その他の言語の受動態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/02/07 04:18 UTC 版)
受動態とは一般には、他動詞の能動態における目的語を、主語に据えることで強調し、もとの主語は別の格などで表す(しばしば省略する=動詞の項を1つ減らす)表現様式をいう。受動態の意義としては、次のようなものが考えられている。 動作主を軽視または省略し、相対的に被動作者を重視すること。 被動作者を文の話題として強調すること。 被動作者の意志によらないことを強調すること。日本語ではこの意義が特に重要であると考えられる。 ただし、ラテン語では被動作者の意志による行為でありながら、受動態を使うケースもある。分詞構文を使った表現で、直訳すると「夫が殺された後、彼女は再婚した」となる文で、夫殺しの犯人が「彼女」である場合もある。日本語の文面だけ見ると、犯人は「彼女」以外の誰かと思ってしまいがちなので、注意が必要である。 英語のほか、現代ヨーロッパの多くの言語では、be動詞などの助動詞に過去分詞をつけた複合的な形態で受動態を表現する。 英語では動詞の直接目的語のみならず、間接目的語や、前置詞の補語などを主語にするのも容易であるが、この表現は他の言語ではあまり一般的でない。 They talked about the problem. → The problem was talked about. フランス語でも助動詞として be 動詞に当たる être を用いる。存在・状態や移動を表す自動詞の完了(複合過去)形にも同じ形式を用いるものの、動詞の種類によって容易に区別できる(ドイツ語でも同様。英語でも動詞によっては“Spring is gone.”のような完了的表現ができる)。フランス語では、前置詞補語を主語にする受動態は標準的でなく、不特定の人を表す代名詞onを主語にした表現(能動態のまま)などが普通である。 一方ドイツ語、スペイン語などでは動的と静的(状態的)の2種類の受動態があり、これは助動詞によって区別される。動的受動態はドイツ語 werden、スペイン語 ser で表現され、行為をその時点で表現する。静的受動態はドイツ語 sein、スペイン語 estar で表現され、ある過去の時点の行為を、その結果が残っていることを含意して表現する。このほか、再帰動詞(再帰代名詞を使って「自分を…する」という形)による受動態に似た表現もある。 ドイツ語には「非人称受動態」という構文で意味上の主語を消すことができ、これは自動詞に対しても使える。トルコ語などにも類似のものがある。 能動態:Die Kinder schlafen. 子供たちは眠っている 非人称受動態:虚辞の es を形式的(非人称)主語に使って受動態の形にする:Es wird geschlafen. 「眠られている」=(人が)眠っている 他の副詞句などが文頭に立つと、Esは消える:Hier wird geschlafen. ここで(人が)眠っている 意味上の主語を von 「によって」で再表示することもできる:Es wird von den Kindern geschlafen. 「子供たちによって眠られている」=子供たちが眠っている 不定代名詞manを使った表現も可能。上記のフランス語代名詞onに近い用法。Man schläft.(=Es wird geschlafen.) ラテン語では受動態も能動態と同様に動詞の活用によって表現する。一般に古いインド・ヨーロッパ語ではこれと同様に(あるいは中動態という特殊な態によって)受動態を表現したとされる。 中国語では動詞に由来する「被」などを介詞(前置詞)として、受動態を表現する。 “我 被(狗)咬了”「私は(犬に)噛まれた」 タガログ語では、目標焦点(行為者でなく行為対象が話題となっていることを動詞に表示する)を受動態とも呼ぶが、これは日本語の「この家は彼が建てた」に近い表現である。 フィンランド語などでは、「風で家が壊された」などの自然現象に関して、受動態の代わりに主語人称を特殊なもの(普通は用いない)にして表現する方法がある。 このほか受動態表現のない言語も多いが、文のある要素を相対的に強調するなどといった方法で類似の表現が行われる。 日本手話手話の動詞の中で方向性のある動きをもつものが「有方向詞(ゆうほうこうし)」とよばれる。この方向によって「誰が」「誰を」のような単語間の関係や「能動態」「受動態」などを表現するとされる。 有方向詞(“ゆうほうこうし”)の例。 画像-1 「見る」と「見られる」 見る:人差し指と中指の二指を視線に見立て相手に向かって動かすと「見る」という能動態なる 見られる:この二指を相手から自分に向けて動かすと「見られる」という受動態になると説明される。 ひろく一般的には上のように言われているものの,この受動態説には異論もある。下の画像とその説明の通り。 画像-2 「渡す」と「受け取る」 渡す:両手を重ね相手に向かって動かすと「渡す」となる。 受け取る:これを相手から自分に向けて動かすと「受け取る」となり,上の「見る」「見られる」のような“能動態”“受動態”の関係にはなっていないように見える。 つまりこれと同様に上の画像-1「見る」の方向の違いは「能動態」「受動態」にはならず,「私があなたを見る」「あなたが私を見る」という意味上の違いとなるだけだというわけである。 そこで,日本手話においても「ロールシフト」「指さし」「話題化のうなずき」などを用いればこれらの項目を満たすことができると考えられるが,現段階では手話学者の総意の一致をみていないゆえに状況を記述するのみとする。
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