梅雨
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梅雨の気象の特徴
梅雨入り前の5 - 6月ごろ、日本の南岸に前線が一時的に停滞し、数日間程度梅雨に似た天候がみられることがある[20]。これを走り梅雨(はしりづゆ)[20]、梅雨の走り(つゆのはしり)、あるいは迎え梅雨(むかえづゆ)と呼ぶ。
梅雨入り当初は比較的しとしととした雨が連続することが多い。梅雨の半ばには一旦天気が回復する期間が出現することがある。この期間のことを梅雨の中休み(つゆのなかやすみ)という。
梅雨の時期、特に、長雨の場合は、日照時間が短いため、気温の上下(最高気温と最低気温の差、日較差)が小さく、肌寒く感じることがある。この寒さや天候を梅雨寒(つゆざむ)または梅雨冷(つゆびえ)と呼ぶ。一方、梅雨期間中の晴れ間は梅雨晴れ(つゆばれ)または梅雨の晴れ間と呼ばれ、特に、気温が高く、湿度も高い。そのため、梅雨晴れの日は不快指数が高くなり過ごしにくく、熱中症が起こりやすい傾向にある。
梅雨末期には降雨量が多くなることが多く、ときとして集中豪雨になることがある。中国地方および九州の東シナ海側ではこれが顕著で、特に熊本県・宮崎県・鹿児島県の九州山地山沿いでは十数年に1回程度の割合で短期間に1000mm程度の大雨が降ることがある。逆に、関東や東北など東日本および徳島県南部・高知県と大分県佐伯市・宮崎県では梅雨の時期よりも台風と重なる秋雨の時期のほうが雨量が多い。
梅雨末期の雨を荒梅雨(あらづゆ)あるいは暴れ梅雨(あばれづゆ)とも呼ぶ。また、梅雨の末期には雷をともなった雨が降ることが多く、これを送り梅雨(おくりづゆ)と呼ぶ[21]。また、梅雨明けした後も、雨が続いたり、いったん晴れた後また雨が降ったりすることがある。これを帰り梅雨(かえりづゆ、返り梅雨とも書く)または戻り梅雨(もどりづゆ)と呼ぶ[21]。これらの表現は近年ではあまり使われなくなってきている。
梅雨明けが遅れた年は冷夏となる場合も多く、冷害が発生しやすい傾向にある。
梅雨は日本の季節の中でも高温と高湿が共に顕著な時期であり、カビや食中毒の原因となる細菌・ウイルスの繁殖が進みやすいことから、これらに注意が必要な季節とされている[7]。
空梅雨
梅雨の期間中ほとんど雨が降らない場合がある。このような梅雨のことを空梅雨(からつゆ)という。空梅雨の場合、夏季に使用する水(特に稲作に必要な農業用水)が確保できなくなり、渇水を引き起こすことが多く、特に青森、岩手、秋田の北東北地方においては空梅雨になる確率がかなり高く、また、秋季〜冬季の降水量が少ない北部九州や瀬戸内地方などでは、空梅雨の後、台風などによるまとまった雨がない場合、渇水が1年以上続くこともある。
陰性・陽性
あまり強くない雨が長く続くような梅雨を陰性の梅雨、雨が降るときは短期間に大量に降り、降らないときはすっきりと晴れるような梅雨を陽性の梅雨と表現することもある。陰性の梅雨を女梅雨(おんなづゆ)、陽性の梅雨を男梅雨(おとこづゆ)とも呼ぶこともあり、俳句では季語として使われる場合がある。
傾向として、陰性の場合は、オホーツク海高気圧の勢力が強いことが多く、陽性の場合は、太平洋高気圧の勢力が強いことが多いが、偏西風の流路や、北極振動・南方振動(ENSO、エルニーニョ・ラニーニャ)なども関係している。
台風との関連
台風や熱帯低気圧は地上付近では周囲から空気を吸い上げる一方、上空数千m-1万mの対流圏上層では吸い上げた空気を湿らせて周囲に大量に放出している。そのため、梅雨前線の近くに台風や熱帯低気圧が接近または上陸すると、水蒸気をどんどん供給された梅雨前線が活発化して豪雨となる。また、梅雨前線が、勢力が弱まった台風や温帯低気圧とともに北上して一気に梅雨が明けることがある。
梅雨の豪雨パターン
梅雨の時期の大雨や豪雨の事例をみていくと、気圧配置や気象状況にある程度のパターンがあるといわれている。日本海側で豪雨になりやすいのが日本海南部、あるいは朝鮮半島に停滞する梅雨前線付近を低気圧が東に進むパターンで、低気圧に向かって南西から湿った空気が流れ込み、その空気が山脈にぶつかって局地的な豪雨となりやすい。
