たわたわと薄氷に乗る鴨の脚とは? わかりやすく解説

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たわたわと薄氷に乗る鴨の脚

作 者
季 語
季 節
春 
出 典
露 
前 書
 
評 言
 飯田蛇笏高弟にして、俳誌雲母」の有力作であった蒼石は、満九十四歳という長命全うしたこともあり、戦前戦後昭和俳壇長くその名を留め俳人である。

略歴
明治二十年滋賀県蒲生郡清水(現・東近江市生れ本名・増次郎幼くして父を失い、母の手にて育つ。十三歳にて京都織物問屋奉公十七歳京都日出新聞俳句投句中川四明の選を受ける。二十歳東京支店設置により同支店勤務し作句中断。後に関東大震災遇い自宅罹災翌年長女(四歳)病死引続き妻の死に直面し十七年ぶりに作句再開。「ホトトギス」、「鹿火屋」、「枯野」を経て雲母」を識り、飯田蛇笏傾倒爾来雲母一筋作句活動を展開。昭和十年代に入り再婚の妻及び次男病没、また長男ニューギニアにて戦死戦後長谷川朝風と「玉虫」を共宰。 昭和五十七年没。
雲母」の「山廬賞」受賞二回、昭和四十八年第七回「蛇笏賞」を受賞

たわたわと薄氷に乗る鴨の脚 (昭和十八年作)
 おそらく蒼石の最も知られた句のひとつであろう堅実な写生句として定評得た一句また、関東大震災先の戦災など、その人生に様々の辛酸舐めたこともあり、蒼石には、家族想う佳句も多い。代表的なもの掲げてみる。
 
とし子の耳ささやき春夜かな (昭和十年作)
寒月のひかりにとほき星の闇 (昭和十八年作)
わが子はやひとり子の母虫の秋 (昭和二十五年作)
母恋のこみちのぼりに遲 (昭和三十五年作)
春の目覚め厨に母のこゑいつも (昭和三十六年作)

 しかし、蒼石の俳名を高からしめたのは、大正十五以来、師である飯田蛇笏傾倒し、その俳誌雲母」の中心的な作家として地位確立したことであろう。「雲母」誌には、五十以上に亘り多く作品発表したが、幾つか心に残る句を掲げてみる。

凍てのにほひにつつまるる (昭和十五年作)
ひもすがら日は枯草猫柳 (昭和十六年作)
白木槿はりつめて高からず (昭和二十九年作)
柚子黄に一枚のわが黒羽織 (昭和三十四年作)
かざおとかすかにつつみ彼岸花 (昭和三十四年作)
遠汐に月もゆるまで更けにけり (昭和三十七年作)
 
 このようにひたすら師・蛇笏恃み、その俳句世界心酔していた蒼石にとって、昭和三十七年十月三日、師の突然の逝去は、相当の衝撃であったであろう思われる。「飯田蛇笏師 危篤逝去」と前書きされた一連の句には、深い悲しみが詠われている。
 
危篤受く秋暁の星ひとつ (昭和三十七年作)
もろともに秋の佛のうごきゐる ( 同 )
秋の日小窓まぼろしに ( 同 )
哀しみのこゑのみ移りゐし ( 同 )

 老境深むとともに世の中人生深く観照する透徹し表現手法以って、蒼石の俳句世界確立されて行くのである
 
空澄むうべなうて野の枯れゆけり (昭和三十七年作)
辛 夷一樹すくなきはまことなり (昭和四十三年作)
蛇笏はや秋の思ひのなかにあり (昭和四十四年作)
歸省子朝一臼の蓬餅 (昭和四十七年作)
聲のなき雁人をおほひ去る (昭和四十七年作)
ととのへ落葉松と散る (昭和五十一年作)
浸(あめし)までひかりながるる冬紅葉 (昭和五十一年作)
空せみにするどき爪のありにけり (昭和五十一年作)
春陰海の底鳴り親不知 (昭和五十二年作)
水底にしじみがあそぶ桃の花 (昭和五十二年作)
春にはかに胸毛白くかなし (昭和五十二年作)
わだなかやさゆれてきゆる雁の棹 (昭和五十二年作)
残る焚火言葉すくなの師と踞む (昭和五十三年作)

 松村蒼石俳句は、総じて折り目正しく端正な作風である。また、その手堅い写生の手法は堅牢で、かな文字多用した句の造形には優美なものがある。豊かで懐かしく明るく時には暗く寂し句材も詠われているが、それらは、様々な人生苦難経験してきた俳人の、蛇笏師事以来五十余年星霜から生み出されたものである
参考文献
自註現代俳句シリーズⅡ三七松村蒼石集」 俳人協会 昭和五十三年
松村蒼石自叙伝『露のむかし』 「雲母昭和三十四年八月号~十月号及び三十六年十二月号~三十七年二月連載、 「雲母通巻500号及び昭和三十五年五月
俳句昭和四十八年六月号、五十七年三月号及び七月号、「俳句研究昭和五十七年四月


写真晩年の蒼石(撮影岸田稚魚) 
評 者
備 考
 



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