マルチグレード
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 14:25 UTC 版)
一般車(自動車・オートバイ)に使用されているエンジンオイルの多くで、○○W-●●(例 : 10W-30)のような表記がある。 ○○Wは低い数字になるほど低温時の始動性が向上する。下記はあくまでも一般的な目安である。5W : -35℃程度まで 10W : -25℃程度まで 20W : -10℃程度まで 粘度表示は●●の部分で、数字が大きいほど動粘度が高いという意味であって、必ずしも耐熱性が高い訳ではない。耐熱性は、基油の性能に大きく依存する。 エンジンの常用温度で適切な粘度となるシングルグレードオイル(たとえばSAW20やSAW30)は零度以下になると粘度が上昇し始動しにくくなる。これに対しマルチグレードオイルはベースオイルの粘度が低く低温でも始動しやすい。しかし粘度の低いベースオイルはエンジン常用温度では粘度が低下し潤滑性能が低下する。このため、高温で分子構造が変化して粘度を上昇させる高分子ポリマー等を配合して粘度を保つものがマルチグレード油である。しかし高分子ポリマー等はせん断などの物理的損傷により効果が低下し、また酸化してスラッジの原因となる。 粘度が高いことだけがエンジンの保護性能を高めている訳ではなく、ベースオイルの基本性能は大きな要素である。ベースオイルの化学構造によって、温度上昇に対する粘度の低下の具合が異なる。摂氏40度と100度に対する粘度の変化指標として粘度指数があり、この数字が大きいほど粘度変化が小さくすぐれたベースオイルである。 一般的に、マルチグレードの下限(○○Wの数値)と上限(●●の数値)との差が少ないほど、ベースオイルに対して高分子ポリマーなどの添加剤の割合が少なく、添加剤の消耗・剪断(せんだん)による粘度変化が少ないとされる。 エンジンが必要とする粘度は、クリアランスの大きさで決定する場合が多い。 発熱量の多いエンジンや、フリクションロスを減らす為にクリアランスが大きく取ってあるレース用車両等は、気密性や潤滑性能を維持するため、高粘度(50番以上)ものを使用する場合が多い。また、総走行距離が多いなどエンジンが摩耗し、クリアランスが大きくなったエンジンには高粘度のエンジンオイルを使用する事によって圧縮を維持することが出来る。逆に、現在の省燃費車はクリアランスが小さく、極低粘度の20番等を使用する。 粘度が小さい方がオイルの粘性による抵抗が少なくなるので吹け上がりは良くなり、燃費の向上が見込まれる。しかし、タペット音等の雑音の増加、ブローバイの増加や、指定以下の粘度のオイルではエンジンへ耐久性への悪影響もある。 粘度が大きいものは、高温下でも気密性や潤滑性を維持でき、ブローバイも減少する。緩衝性が大きいのでエンジンの静粛性が向上する。しかしオイルの粘性による抵抗が大きくなるので、アクセルレスポンスが緩慢になったり、燃費がわずかに低下する。 近年の低燃費車では、燃費向上を目的にオイル粘性による抵抗を下げるため、低粘度のオイルが使われる。2002年以降に発売された車種によっては、粘度の低い0W-20などが推奨されている。近年では0W-16といった低粘度のエンジンオイルも一部の車種に指定している。このようなオイルでは低粘度による潤滑性能の低下を補うために有機モリブデンなどの添加剤が使用されていることが多い。近年の低燃費エンジンは低粘度オイル(0W-20等)を使用することを前提にクリアランスやモリブデンコートなどが設定されており、それ以外のエンジンに低粘度オイルをいれると潤滑性能の低下によりエンジンに悪影響を与える可能性がある。 基本的にメーカーが指定する粘度を大きく変えないことが必要である。特に、指定よりも低い粘度(特に高温側)の使用は避けるべきである。負荷の大きい条件や気温が高い条件では、指定されているオイルの範囲で高温側の粘度を多少上げる(5W-30→5W-40にする等)ことが推奨されている。指定よりも低い粘度のオイルでは、潤滑性や気密性を維持することが出来ず、騒音やブローバイの増加などでエンジン性能を損なうだけでなく、ベアリング、ピストン、カムなどの摩耗を促進したり、高負荷時で焼き付きを起こすなど、故障につながる危険性がある。
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