反響と後世への影響
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「ア・コントラクト・ウィズ・ゴッド」の記事における「反響と後世への影響」の解説
『ア・コントラクト・ウィズ・ゴッド』は最初のグラフィックノベルとして誤って名を挙げられることが多い。グラフィックノベルという言葉は、1964年にコミックブック評論家リチャード・カイルによってファン間のニュースレターの中ですでに使われており、アイズナーとも交流があったジャック・カッツ(英語版)の作品 The First Kingdom(1974年)では表紙に謳われていた。単行本形式のコミックは本作以前にも数多く、遅くともミルト・グロス(英語版)の He Done Her Wrong(1930年)にまで遡れる。しかし、コミック界におけるアイズナーの声望の高さもあって、『ア・コントラクト・ウィズ・ゴッド』はそれらの先行作よりも広い認知を集めた。アメリカン・コミックの歴史における本作の重要性は、出版形式の面のみではなく、文学的抱負の高さや、コミックブックジャンルの定型表現を排したことにあるとみなされている。 アイズナーは本作以後もキャリアの第3期としてグラフィックノベルの創作を続けた。最終的にそれは、コミックブック作家としての第1期や教育用コミックを描いていた第2期を上回る長さとなった。コミック史家R. Fioreによると、グラフィックノベル作家としての活動がアイズナーに「おぼろげな過去の遺物ではなく、現代の作家」としての名声を維持させることになったという。 編集者N・C・クリストファー・カウチは、本書の装本がグラフィックノベルという出版形式におけるアイズナーの大きな貢献だとした。当時コミックブック出版の関係者で製本の経験を持つ者は少なかったが、アイズナーはアメリカン・ビジュアル社での経験を通じて熟知していた。本書はアイズナーの希望通り一般書店で販売されることになったものの、初年度の売上は数千部にとどまった。書店の側ではどの売り場に置くべきかを選びかねていた。マンハッタンの書店ブレンターノ(英語版)では、本書が陳列台に置かれていた時には売れ行きが良かったと伝えられる。アイズナーは陳列から下ろされた後の売れ行きを調べるため同店を訪れた。店主が言うには、本書ははじめ宗教書の、次いでユーモア本のコーナーに収められたが、いずれの場合も不適切だと苦情を言う客がいた。そこで匙を投げて倉庫に収めてしまったという。 初版刊行時の批評は好意的なものだった。一般の新聞や雑誌はそのころコミック評を載せていなかったため、宣伝は口コミのほかファンジンや業界誌でしか行われなかった。コミックブック原作者デニス・オニールは本書を思いがけない「傑作」と評し、言葉と絵の組み合わせによって記憶という体験が文章のみでは不可能なほど正確に再現されていると述べた。この批評ははじめ評論誌『コミックス・ジャーナル(英語版)』に掲載され、『コントラクト』の後年の版では序文に収録された。評論家デイル・ルシアーノは本書を「完璧にして精妙に調和を保った…傑作」と呼び、キッチンシンク・プレスが1985年にこのような「冒険的な作品」の再版を行ったことを賞賛した。 アイズナーは本書の刊行後に漫画家としての地位を高め、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツの教員としてコミックメディア論を説いたことでさらに影響力を拡大した。同校での講義は『コミックス・アンド・シークエンシャル・アート(英語版)』(1985年)および『グラフィック・ストーリーテリング・アンド・ビジュアル・ナラティヴ』(1995年)として刊行された。前者はコミックメディアの表現形式に関して英語で初めて書かれた本だった。アイズナーの社会的地位が上がるにつれて、アイズナーがグラフィックノベルを描き始める以前と以後の作品を刊行する出版社は二分されるようになった。W・W・ノートンのようなインテリ向けの出版社はグラフィックノベル作品を再刊し、スーパーヒーロー作品『ザ・スピリット』はDCコミックスのような地位の低い出版社から再版されてきた。『コミックス・ジャーナル』は本書を「20世紀の英語コミックトップ100」の第57位に挙げ、「コミックメディアで初めて現れた本物の芸術家の一人による傑作」と呼んだ。 漫画家デイヴ・シム(英語版)は本書を賞賛し、何度も再読していると書いている一方、これほど簡潔な作品を「グラフィックノベル(絵による長篇小説)」と呼ぶのは「やや不当だ」と述べている。シムは本書を2, 30分で読み通せるといい、「20ページの短編小説と同程度」の分量だとした。
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