太平洋側で豪雨になりやすいのが、梅雨前線が長期的に停滞するパターンや、太平洋側付近に梅雨前線、西側に低気圧がそれぞれ停滞するパターンであり、南 - 南東から湿った空気が流れ込み、同じようにその空気が山脈にぶつかって局地的な豪雨となりやすい。
このほか、梅雨前線沿いにクラウドクラスター(楕円形の雲群をつくる降水セルの一種)と呼ばれる積乱雲の親雲が東進すると、豪雨となりやすいことが知られている。上空の大気が乾燥している中国大陸や東シナ海で形成され、日本方面へやってくることが多い。
海洋変動との関連
統計的にみて、赤道付近の太平洋中部-東部にかけて海水温が上昇・西部で低下するエルニーニョ現象が発生したときは、日本各地で梅雨入り・梅雨明け共に遅くなる傾向にあり、降水量は平年並み、日照時間は多めとなる傾向にある[22]。また、同じく中部-東部で海水温が低下・西部で上昇するラニーニャ現象が発生したときは、沖縄で梅雨入りが遅めになるのを除き、日本の一部で梅雨入り・梅雨明けともに早くなる傾向にあり、降水量は一部を除き多め、日照時間はやや少なめとなる傾向にある[23]。
梅雨前線によってもたらされた災害
日本
梅雨の気象記録
- 最大1時間降水量
- 最大年間降水量
注釈
- ^ a b 梅雨前線のもととなる対流(雲)は、大気の相当温位θeの減率が大きいほど強くなる。大気の温度や湿度が高いほどθeは大きいので、乾と湿、あるいは寒と暖の性質を持つ気団の衝突によって大気のθe減率が大きくなることで、前線の雲が発生しやすくなる。
- ^ 2004年に立秋の2日以降になってもまだ梅雨が明けない場合は梅雨明けを発表(特定)しないことを定めた。また8月31日の時点で梅雨明けしない場合は梅雨明けなしとなる(扱いは梅雨明け特定なしと同じ)。ちなみに、梅雨明け特定なしは何度があるが、梅雨明けなしは現時点では唯一、1993年だけである。1993年の記録的長雨では、沖縄と北海道以外での梅雨が、8月も梅雨となり(8月の梅雨は度々発生する青森・岩手・秋田の北東北3県を除き観測史上では極めて稀である)、2ヶ月半以上にわたって梅雨が続いた状態であったため、梅雨明け時期は特定しなかった。
- ^ なお、「リラ冷え」は1970年代から知られるようになった言葉で、俳人の榛谷美枝子が初めて俳句に用いたものを、辻井達一が著書で紹介、それがさらに渡辺淳一によって引用され小説『リラ冷えの街』となり、テレビドラマ化もされたことが契機となって広まったと伝えられている。
出典
- ^ a b c d e f g h i キーワード 気象の事典、加藤内蔵進「梅雨」221-226頁
- ^ 甲東哲、先田光演 編、『分類沖永良部島民俗語彙集』、p258、2011年、鹿児島、南方新社、ISBN 978-4-86124-209-0
- ^ 岩倉市郎、『喜界島方言集』p192、1941年、東京、中央公論社
- ^ “내일 첫 장맛비…올 장마 짧지만 굵다” (朝鮮語). KBS 뉴스 (2019年6月25日). 2023年7月16日閲覧。
- ^ a b c K.Iwata (2005年6月25日). “中国語の落とし穴026【出梅】”. 中国語学習ノート. 2009年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月11日閲覧。
- ^ a b 『夏(6〜8月)の天候』(PDF)(プレスリリース)気象庁、2021年9月1日 。2021年9月2日閲覧。
- ^ a b Yahoo!百科事典『梅雨(ばいう)』
- ^ 二宮、81-84頁
- ^ 二宮洸三 『豪雨と降水システム』、121-122頁、東京堂出版、2001年 ISBN 4-490-20435-3
- ^ “昭和26年(1951年)以降の梅雨入りと梅雨明け(確定値)”. 気象統計情報. 気象庁. 2022年9月2日閲覧。
- ^ a b 『気象予報士ハンドブック』、2008年、§1-3-2
- ^ a b 『気象予報士ハンドブック』、2008年、§1-3-5
- ^ a b 藤川典久 (2018). “北海道に梅雨のない時代は終わったのか?”. 細氷 (日本気象学会北海道支部) (64) .
