アルキメデス・パリンプセスト
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『アルキメデス・パリンプセスト』は、羊皮紙の写本のパリンプセストである。元々はシュラクサイのアルキメデスやその他の著者の作品のギリシア語写本であった。10世紀のビザンツ(東ローマ)帝国で、テッサロニキのギリシア正教の元大主教レオン・マテマティコス(数学者レオン)による数学研究の復興時に作成を依頼されたものである。この写本は1204年のコンスタンティノープル陥落後、第4回十字軍の騎士団に持ち去られたのち、13世紀にパレスチナの修道士により、テキストがキリスト教の宗教的作品で上書きされた[1]。元の文は完全には消えておらず、大部分を見ることができると、1915年にヨハン・ハイベアにより発表された[2]。この写本はイスタンブルのギリシア正教会の図書館に保存されていたが、ギリシア人虐殺に続く激動の時代において図書館が避難する最中、1922年に行方不明になった。写本は70年以上にわたり隠され、価値を高めるために偽造者によりページの一部に絵が加えられた。これらの捏造された絵の下にあるテキストや以前は読むことができなかった文は、1998年から2008年にかけて行われた紫外線、赤外線、可視光線、レーキングライトおよびX線による画像の科学的・学術的な研究により明らかとなった。全ての画像とメタデータ付きの学術的な校正を経た文字起こし版は、現在Archimedes Digital Palimpsest(下記の外部リンク参照)のウェブサイトで自由に利用できるようになっており、OPenn[3]や他のウェブサイトでもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC-BYのもと、利用できるように提供されている[4][5]。
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- ^ R. Chiaradonna, M. Rashed, D. Sedley and N. Tchernetska, A rediscovered Categories commentary, Oxford Studies in Ancient Philosophy 44:129-194 (2013); Porphyry is the preferred attribution see p. 134, 137.
- 1 アルキメデス・パリンプセストとは
- 2 アルキメデス・パリンプセストの概要
- 3 脚注
アルキメデス・パリンプセスト
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「アルキメデス」の記事における「アルキメデス・パリンプセスト」の解説
詳細は「アルキメデス・パリンプセスト」を参照 最も近年発見されたアルキメデスの著作は『アルキメデス・パリンプセスト』である。1906年、デンマーク人の教授ヨハン・ルーズヴィー・ハイベア(en)がコンスタンティノープルで1229年に完成した174ページの山羊皮紙の祈りの書を調査した際、それがパリンプセスト(一度書かれた文字のインクを削るなどの方法で消し、別な文字を上書きされたもの)であることを発見した。調査の結果、山羊皮紙にかつて書かれていた文章は、それまで知られていなかったアルキメデスの提議を10世紀に写したものと判明した。数百年コンスタンティノープルの修道院図書館に所蔵されていたこのパリンプセストは1920年代に民間へ売りに出され、1998年10月29日にはニューヨークのクリスティーズで競売に掛けられ、匿名の落札者が200万ドルで入手した。 その後、落札者は写本の情報をデータ化するため素粒子物理学者など多様な解読の協力者を集め解読プロジェクトを始めた。彼らは画像を撮るため、本の背の糊を取り除き解体し、礼拝時にろうそくを使用したため付着したろうも取り除き、断片を元の場所にあてがった。そしてさまざまに波長を変えた光を紙にあて画像を合成し、金箔でおおわれている部分については蛍光X線分析を行いインクに含まれる鉄成分の分布を調べた。 このパリンプセストは、唯一のオリジナルであるギリシア語で書かれた『浮体の原理』を含む7つの論文が写されていた。ここには、既に失われてしまったスーダ辞典を参照した『方法』についての唯一の情報があり、『ストマッキオン』も以前には発見されていなかった切断パズルがより完成度が高い解説つきで見つかった。他の4つは『平面の釣合について』『螺旋について』『円周の測定』『球と円柱について』である。合わせてヒュペレイデスの演説やアリストテレスの文章の注釈書も発見された。このパリンプセストは現在メリーランド州ボルチモアのウォルターズ美術館に保管され、隠された文字の全貌を明かそうと、紫外線やX線照射など先端技術を用いた研究が行われている。
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