アナクロニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/22 01:57 UTC 版)
「バルナバによる福音書」の記事における「アナクロニズム」の解説
『バルナバによる福音書』には非常に多くのアナクロニズムないし歴史的に場違いな物事が含まれていると指摘する読者もいる: 同書中でイエスはガリラヤからナザレまで海を渡って行く – しかしナザレは内陸にある; またそこからカファルナウムへ「登って」行く – 実際にはカファルナウムは湖岸にある都市である(第20–21章); ただしこの問題はBlackhirstで扱われていて、歴史上のナザレの位置はそれ自体謎であるという。 イエスはポンティオ・ピラトの統治下に生まれたとされているが、彼の統治は紀元後26年以降である。 バルナバはキリストとメシアが同義語だと気付いていない。キリスト(希: Χριστός)はメシア(ヘブライ語: משיח)のギリシア語訳で、どちらも「油を注がれた者」を意味する。そのためバルナバによる福音書は誤ってイエスを「イエス・キリスト」(つまりメシアのイエス)と呼んでおきながら「イエスは『私はメシアではない』と告白し真実を述べた」と言っている(第42章)。 聖年が100年ごとにあると言及される(第82章)が、レビ記:25では50年ごとである。このアナクロニズムは教皇ボニファティウス8世が1300年を聖年としたことと関係があると思われる; ボニファティウス8世はその後百年ごとに聖年とすると定めた。1343年にはクレメンス6世によって聖年の間隔が50年に縮減された。 アダムとイブがリンゴを食べる(第40章); ところが知恵の樹(創世記 2:9,17; 3:5)の果実がリンゴだという伝統的な観念は旧約聖書のラテン語訳による。ラテン語では「リンゴ」と「悪」がともに「malum」である。 バルナバによる福音書ではワインが木製の樽に貯蔵されているという描写がある(第152章)。木製の樽はガリアや北イタリアに特有のもので、ローマ帝国では300年頃までワインの貯蔵には一般的には用いられていなかった; さらに1世紀のパレスチナではワインは常に皮袋や瓶(アンフォラ)に入れて貯蔵されていた。ヨーロッパナラはパレスチナでは生育しない; そしてその他の木材では酒樽に使うには気密性が十分でない 第91章で「40日間」が毎年の断食期間として言及されている。これはキリスト教の伝統で四旬節に40日間断食することに一致している; しかしこの慣習は第1ニカイア公会議(325年)より以前には確認されていない。また当時のユダヤ教にも40日間断食をするという慣習は存在しなかった。 バルナバによる福音書中で旧約聖書が引用される際、その読みはギリシア語の七十人訳やヘブライ語のマソラ本文ではなくラテン語のヴルガータの読みに一致する。ヴルガータ聖書はヒエロニムスが382年以降に翻訳を始めたものであり、これはバルナバの死後数百年後である。 第54章ではこのように述べられている: 「彼は両替に加わったので金ひとかけらが六十枚の小銭(イタリア語でminuti)に変わったに違いない。」 新約聖書の時代にはアウレウス金貨一枚が最小単位のレプタ銅貨(ラテン語ではminutiと呼ばれる)3200枚の価値があった; 一方ローマで一般的だったデナリウス銀貨は128レプタの価値があった。バルナバによる福音書の交換比率は1:60だが、これは正典福音書の対応箇所(マルコ 12:42)の中世後期の読みと一致する。この読みはminutiを1/60を意味するものとする中世の一般的な解釈から生じている。 第91章ではユダヤ人の軍隊が三軍それぞれ20万人の兵士を含んで合計60万人の兵士がミツパに集ったと記録されているが、当時のローマ帝国の全軍でも30万人程度と推計されている。 第119章では同等の貴重さ・価値を持つものの例として砂糖と金を挙げている。しかし古代にはインドで砂糖の特性が知られていたが、6世紀に産業規模で生産されるようになるまでは甘味料として交易の対象になっていなかった。11世紀から15世紀にはヨーロッパへの砂糖の交易路はアラブ人が独占しており、その価値はしばしば金に比された。しかし15世紀半ばからはカナリア諸島およびアゾレス諸島に大規模なサトウキビ生産地が開かれ、砂糖は依然奢侈品ではあったが並外れて貴重な物とはみなされなくなった。
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