- ^ 「榛谷美枝子さん:季語「リラ冷え」の俳人、1月に96歳で永眠、香る花に託した思い /北海道」毎日新聞、2013年5月31日北海道版
- ^ 豊島秀雄「ことば(放送用語) > 放送現場の疑問・視聴者の疑問 > 北海道の「リラ冷え」、本州の「花冷え」と同じ?」、NHK放送文化研究所、1999年5月1日付
- ^ “えぞ梅雨? 北海道内で雨や曇り続く 札幌は11日連続の降水”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年6月16日). オリジナルの2014年7月14日時点におけるアーカイブ。
- ^ 森田正光 (1999年8月30日). “小笠原に梅雨はある?”. 森田さんのお天気ですかァ?. TBSテレビ. 2009年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年8月16日閲覧。
- ^ 『장마의 시작과 끝(평년값)(梅雨の開始と終了 平年値)』(html)(プレスリリース)大韓民国気象庁、2009年5月26日 。2021年3月5日閲覧。
- ^ 幡野泉 (2006年5月30日). “韓国にも「梅雨」はあるの?”. 季節から学ぶ韓国語. All About. 2009年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月11日閲覧。
- ^ a b c 最新気象の事典 p.429.朝倉正「走り梅雨」
- ^ a b 最新気象の事典 p.46.平塚和夫「送り梅雨」
- ^ “エルニーニョ現象に伴う日本の天候の特徴”. エルニーニョ/ラニーニャ現象に関するデータ. 気象庁. 2007年6月29日閲覧。
- ^ “ラニーニャ現象に伴う日本の天候の特徴”. エルニーニョ/ラニーニャ現象に関するデータ. 気象庁. 2007年6月29日閲覧。
- ^ a b c “梅雨って何?(3) どう生かす 「梅雨」への高い関心”. asahi.com (朝日新聞社). (2005年6月13日) 2017年6月7日閲覧。
- ^ 浅野芳『お天気おじさんうちあけ話』家の光協会(原著1981年7月)、p. 123頁。ASIN B000J7XODO。
- ^ a b c 最新気象の事典 p.389.平塚和夫「菜種梅雨」
- ^ a b 日本国語大辞典、世界大百科事典内言及, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、デジタル大辞泉、とっさの日本語便利帳、大辞林 第三版、日本大百科全書(ニッポニカ)、精選版. “菜種梅雨(なたねづゆ)とは”. コトバンク. 2020年5月31日閲覧。
- ^ a b c d “「春の長雨」と「菜種梅雨」、同じ意味? | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所”. www.nhk.or.jp. 2020年5月31日閲覧。
- ^ a b c 最新気象の事典 p.28.平塚和夫「卯の花くたし」
- ^ a b 最新気象の事典 p.226.朝倉正「秋霖」
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