繁殖・発生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/13 06:02 UTC 版)
生活史(せいかつし、英: life history) 生まれてから死亡するまでの個体または種の生活過程。 成魚(せいぎょ、英: adult) よく成長し、繁殖能力を備えた魚。最初の成熟に達してから、それ以降の魚。 未成魚(みせいぎょ、英: ) 鱗が出来上がってから最初の成熟に達するまでの発育段階。 若魚(わかうお、英: young, adolescent) 種の特徴は明らかであるが、体形に少しの差異があるもの。 幼魚(ようぎょ、英: fry) 孵化してから成魚になるまでの一般的な名称。仔魚、稚魚、未成魚ほど厳格に扱われていない。 稚魚(ちぎょ、英: juvenile) 全ての鰭の条数が成魚の鰭の条数と同数になってから鱗が出来上がるまでの期間。体の各部比、色彩、生態など成魚とかなり異なる。 仔稚魚(しちぎょ) 仔魚と稚魚を合わせていう言葉。 仔魚(しぎょ、英: larvae) 孵化してから各鰭の鰭条数が成魚と同数になるまでの幼生。 レプトケファルス幼生(-ようせい、レプトケファルス、レプトセファルス幼生、レプトセファルス、英: leptocephalus)または 葉形仔魚(ようけいしぎょ)、葉形幼生(ようけいようせい) ウナギ目、カライワシ目などの幼生。体は大型で、リボン状(柳の葉のような形)をし、透明である。レプトケファルス幼生の体には細胞外マトリックスであるグリコサミノグリカン(英: glycosaminodlycan、GAG)という粘液多糖類が大量に蓄積される。 トリクティス幼生(-ようせい、トリクティス、トリクチス幼生、トリクチス、英: tholichthys) チョウチョウウオ類(チョウチョウウオ科、クロホシマンジュウダイ科)の幼生。頭が大きく、皮膚が固く、突起がある。 アンモシーテス幼生(-ようせい、アンモシーテス、英: ammocoetes) ヤツメウナギ目の幼生。成魚との形態的差異が激しい。口は漏斗状で、眼は皮下に埋没している。口には歯がなく、口内の繊毛運動で微細有機物(プランクトンやデトリタス)を濾過摂食する。河川の泥中に棲み、生育域は一つの河川系に限られる。成長すると体は短くなり、頭巾のような唇は吸盤に、口内の繊毛は歯に変わり、眼も現れる。2基の背鰭が完成し、尾鰭と分離する。種によって幼生期は3-7年であり、日本産のものは3.5-4年程度である。 変態(へんたい) 幼魚期には成魚と著しく異なった形態をしているものが、急に成魚に類似した姿に変化すること。ウナギ目、カレイ目、マンボウ科などで有名。再演的変態と後発的変態がある。再演的変態(さいえんてきへんたい) その動物の先祖の形態(系統発生の途中の一時期の形態)が幼時に一度あらわれてのちに成体の形に変わるもの。サヨリ科、ダツ科などのように成魚の著しく長い吻は後期仔魚期の初めごろまでは全くなく、後仔魚期から稚魚期にかけて急に発達する。またカレイ目の魚も後期仔魚期までは左右対称であるが、後期仔魚期の終わりに急に眼が片側に回り、非対称となる。 後発的変態(こうはつてきへんたい) 幼時の形態が先祖の形態とまったく関係のないもの。チョウチョウウオ科、カノコウオ科の魚は幼時には頭部の骨格の一部が棘状に伸びている。また、レプトケファルス幼生もこれに当る。金平糖のような棘があるマンボウ科の幼魚もこれである。 卵生(らんせい、英: oviparity) 卵巣卵が成熟して体外に放出されたのちただちに体外に排出され発生する現象。単卵生(たんらんせい) サメ類の卵生の一タイプ。受精卵が輸卵管に移動するとすぐに2個ずつ産卵され、これが繰り返される。軟骨魚類ではネコザメ目、多くのトラザメ類、一部のテンジクザメ目、ギンザメ類、ガンギエイ類に見られる。 