出演者に対する中傷、および出演者の自殺
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 14:36 UTC 版)
「リアリティ番組」の記事における「出演者に対する中傷、および出演者の自殺」の解説
リアリティ番組に出演した参加者の中には、一夜にして人気者になる者もいる一方、視聴者の憎悪や嘲笑を集め悪い意味で有名になってしまう者も多数いる。中には番組内容を巡るトラブルが出演者の自殺に発展するケースも起きている。 リアリティ番組の初期の人気作である『サバイバー』シリーズの元祖であり、スウェーデンで放送された『エクスペディション・ロビンソン』の、1997年に放送された第一シーズンですでに自殺者が発生している。第一回目の視聴者投票で退出を宣告された34歳男性は、無人島から帰って1か月後に列車が走る線路に体を横たえて自殺した。未亡人はこの番組のルールが自殺者をもたらしたとして放送中止を訴えたが、第1シリーズは多くの視聴者の抗議や、「ファシスト番組」「いじめ番組」と番組を呼ぶマスコミの批判の中で完走し、参加者から多くの有名人を生み出した。『サバイバー』シリーズは、フランス版の『コー・ランタ』でも2013年に心臓麻痺による死者が出た折に、同行していた医師に対する誹謗中傷が繰り返された。それを苦に医師が自殺し、出演者をサポートする医師や心理学者などによる医療体制が手薄だったことが指摘された。フランスではこれ以前にもリアリティー番組の出演者が番組終了後に自殺未遂や自殺をした例が複数あり、視聴覚最高評議会のメンバーもリアリティー番組に対する監視体制の強化が必要だと主張している。 アメリカ合衆国においては2004年から16年にかけ、少なくとも21人の出演者が自殺したとされている。2016年から放送されているイギリスの恋愛リアリティ番組『ラブ・アイランド』では、2018年に放送後にインターネット上で誹謗中傷を受けた出演者1人が自殺、番組中で恋人となった出演者1人も自殺しており、2019年には番組上で語られる自分と本来の自分とのギャップに苦しみ、胸の内を語った後に自殺している。この時は、リアリティ番組の出演経験者からメンタルヘルスのサポートの義務化を要望する声が寄せられたという。 韓国において2011年から放送されていたお見合い番組『チャク』では、2014年、女性出演者が自殺し、番組が打ち切りとなった。番組ではカップルが成立しなかった出演者を心身共に傷つける演出がなされており、女性は自殺する直前に「放送されたら韓国では生きていけないと思う」と電話で話していた。 2020年5月、フジテレビとイースト・エンタテインメントが制作しNetflixや地上波などで配信・放送されていた日本のリアリティ番組『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの木村花が死亡する事件が発生した。生前、木村がインターネット上で番組内での言動に対して批判が寄せられていたことから、インターネット上での誹謗中傷の問題とともに、リアリティ番組そのものの危うさにも注目が集まり、他国の類似事例も取り上げられた。 精神科医の松本俊彦は朝日新聞の記事の中で、「番組の出演者が非難を浴びると、『素の自分』を否定されていると受け止めやすくなる可能性がある」と指摘し、目立つことに慣れていない人が匿名の人物からの攻撃を「世界中のすべての人からの攻撃」だと考えてしまうと話している。同じく精神科医の斎藤環は出演者のこれまでの自殺の事例をあげ、リアリティ番組を「現代によみがえった円形闘技場(コロシアム)」と述べている。台本が無かったとしても全てが自然体・偶然まかせではあり得ず、出演者は特定の状況において特定のキャラクターとして反応させられる「労働負荷の高い感情労働」を強いられるという。俳優であれば一つの仮面を被ったに過ぎないと自他ともに認められるが、演技をすることを許されず『生の感情』を消費された出演者はそのキャラクターが日常生活にもついて回ることになる。その結果、「感情のやりとりで流す血は、俳優のそれは血糊だが、ショーの出演者の流す血は限りなく本物に近い」「あえてキャラと自身の区別がつきにくくなるような演出を強いられれば、SNS上に殺到する批判が『リアルな自分』を殺そうとしていると感じたとしても不思議はない」としている。 また、ABEMA制作のリアリティ番組『オオカミくんには騙されない』シーズン1のプロデューサーを務めたテレビマンユニオンの津田環も「制作サイドが出演者の感情の起伏を利用して『誘導』し、出演者がそれに応えようとする側面がある。リスクの矢面に立つのは常に出演者だが、多くの現場でケア体制が整っていない」と同じ記事の中で指摘している。 多くの恋愛リアリティーショーを手掛けるABEMAでは誹謗中傷、風評被害に関する出演者用の窓口を同年5月27日に設置した。なお、フジテレビは同年5月27日に『テラスハウス』について、同シーズンの制作中止(打ち切り)を発表している。
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