08:26 UTC 版)
「温井ダム」の記事における「太田川上流の新規ダム計画」の解説
国土交通省は2007年(平成19年)3月に太田川水系の管理方針を定めた太田川水系河川整備基本方針を策定し、現在はこの方針に沿い太田川水系の中長期的な新たな整備計画である太田川水系河川整備計画を策定中であるが、策定を行う上での諮問機関である太田川河川整備懇談会において、太田川水系の新たな治水方針を検討している。先の住民アンケートでは「災害に強い太田川」を求める声が多かったが、ダム計画については近年のダムに対する否定的風潮もあって「ダムを造らない治水対策」を求める声がある一方で、既設ダムの放流運用の改善や太田川上流もしくは中流に新たなダムを建設して万全の対策を望む声もあり、住民間でも意見が分かれている。検討されている河川整備計画では太田川の計画高水流量を毎秒12,000立方メートルとし、そのうち、毎秒8,000立方メートルを堤防整備や河川改修で賄い、残り毎秒4,000立方メートルをダムで賄うとした。 この計画案では先の太田川水系工事実施基本計画と比べダムで賄う分を毎秒500立方メートル減らすことて大規模ダム建設の必要性を低くしたが、それでも温井ダムは毎秒1,800立方メートルの洪水調節能力しかないため、残りの毎秒2,200立方メートルは新たにダムを建設することで対応せざるを得ない。ダム建設が厳しさを増している現在の状況を鑑み、差分のうち毎秒500立方メートルを上乗せし堤防建設や河川改修で賄うことも検討されたが、太田川下流域は高度の宅地開発がなされ堤防沿いに人家が集中し、新規に堤防を拡幅すると多数の移転家屋が生じるほか、河川敷を縮小するためアンケートで多く寄せられた河川敷の有効利用を求める住民の声と矛盾すること、高瀬堰の改築が必要になること、さらに天然アユの産卵床が川底掘削によって破壊されるなどの問題が発生する。この場合でも毎秒1,700立方メートル分は残るため、結果的に上流部のダム建設は不可避でありかつ事業費が高額になることから、新規ダムの建設以上に困難が予想された。いわゆる緑のダムについては日本学術会議が2001年11月に答申した『地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について』の中で森林の涵養力について、「中小洪水ならば洪水緩和効果が期待されるが、大洪水では顕著な効果が期待できない。(中略)ダムなどの治水事業と組み合わせることで初めて機能を発揮する」という結論を引用し、太田川流域の81パーセントが森林であり、問題の上流部では広葉樹林が主体であること、水系内の土壌保水力の限界点は経年的に変わらないことなどを挙げ、単独での効用を否定している。 このため懇談会では発電用ダムを含む既設ダムの運用改善と共に新規洪水調節施設の検討がなされ、太田川本流のほか滝山川、柴山川、三篠川、根谷川、水内川などの主要支流におけるダム建設の可否が検討された。過去の豪雨における降雨パターンや流域の宅地分布、環境や景観などを参考に検討された結果、台風17号の主要な降雨地帯であった太田川本流や柴山川などの上流域北西部・南西部が建設には有利であるとの結論に達した。この区域には1975年の太田川水系工事実施基本計画で構想された吉和郷ダム計画の予定地付近も含まれており、中国新聞は2008年(平成20年)3月26日付の記事で「太田川に新ダム構想、安芸太田が有力」として吉和郷ダム計画復活の可能性をにおわす報道を行った。だが河川整備計画に関連する懇談会資料では吉和郷ダムを含め具体的な予定地点については記されておらず、現時点では吉和郷ダム計画が復活するかは全く未定である。同記事では吉和郷より上流の太田川本流にある中国電力・立岩ダムの再開発案もあると報じていることから、今後どのような形でダム計画が定まるかは不明である。しかしより万全の治水整備を行う上では太田川上流域のダム計画は避けられず、河川整備計画における課題事項として検討が進められている。
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