複卵生(ふくらんせい) サメ類の卵生の一タイプ。受精卵がしばらくの間子宮にとどまり、胚がある程度成長してから産卵されるもの。ナガサキトラザメなどにみられる。 胎生(たいせい、英: viviparity) 胚が母体内で胎盤などによって栄養を取り、よく発達して出産すること。卵黄依存型胎生(らんおういそんがたたいせい、らんおういぞんがたたいせい) サメ類の胎生(卵胎生)の一タイプ。自分の卵黄だけで成長するもの。真正のもの(アブラツノザメなど)と偶発胎生(ジンベエザメなど)がある。 母体依存型胎生(ぼたいいそんがたたいせい、ぼたいいぞんがたたいせい) サメ類の胎生(卵胎生)の一タイプ。母親から栄養をもらい成長するもの。無精卵や自分自身の卵黄を食べるもの(ホホジロザメなど。ときに兄弟を食べるもの(シロワニなど)もいる)と子宮壁から分泌される子宮ミルクを栄養とするもの(アカエイなど)、胎盤により栄養を受け取るもの(シュモクザメ類など)の3つがある。 卵胎生(らんたいせい、英: ovoviviparity) 雌の体内で卵が孵化し、稚魚となって体外へ出てくるもの。胎生との区別は曖昧であり、近年は卵胎生と胎生は厳密に区別するべきものではないと考えられ始めている。浮性卵を生む魚などに比べ産卵数が少ない。ウミタナゴ、メバルなど。 性転換(せいてんかん、英: sex reversal, sex change) 一生のうち性が逆転し、雄から雌、または雌から雄に変化する現象。また、卵巣部と精巣部を持つ雌雄同体のもので、一方の性が機能したあともう一方の性が機能することもいう。ハタ科、タイ科、ベラ科、チョウチョウウオ科、スズメダイ科などの魚にみられる。雌性先熟(しせいせんじゅく、英: protogyny) 先に雌として働いた後、雄に性転換する現象。ソードテール、ミズウオ、ハタ、タウナギ、カンムリベラ、キュウセンなど。 雄性先熟(ゆうせいせんじゅく、英: protandry) 初めは雄として働き、後に性転換して雌になる現象。クロダイ、コチなど。 単為生殖(たんいせいしょく、英: parthenogenesis) または 処女生殖(しょじょせいしょく) 雌が雄と関係なしに単独で新個体を生ずる生殖法。ギンブナのある個体群やアマゾンモリーなどでは集団の中に雄がおらず、雌の産んだ卵が近縁種の精子により賦活され発生し、それが雌の個体となる(偽受精)。このことをジノゲネシス(英: gynogenesis)という。またウチワシュモクザメは一定の環境下で単為生殖をおこなう。 一時性徴(いちじせいちょう) 雌雄の生殖腺や生殖器にみられる性徴。 二次性徴(にじせいちょう、英: secondary sexual character) 成熟により性ホルモンの作用で生殖腺以外の部位の大きさ、構造、色合いなど(体、頭部、鰭などの大きさや形、眼の位置、発光器の形と位置、育児囊の有無、色彩)が雌雄で異なること。 托卵(たくらん、英: brood parasitism) 他個体に卵を托し、育てさせること。鳥類のカッコウ科などが有名だが、近年魚類でも知られるようになった。托卵する相手の個体を仮親(かりおや、英: host)という。タンガニーカ湖に棲むカッコウナマズは口内保育するシクリッド類に托卵し、その稚魚は口内で仮親の稚魚を食べ成長する(種間托卵、英: intraspecific brood parasitism)。 擬似産卵(ぎじさんらん、英: pseudospawning) 主に魚類で見られる、実際に卵を放出ことのない産卵行動。スズメダイやカワスズメなどにみられる。繁殖期以外にも観察されたり、雄同士のペアでも行われたりする。繁殖とは直接関係なく個体間での社会的関係の調整機能などを果たしているとも考えられているが、その適応的意味はほとんどわかっていない。 