磁石
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/25 07:55 UTC 版)
磁石の原料
金属
磁鉄鉱
天然に産出する磁石として磁鉄鉱(四酸化三鉄、Fe3O4、マグネタイト)が挙げられる。古代からよく知られている磁石、磁鉄鉱(ないし砂鉄)として産出されていたのはこの四酸化三鉄である。砂浜で永久磁石を砂中に挿入すれば、充分に視認することができる。羅針盤の指針を磁化することなどに用いられてきたが、非常に微弱な磁石である。ちなみに磁気を帯びた岩石として知られる須佐高山の磁石石も、その磁気は斑れい岩中の磁鉄鉱によるものである。
焼結磁石
20世紀に入ると、天然の磁鉄鉱に替わり実用に充分な強度を有する磁石が人工的に作られるようになってきた。
主に鉄、ネオジム、サマリウム、コバルトなどが高性能磁石の原材料となっており、一般に流通する磁石の多くは金属磁性粉末を成形して焼き固めた「焼結磁石」である[3]。
ボンド磁石
フェライト磁石を粉末状にしてゴムに練り込んだゴム磁石やプラスチックに練り込んだプラスチック磁石をまとめてボンド磁石あるいはボンデッド磁石という[2]。
プラスチックマグネット
プラスチックマグネット(プラスチック磁石)はプラスチックに磁性材料となる金属を混ぜて成形したもの[3]。
ラバーマグネット
ラバーマグネットは合成ゴムに磁性材料となる金属を混ぜて成形したもの[3]。
磁石の歴史
磁石の歴史について、一説によると古代ギリシアのマグネシアでは磁鉄鉱が採掘されており、これが人類の最初に出会った磁石で、マグネット(magnet)もこの地名に由来しているという[1]。
プラトンは、その著書『イオン』にて「マグネシアの石」として磁石のことを言及している。ローマ帝国の博物学者大プリニウスは、著書『博物誌』にて、マグネスという羊飼いが磁石を偶然発見したと述べている。なお『博物誌』には、ダイヤモンドが磁石の力を妨げるという奇妙な説も記述されている。
一方、古代中国『呂氏春秋』には「石鉄之母也 以有慈石 故能引其子」(鉄の石は母のように子を引き寄せる力を持つ)という記述がある[1]。ほかにも『淮南子』(BC2世紀)、『管子』(BC1世紀)などにおいて鉄を引き寄せる「慈石」に関する言及が見られる[1]。この「慈石」が漢字の「磁石」のもとになった[1]。また、晋書(第五十七巻、列伝第二十七)によると、晋の武将馬隆は、鮮卑の禿髪樹機能との戦において、磁石を大量に用いることで、鉄の鎧で武装した鮮卑の騎兵を足止めしたという逸話が記録されている(原文:或夾道累磁石 賊負鐵鎧 行不得前 隆卒悉被犀甲 無所留礙 賊咸以為神)。ただし、資治通鑑を著した司馬光は、この記述を紹介した折に「恐不可信(おそらく、信ずるべからず)」と、信憑性が低いとの評価を与えている。
日本においては、続日本紀に「和銅6年(713年)近江の国より慈石を献ず」との記述がある他、狂言では「慈石」という演目がある。また、歌舞伎の「毛抜」では、磁石により操られる毛抜が登場する。
11世紀、中国の宋の時代に磁石の針を水に浮かべる原始的な羅針盤が発明され、ヨーロッパにも伝わった[1]。
磁石に対し、近代的な科学の光をあてたのは、エリザベス1世の侍医であったウイリアム・ギルバートである。その著書『磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理学』(De Magnete, Magneticisque Corporibvs,et De Magno Magnete Tellure) においてギルバートは、磁石に関する俗説や既知の現象について詳細に検証している。例えば、羅針盤の指北性を論じるにあたり、球形の磁石を作製し、これに対する磁針の振舞いを観察している。この結果、地球そのものが磁石であると結論付けている。また、琥珀などが軽い羽毛などを引きつける静電引力は、磁力とは異なる現象であるとも論じている。ギルバートの実験と論証による方法論は、その後の科学に多大な影響を与えた。
