大気成分中の酸素形成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 03:35 UTC 版)
地球誕生初期の原始大気に含まれていた硫酸や塩酸は、原始海洋中で地殻中の金属イオンで中和され、原始大気は高温高圧の二酸化炭素や水蒸気、窒素が主成分だったと考えられる。これは海洋に溶けこんだ硫酸を除いて現在の金星の大気と似ていたとする説がある。この原始大気中には分圧で示されるほどの酸素は存在せず、熱や光で分解して発生するわずかな遊離酸素は一酸化炭素や地殻に露出した還元金属の酸化で消費され、分圧の高い二酸化炭素が海洋中に溶存していた。これを材料に30億年前ごろに光合成を獲得したシアノバクテリアが現れて酸素が作られ始めたとされているが、近年の遺伝子解析の結果から、進化の過程で光合成機能を失う細菌もいたことを伺わせる結果が出ており、初期の光合成による大気への酸素供給は必ずしも安定にはできていなかった可能性が指摘されている。シアノバクテリアが大規模に存在して安定した酸素供給ができていた確実な証拠となるストロマトライトの最古の化石は、現在までに約27億年前のものが見つかっている。こうした安定した光合成は、同時期に大規模な大陸変動によって生じた浅瀬のような環境で可能になったと考えられている。 大気中の酸素分圧は24億5000年前ごろから高くなっていったと推定されており、このことは、海水中の2価の溶解鉄と化合して生じた酸化鉄を起源とする縞状鉄鉱床の形成時期と一致している。こうして酸素の大量発生(英語版)が起こった期間、ほかの元素と結合していない多くの遊離酸素が海中や大気中に溢れることとなり、また海洋中の二酸化炭素の消費に伴って大気中の二酸化炭素も減少した。これが、嫌気性生物を酸化して死滅させ、全球凍結に至るほどまで気温が急激に下がったために、シアノバクテリアを含む全生物相の深刻な大量絶滅も引き起こされたと考えられている(ヒューロニアン氷期)。氷期からの回復までに海洋中の酸素濃度は一時的に下がったとされる。しかし、生き延びた単細胞生物の中で、酸素を用いる効率的な細胞呼吸と、酸素により自らを酸化させない抗酸化物質を獲得した好気性生物はより多くのATPを作り出せるようになり、その後の地球に新たな生物圏を形成した。この光合成と酸素呼吸は真核生物、さらに多細胞生物への進化をもたらし、これが植物や動物などの生物多様性を生むに至る第一歩となった。 酸素の消費源であった海洋中の溶存鉄が尽きると次第に酸素ガスが海洋から大気に溢れ始め、約17億年前には大気中の酸素含有比率は10 %に達した。酸素の比率が逆転したのは7–8億年前と考えられる。 5億4000万年前のカンブリア紀が始まったころからは、大気中の酸素比率は15–30 %の間で推移した。それは石炭紀の終わりにあたる3億年前ごろには最大35 %まで達し、昆虫や両生類の大型化に作用した可能性がある。石炭紀には木材のリグニンを分解できる菌類が十分に進化しておらず、森林の繁栄により大量の炭素が石炭として固定化され、ペルム紀初期の大気中の酸素濃度は35 %に達したといわれる。また、植物が繁栄したことで大量の二酸化炭素が吸収され、その多くが大気中に還元されずに石炭化していったため、またしても大気中の二酸化炭素濃度が激減した。これがその後の寒冷化と氷河の発達、ひいては氷河時代の一因とされる。その後、寒冷化による植物の炭素固定能の減退、およびリグニンの分解能を獲得した菌類が増えたことなどから、ジュラ紀後期の2億年前には酸素濃度は12 %まで低下した。ジュラ紀後期から白亜紀を通じて酸素濃度は次第に増加した。現在の酸素濃度は21 %である。人類は年間70億トンの化石燃料を使用するにあたり酸素を消費し続けているが、これによる大気中の酸素比率に与える影響は微々たるものである。
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