偽受精(ぎじゅせい、英: false fertilization) 卵に精子が侵入するにも拘らず精核と卵核が合一するに至らないまま退化し、しかも以後の発生が卵核だけの関与によって進行する現象。魚類でもギンブナなど数例が確認されている。ギンブナは関東地方などでは全個体が雌のことがあるが、これは近縁種のキンブナやニゴロブナの精子によって雌性発生するためである。 求愛行動(きゅうあいこうどう、英: courtship behavior) 産卵に際し、番を組む、または組もうとする相手に対してとる行動。 婚姻色(こんいんしょく、英: naptial color) 産卵期(サケ科では特に河川遡上期)に現れる独特の色彩。産卵期に最も顕著になり、これを過ぎると消失する。雄に現れることが多い。二次性徴で体色に変化が現れる。サケ科では海洋生活をしていたころの銀色が黒ずみ、赤や橙系統の色が加わって鮮やかになる。 同時に生殖腺に筋肉から栄養が行くため、肉の脂や蛋白質、赤身は消えてゆく。雄は鼻曲がりになる。 鼻曲がり(はなまがり) サケ科魚類などで雄の成魚の両顎が曲がった状態になること。 銀化(銀毛、ぎんけ、スモルト、英: silvering, smolt) 孵化した稚魚が成長していく段階で体色がゆっくりと銀色に変わっていくこと。サケ科では尾鰭と背鰭の先端が黒ずみ、他の各鰭も透明度を増し、体全体も白っぽくなる。体つきは細くなり、痩せた魚のようになる。淡水域の河川から塩水の海へ出ていく準備。0歳の初秋のころ起こる。甲状腺ホルモンが関与していると考えられる。ウナギも銀化変態し海での生活に適応する。腹が銀色となった銀ウナギはカウンターシェイディングにより見つかりにくい。 スモルト(英: smolt)は銀化個体(ぎんけこたい)を指す場合もある。擬似銀化(ぎじぎんけ、シュードスモルト、英: pesudo smolt) 雨が豊富で、上流の森が保水力があるため水量が多く、個々の縄張りを持つ必要のない場合や、生息する水域が広く行動する範囲が広い場合、体色が銀色となること。起こる理由は縄張りを持たなくなるからである。 矮雄(わいゆう、英: dwarf male) 雌に比べ体が著しく小さい雄。体制も極度に退化し、雌に寄生している場合が多い。魚類ではアンコウなどにみられる。ミツマタヤリウオの雌は50cm程度で黒いが、雄は3cmほどの大きさで成熟し、白っぽく、歯も消化管も退化する。寄生雄(きせいゆう、英: parasitic male) 同一種の雌に寄生する雄。矮雄である。例えばビワアンコウでは、雌は体長120cmにも達するが、雄は10cm程度しかなく、自由遊泳期を経てメスの体表に吸着し寄生生活に入り、雌の体に完全に癒着する。この雄は呼吸器系、消化器系が退化し、精巣だけが発達する。雌との間には血管の連絡がある。 サテライト(英: satellite) または 衛星雄(えいせいおす) 縄張り防衛や求愛などを行わず、他の雄の繁殖努力に便乗してもしくはその隙をついて繁殖を行う個体。ただし研究者によって定義が異なる。M.Grossによるとスニーカーが成長し、雌擬態によって繁殖中のペアに近づくようになったものを指す。スニーカー(英: sneaker) 水草の陰にひそみ、産卵放精中の番を見つけると突進して放精する小型雄(M.Grossによる定義、サテライトと区別せず用いることも多い)。スニーキング(英: sneaking) 水草の陰に潜んでいて、産卵放精中のペアを見つけると突進して放精すること(M.Grossによる定義)。 ストリーキング(英: streaking) ブルーヘッドベラなどの小型雄が雌とペア産卵している大形雄に突進する行動。 