内面パネル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 05:20 UTC 版)
『ドレスデンの聖母』の中央パネル内面には教会の身廊のような場所の玉座にすわる聖母子が描かれ、聖母子の前には高価なペルシア絨毯が敷かれている。玉座とその両脇のアーチには、『旧約聖書』のイサクやダヴィデとゴリアテなどの人物彫刻が表現されている。この作品は深い奥行きを感じさせる構成で描かれており、中央パネルでは両横の柱が聖母子の背後へと延びて行き、玉座の上に描かれているバルコニーでひとつにまとまっている。ファン・エイクが前年に完成させた『ファン・デル・パーレの聖母子』などの比較的平坦な構成に比べると、『ドレスデンの祭壇画』の奥行き表現には技術的な進歩が見られる。奥行き表現の進歩は両翼パネル外面に描かれた二体の彫刻でも顕著である。『ドレスデンの祭壇画』のパネル外面と、1436年にファン・エイクが描いた『受胎告知のディプティク』のパネル外面]には同じような大天使ガブリエルと聖母マリアが描かれている。この両作品を比較すると『ドレスデンの祭壇画』では奥行きがより深く表現されており、マリアをさらに奥部に配置することによって、マリアがよりつつましくこの世ならざる者であるかのように描写されている。 『ドレスデンの祭壇画』に描かれているマリアの位置は極めて象徴性を帯びている。マリアとキリストが座しているのは、通常であれば主祭壇が置かれている場所であり、マリアが着用する豪奢な刺繍がほどこされたガウンは主祭壇を飾る金襴の天蓋 (en:Baldachin) の役割を果たしている。美術史家シャーリー・ブラムは『ファン・デル・パーレの聖母子』でもマリアが主祭壇の位置に描かれていることを指摘し、これらの作品におけるマリアは「天界の主祭壇であり、俗界の教会における主祭壇の原型といえる。マリアはまさしくキリストの血肉の聖櫃なのである」としている。 『ドレスデンの祭壇画』の右翼には聖カタリナが、左翼には大天使ミカエルが、それぞれ教会の通路あるいは回廊に立ち姿で描かれている。ミカエルは、ゆったりとした緑色の外套(ウプランド)をまとったこの祭壇画の制作依頼主とともに描かれ (en:Donor portrait) ている。ウプランドは当時のブルゴーニュ公国における流行最先端の衣服であり、聖母マリアに跪いて祈りを捧げる姿で描かれているこの制作依頼主が、高い社会的地位を持つ一族の出身であることを示唆している。ファン・エイクが最終的に教会に奉納する目的で個人から依頼されて描いたほかの作品に比べると、『ドレスデンの祭壇画』に描かれている依頼主は、聖人の幻に遭遇したかのような驚愕表現は見うけられず、また、三連祭壇画の一翼にマリアよりも小さく描かれている。『ドレスデンの祭壇画』が描かれた当時の記録は残っておらず、左翼の依頼主が誰なのかは謎となっている。依頼主が描かれている左翼のフレームには「HIC EST ARCHANGELUS PRINCEPS MIKICI(A)E ANGELORUM (これは天使の軍を率いる大天使ミカエルである)」と記されている。右翼に描かれている聖カタリナは、ほどいた金髪に宝冠を被っている。青色のドレスは白いアーミンの毛皮で覆われ、右手に剣、左手に本を持ち、足元にはカタリナの象徴である車輪が置かれている。このカタリナが描かれている右翼のフレームには「VIRGO PRIDENS ANELAVIT AD SEDEM SIDEREA (この賢明な乙女は輝かしい玉座を待ち望んでいた)」と記されている。中央パネルに描かれた幼児キリストは裸体で、『マタイによる福音書』 (11:29) の「DISCITE A ME, QUIA MITIS SUM ET HUMILIS CORDE (わたしに学びなさい、わたしは柔和で心のへりくだった者だから)」と記された小旗 (en:banderole) を握りしめている。 『ドレスデンの祭壇画』には署名と制作年が記されているため、ファン・エイクが描いたほかの絵画作品の制作年を判断する基準として用いられることがある。ステンドグラスの描写やアーケード周辺の表現など、多くの点で作風の進展が見られることから、ほかの絵画作品の描写と比較したときに、この『ドレスデンの祭壇画』より以前に描かれた作品であるということが判断できる。両翼の外面にはグリザイユの「受胎告知」が描かれている。左翼外面には大天使ガブリエルが、右翼外面には聖母マリアが、それぞれ八角形の台座に乗った立ち姿で彫刻として表現されている。左翼の聖カタリナの背後には風景画が描かれているが、『ドレスデンの祭壇画』自体が非常に小さな作品であるために、至近で見ないと分からない。非常に微細な風景画であるにもかかわらず、遠くの風景と近景の建物が素晴らしい筆使いで描かれている。 ファン・エイクが描いた聖母子像である『ファン・デル・パーレの聖母子』(1436年)と『教会の聖母子』(1438年 - 1440年ごろ)と同じく、『ドレスデンの祭壇画』のマリアも、周囲と調和しない非現実的な身体の大きさで描かれている。美術史家ローン・キャンベル (en:Lorne Campbell (art historian)) は、マリアがあたかも「玉座から立ち上がり、ミカエルとカタリナと同じ場所へと至り、さらにはこの二人を超えて、教会の柱をも超越する」ようだとしている。
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