フィルム撮影から電子技術を用いた天体撮影へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/27 03:42 UTC 版)
「天体写真」の記事における「フィルム撮影から電子技術を用いた天体撮影へ」の解説
フィルム写真が主流であった時代には、天体写真の撮影は一枚の撮影に数時間という膨大な時間がかかることも稀ではなかった。これはフィルム感度が低く短時間の撮影では十分な星像を得ることが出来ないことに起因するものだった。(例えばフィルム時代の初期では白昼の明るい環境で人物を撮影するにも数十分姿勢を支持する必要があった)。また、フィルム写真は相反則不軌という現象があり、長時間露出をすると感度がかなり落ちる。こうした問題点が、急速に改善されたのが電子観望やデジタルカメラなど電子的な撮影と画像合成の急速な進化である。 デジタルカメラの普及期となった2010年代以降のデジタルカメラでは撮影感度がフィルムと比較し非常に高感度となっており、比較的短時間で天体写真を撮ることができる。 逆に、長時間露出をすると画像にノイズが乗るため、短時間で露出を切り上げ、画像を合成する方法が一般的になっている。冷却CCDカメラを使用すれば長時間露出してもノイズが載らないため、微光天体の撮影に使用される。また、銀塩式(写真フィルム)の場合、水素増感等の増感現像処理も用いられる。 CCDカメラの場合、35mmフルサイズカメラに比べて撮像面積が狭く、小惑星や彗星、新星、超新星の探索に用いられるシュミット式望遠鏡等の広視野の光学系を持つ望遠鏡の場合、有効視野を充分に利用できないので複数のCCDをモザイク状に配置し後で画像処理で合成する手法が用いられる。 ガイド撮影法に関しては、星雲や星団等の微光天体の撮影においてはガイド星を目印に赤道儀によるピリオディックモーション等によりずれないようにガイドする。10年くらい前からミード等から販売されるCCDカメラで自動的にガイドする装置も普及しつつある。また、国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡やミードLX200シリーズのように経緯台式架台でもイメージローテーターを使用して天体写真の撮影に用いられる。 また、ノイズができるだけ乗らないようにカメラやCCDを冷却する方法も模索されている。Hα線をより写すことができるように、デジタルカメラのCCDの前に必ずついている赤外線カットフィルターを、メーカー保証外になるにもかかわらず外す人やそれを代行する業者もある。 月や惑星の天体写真では、ビデオカメラなどで動画形式で保存して、そこから写真を作り上げる方法が確立されつつある。高倍率で月や惑星を見ると、大気のゆがみで映像はどうしても揺らぐ。この揺らぎのまま動画で記録し、コンピュータ上で処理することによって、ゆがみが少ない映像を選択したり、ゆがみを補正したりして、優れた天体写真を作ることができる。最終的には「熟練した人のスケッチ」に相当する映像処理を実現できるとも言われる。この手法の場合、後でコンピュータ処理をするため、高価で精密な赤道儀式架台を必ずしも必要としない。安価な経緯台式架台で惑星写真を撮る人もいる。 流星観測の場合はカメラのレンズの前に回転するプロペラのような回転シャッターを置くことによって断続する流星の飛跡から移動速度を記録する事ができる。 天体写真には、科学的な研究目的で撮影されるものと、趣味などで撮影されるものがある。専門の「天体写真家」はあまり存在しない。例えば天文台などで天体写真を撮影する場合があるが、それはあくまでも研究の補助であり、撮影自体を仕事としている者はほとんどいない。天体写真を撮影する者の多くはアマチュア写真家である。 一般に現代の天文学はきわめて多額の資金を必要とし、その成果はアマチュアには手の届かないものとなっている。しかし、上記にあげた天体写真に関する最近の様々な技術の工夫はアマチュアの手によるものが多い。現在はフィルムカメラからデジタルカメラへの急速な移行期にあり、デジタルカメラも技術革新が著しい。天体写真の分野も現在種々の工夫が試みられ、また、天体写真を撮る機材や画像を処理するプログラムも高度化しており、天文雑誌に載る天体写真のレベルも昔に比べてかなり向上している。 また、一般の写真雑誌でも、殆どが固定撮影ではあるが天体写真を取り入れた写真が増加している。これも、デジタルカメラによって天体写真を撮ることが容易になってきたということが原因であると思われる。
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