口内保育(口内哺育、こうないほいく、マウスブルーディング、英: mouthbrooding) または マウスブリーディング(英: mouth breeding) 卵もしくは仔魚を口の中に入れて特定の時期まで親魚がこれを保護すること。口内保育魚(口内哺育魚、マウスブルーダー、英: mouthbrooder) または マウスブリーダー(英: mouth breeder) 口内保育する魚。雌は数週間の間絶食に耐える。カワスズメ科、テンジクダイ科、ハマギギ科、アロワナ科、クサウオ科、アゴアマダイ科、キノボリウオ科、オスフロネムス科、タイワンドジョウ科など10科以上。カワスズメ科は主に雌(雌雄交替で口内保育する種もある)が、テンジクダイ科(ネンブツダイ、キンセンイシモチなど)では雄が口内保育する。 生殖隔離(せいしょくかくり) 集団間で交雑が起こらないこと。 基質産卵魚(きしつさんらんぎょ) 石や流木、水草の広い葉などの上に卵を産み付ける魚。エンゼルフィッシュなど。 泡巣(あわす、英: bubble nest) ベタなどアナバンディ類の発情した雄が水面に口を使って盛り上げる細かい泡。雄は雌をこの巣の下に誘い込み、自分の体をU字型に曲げて雌を抱きしめ、産卵を行う。受精卵は雄によって全て泡巣に収められ、稚魚が泳ぎだすまで雄により保護される。 産卵床(さんらんしょう) 産卵する場所。サケ、マス類は砂礫底を掘り、スズメダイは岩の表面の藻類や付着動物を歯で削り取って作る。 産卵記号(さんらんきごう、英: spawning mark) 鱗上に刻まれる繁殖期の痕跡。すべての魚類にみられるわけではない。産卵期になると成熟に伴う代謝量の増加、摂食活動の低下(停止)に伴い、鱗の表面や骨質層に吸収現象が生じる。産卵期が終わり、通常の生活に戻ると、吸収部の外側に新しい隆起線が形成され、吸収部の乱れた隆起線は痕跡として残る。 浮性卵(ふせいらん、英: pelagic egg) 卵の比重が周りの水の比重よりも小さく、水中を浮遊する卵。海水魚がほとんど。うち表層を浮遊する浮性卵を表層浮性卵という。凝集浮性卵(ぎょうしゅうふせいらん) 表層浮性卵の一つ。寒天物質に包まれ、塊となって浮遊する卵。アンコウ類、ミノカサゴ類など。 分離浮性卵(ぶんりふせいらん、英: free pelagic egg) 表層浮性卵の一つ。産み出されたのち、1個ずつ分離して浮遊する卵。マアナゴ・マアジ・マイワシ・マダイ(以上、油球がある)、カタクチイワシ・マダラ・イシガレイ(以上、油球がない)など。 中深層浮性卵(ちゅうしんそうふせいらん) 外洋の中心層を浮遊する卵。ニギス、タチウオなどのもの。 沈性卵(ちんせいらん、英: demersal egg) 卵の比重が周りの水の比重よりも大きく、水底に沈んだり、他物に付着する卵。浮性卵より相対的に大きい。淡水魚、沿岸魚にみられる。粘着沈性卵(ねんちゃくちんせいらん) 粘着卵の一つ。卵表面に粘着性の物質または付着器があり、他物に付着でき、浮力のない卵を言う。コイ・フナ類(粘液で付着)、アユ・シラウオ・ワカサギ・ハゼ・ギンポ類(付着器を備える)などの卵。 粘着塊状卵(ねんちゃくかいじょうらん) 粘着卵の一つ。産み出された卵の表面に粘着糸があり、自然にまたは親魚によって卵塊が形成される。粘液で付着する塊状卵にハタハタ、アイナメ、クジメのものなどがある。 纏絡卵(纒絡卵、てんらくらん) 付属糸で海藻などに絡まる卵。メダカ、サンマ、サヨリ、トビウオなどの卵。 粘着系(ねんちゃくけい、英: adhesive filament) 卵の表面の糸状物。他物に粘着させる役割を持つ。 油球(ゆきゅう、英: oil drop) 卵黄の中にある球形の脂肪の塊。卵の比重を軽くする。
※この「繁殖・発生」の解説は、「魚類用語」の解説の一部です。
「繁殖・発生」を含む「魚類用語」の記事については、「魚類用語」の概要を参照ください。
- 繁殖・発生のページへのリンク