産業革命が起き製鉄技術や冶金技術が発展したが磁石には鉄や炭素鋼が使われるだけで特に進歩はなかった[1]。しかし、20世紀になり日本の本多光太郎らが「KS鋼」を発明したことが近代磁石の第一歩となり工業の発展に大きな貢献を果たした[1]。
- 1825年:ウィリアム・スタージャンによって電磁石が発明された。
- 1917年:本多光太郎らによってKS鋼が発明された。
- 1931年:三島徳七によってMK鋼が開発された。
- 1933年:アルニコ磁石が発明された。
- 1934年:新KS鋼が開発された。
- 1937年:東京工業大学の加藤与五郎、武井武によってフェライト磁石が発明された。
- 1970年代前半:サマリウムコバルト磁石が発明された。
- 1971年:東北大学の金子によって鉄-クロム-コバルト磁石が開発された。
- 1970年代:松下電器(現在:パナソニック)によってマンガンアルミ磁石が開発された。
- 1982年:住友特殊金属(現在:日立金属NEOMAX)の佐川眞人によってネオジム磁石が発明された。
- 2004年:イギリスのダラム大学の研究者によってプラスチック磁石が発明された。
磁石の用途
方位磁針
磁石が最初に実用化された分野は、地磁気によって磁石が南北を指すことを利用した方位磁針である。方位磁針は中国で宋の時代に発明されたのち、ヨーロッパへと移入されて改良され、航海術を大幅に進歩させて大航海時代を出現させることとなった[1]。現代でも磁石を用いた方位磁針は広く用いられており、登山など様々な分野で使用されている。
工業
日常の電化製品でよく見かける磁石の用途として、モーターやスピーカーが挙げられる。これらは永久磁石と電磁石を用いて、電気エネルギーを回転や空気の振動といった力学的エネルギーに変換している。
カセットテープ、ビデオテープ、ハードディスクといった記録メディアは、磁化された向きによって情報を記録している。情報の読み出しには、電磁誘導や巨大磁気抵抗効果 (GMR)、ごく最近になってトンネル磁気抵抗効果 (TMR) が利用されている。
電子顕微鏡の電子レンズや粒子加速器などでは、磁石は電子などの荷電粒子を狙った方向に曲げるために用いられている。また、トカマク型などの核融合では、高温のプラズマを封じ込めるためにも用いられている。
磁石は、リニアモーターカーの磁気浮上や、リードスイッチやMRセンサーなどの非接触センサーと共に用い、近接感知、位置決め等の用途にも利用されている。
医療
核磁気共鳴画像法といった医療用途に利用されている。
5cmくらいの棒状のアルニコ磁石は、牛に飲み込ませて第3胃内の針金など鉄片を束状に吸着させ、創傷性心膜炎を予防するために使われる。
爆発や破裂(主に戦争)などで鉄の小片が体内や顔面に食い込んだ場合、切開する手間より、強力な磁力を用いて取り除き、応急処置を行う。
磁石の磁気を用いて血流を促進させ、健康回復を促進すると謳う代替医療の商品(装身具)が多々存在するが、血中のヘモグロビンに含まれる鉄分は、磁気に反応しない性質を持つ。
磁石を用いた入れ歯なども開発されている。
文具
小型の磁石をプラスチック等で包み、金属面やホワイトボードに付けて目印としたり、書類を留めたりする文具がある。一般に「マグネット」と呼ばれることが多い。形状としては細長いバー型、丸いメダル型、つまみのようなプル型、さらには乗り物、食品、動物、キャラクターなどの形を模したものがある。近年は小型で強力なネオジム磁石が安価になり、これを使った新製品も多い。
産業
産業の分野では、鋼板や鋼鉄製部材の移動や鉄屑(スクラップ)の分別に使用する、リフティングマグネットと呼ばれる機械がある。クレーンの先に取り付けて使用するものや、油圧ショベルの先端をリフティングマグネットに改造したものなどが存在し、主に工場やスクラップ集積場で使用される。
磁石と同じ種類の言葉
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