サイバーシンのシステム
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「サイバーシン計画」の記事における「サイバーシンのシステム」の解説
サイバーシンという名前は、「サイバネティックス」(cybernetics) と「シナジー」(synergy) との合成語である。 計画全体はビーアの「生存可能システムモデル」(VSM, Viable System Model) を一国の経済レベルで具現化するものであった。 VSM はビーアが神経システムに着想を得て、あらゆる安定して生存する有機的組織に存在するとした 5 つの階層的サブシステムからなるシステムのモデルである。 大まかにいって、VSM のサブシステムの 3 つ (システム 1-3) はシステム内部の階層に関係し短い時間スケールをもつものであり、対して他の 1 つ (システム 4) は未来への要求やシステム外部への反応に関係し、もう 1 つ (システム 5) はそれらを調停し決定を行う役割をもっていた。 理想的なモデルとしては、これらはサイバーシンのシステム全体に対し次のように対応づけられた。 システム 1 は各生産現場に相当し現場の自律的な安定性のみを要求する制御を行う。 システム 2 は神経系の脊髄にあたり、システム 1 とシステム 3 を結ぶテレックスのネットワークとコンピュータ制御に対応する。 システム 3 は現場からもたらされる情報に基づいて CORFO で行われる日々の処理に相当する。 システム 4 は必要なときに開発と将来計画とに関する討議と意志決定を行うレベルであり、これはそれまでのチリの企業経営にはほとんど存在しないものとされた。 そしてシステム 5 は経営幹部的なシステムの全体的方向づけを行う。 チリの右派メディアが『ビッグ・ブラザー』的なシステムの構築に手を貸しているとビーアを非難する中で、ビーアはこのシステムが「地方分権的で労働者参加型の非官僚主義的なのもの」として作動すると信じた。 計画は「サイバーネット」(Cybernet)、「サイバーストライド」(Cyberstride)、「チェコ」(Checo)、「オプスルーム」(Opsroom) の 4 つの部分的プロジェクトから成り立っていた。 サイバーネット 前述のようなチリの生産拠点を結ぶテレックスを利用した情報ネットワークである。理論的には非常に短い間隔による実時間制御が要求されたが、現実の運用においては、毎日午後5時に1度の情報(原材料量、生産量、欠勤者数などいくつかの数値)送信が限界であった。 サイバーストライド ベイズ理論を利用してシステム 2 における日々の制御を行うソフトウェアであり、チリとイギリスのプログラマ・チームにより作成された。 ある値が既定値より外れると「アルゲドン・シグナル」(algedonic signal) と呼ばれる警告が発せられた。 こうした警告ははじめ各企業の責任者に伝達されるだけだが、一定時間の間に問題が解決されなければ、警告は CORFO の上位レベルの担当者に伝達される。 システムにはこのような階層がファーム、ブランチ、セクター、全体の 4 段階存在した。 当時チリ政府が所有するコンピュータはわずかしかなく、サイバーシンが利用できたコンピュータは当初 1 台の IBM 360/50 メインフレームのみであった。 しかし後には要求される計算がコンピュータの能力を大きく越えるようになり、実時間制御が不可能となったため、別のコンピュータが導入された。 チェコ 経済モデルによって全体的経済の将来予測を行おうという野心的なシミュレータでシステム 4 での決定に寄与するものとして製作された。 プログラミングはイギリスで行われたが、実時間の適切なデータが取得できなかったこともあり、テスト時における予測の成績はよくなかったようである。 なお、チェコという名前は「チリ経済」(CHilian ECOnomy) からとられている。 オプスルーム オペレーションルームであり、ドイツのギー・ボンシーペ (Gui Bonsiepe) らによりデザインされた。 SF 映画を思わせる近未来的な外観を有しており、 6 角形の部屋に 7 脚の特殊な回転イスが備え付けられていた。 このイスの肘かけには小さなコンパネがあり、これは壁に備え付けられた大型スクリーンとパネルとを制御した。 このスクリーンにはリアルタイムで例外的な事象のレポートが表示されるようになっていた。しかし、1971年に設計されたオペレーションルームであるため、未来的な外観ではあるが、イスの入力系も壁の表示系も電気回路や半透明スライドのようなアナログな技術しか用いられていない。
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