線形動物とは? わかりやすく解説

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せんけい‐どうぶつ【線形動物】

読み方:せんけいどうぶつ

古い分類体系による動物群の名称。円形動物ともいった。現在では袋形動物門とし、線虫線形虫鉤頭虫(こうとうちゅう)の3綱に分けられる

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線形動物

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線形動物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/11 08:18 UTC 版)

線形動物門
ダイズシストセンチュウ
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 糸形動物 Nematoida
: 線形動物門 Nematoda
学名
Nematoda Diesing, 1861
和名
線形動物門
英名
Nematode, Roundworm
下位分類

線形動物(せんけいどうぶつ、学名:Nematoda、英名:Nematode, Roundworm)とは、線形動物門に属する動物の総称である。線虫ともいう。かつてはハリガネムシなどの類線形動物 (Nematomorpha) も含んだが、現在は別の門とするのが一般的。また、日本では袋形動物門の一綱として腹毛動物鰓曳動物動吻動物などとまとめられていたこともあった。回虫鞭虫などが含まれる。

大半の土壌海洋中で非寄生性の生活を営んでいるが、同時に多くの寄生性線虫の存在が知られる。植物寄生線虫学 (nematology) では農作物に被害をもたらす線虫の、寄生虫学 (parasitology) ではヒト脊椎動物に寄生する物の研究が行われている。

種と多様性

線形動物には、人間の寄生虫をはじめ、人間の生活に関わりの深いものも多く、それらの研究が進められる一方、自由生活のものの研究は後回しになりがちであった。しかし、自由生活のものの方がはるかに種数が多く、その研究が進むにつれ、種類数はどんどん増加しているので、どれくらいの種数があるかははっきりとは言えない状況である。その最大限の見積もりは、なんと1億種というものがある。これは、海底泥中での研究において、サンプル中の既知種の割合から算定されたものである。これが本当であれば、これまで最大の六脚類の種数を大きく抜き去り、地球上の生物種の大半は線形動物が占めていることになる。

土壌中に莫大な個体数がおり、地球上のバイオマスの15%を占めているともいわれ、生態的に重要な位置を占めていると思われる[1]細菌など微生物を食べているものと思われる。線形動物を捕食するものには、昆虫などがあり、また、菌類には線虫寄生菌や、食虫植物のように線虫を捕獲する線虫捕食菌というものがある。

海ではメイオベントスとして、海藻の表面、砂底、泥底に広く生息し、浅海から深海に至るあらゆる海域で生息している。種数的にも、重量的にも、個体数的にもメイオベントスの中で1位か2位の座を占めている。また、間隙性生物としても大変普遍的な生物であり、種数も間隙動物の中では非常に多い部類である。個体数としても大変多く、100㏄の砂(片手で一すくいした程度)に数千匹が入っているほどである。日本の海産の線虫の新種は、鬼頭研二氏や吉村克生氏が報告してきた経緯があり、1985年時点ではたった60種類ほどの報告のみであり[1]、現在も報告されている種はごくわずかである。

ヒトとの関わり

ヒトには、カイチュウ(回虫)、ギョウチュウの他、(蚊)がベクターとなって、リンパ系フィラリア症や象皮症病原体であるマレー糸状虫、バンクロフト糸状虫が感染する。また、魚介類を通して感染するアニサキスも線虫の1種。

特にカイチュウは戦前には日本人はほとんど全員に寄生していたほどに普通であった。しかし、現在ではほとんど見ることができない。これは、カイチュウの感染経路が遮断されたためである。卵が糞便とともに排出され、それが口にはいることで感染するので、現在のように、糞便の処理が行われ、また、畑に下肥が入らない環境では生活史が維持できない。他方、卵が手から手へと移るギョウチュウは、現在でも広く見られるらしい。

海外産の輸入腐葉土には膨大なセンチュウが生息していることがあり、注意を要する[要出典]

農林業への影響

植物寄生する物としては松枯れ病を引き起こすマツノザイセンチュウ英語版マツクイムシ参照)[2]や、ダイズ生産上最も問題となるダイズシストセンチュウ英語版などがある。1960年代にカナダバンクーバー島南部のサーニッチ半島に上陸したジャガイモシストセンチュウはこの地方の農業産業を衰退させるほどの損害を与えた。また農作物に及ぼす傷害の形態により、ネグサレセンチュウネコブセンチュウとよばれる農業害虫のグループもある。これらは、薬剤散布のほかにマリーゴールドエンバクなどのコンパニオンプランツを導入することで、減少させることが可能である。

農作物へ及ぼすセンチュウ被害を軽減するためクロルピクリン1,3-ジクロロプロペンなどを成分とした殺虫剤が用いられる[3]。田畑の土壌中のセンチュウを駆除するためには大量の薬剤を用いてガスを発生させ燻蒸する必要があることから、環境へダメージを及ぼす1,2-ジブロモエタンなどの薬剤は既に使用が中止されている[4]

がん検診と線虫

2015年3月11日には、体長約1mmの線虫が、がん患者とそうでない人の尿の匂いを、精度よく識別できたと九州大学などの研究チームによって、アメリカ合衆国科学誌PLOS ONE(プロスワン)』に発表された。

研究チームは、におい分子と結合するたんぱく質が犬とほぼ同数あり、飼育の簡単な線虫に着目。実験してみると、がん患者の尿の匂いを好んで近寄り、逆にがんではない人の尿は嫌って遠ざかることが分かった。健康診断で採取した242人の尿を使って調べると、がんと診断された24人のうち、線虫は23人の尿を選ぶことができた[5][6]

この研究に携わった研究者がベンチャー企業を立ち上げ、線虫を使った膵臓がん疑い検査を2022年より開始することを発表している[7]

実用化された線虫がん検診の手法は企業秘密を含んでおり、生物の走性を利用して判別をおこなうことから、その客観性や精度に対しては一部の専門家や報道から疑念も示されている。疑念のひとつとして、検査や多くの研究がブラインド条件(二重盲検法など)でなく、主観のバイアスが混入する可能性が指摘されるが[8]、これに対し、線虫がん検診を実用化したHIROTSUバイオサイエンス社は、解析員が検査IDのみを知らされていることのほか、線虫が人間の意志を知りえないこと、判定が自動化されていることなどを挙げ、実質的にブラインド同様の検査であると反論している[9]

モデル生物としての線虫

線虫の一種である カエノラブディティス・エレガンス Caenorhabditis elegans(=C. elegans) は多細胞生物モデル生物として盛んに研究が行われ、受精卵から成虫に至る全細胞の発生、分化の過程が細胞系譜として明らかになっている[2]C. elegans 研究の創始者達3名は "Genetic regulation of organ development and programmed cell death" (器官発生とプログラム細胞死の遺伝的制御)で 2002年ノーベル生理学・医学賞を受賞している。

形態

偽体腔をもつ[2][10]。体は細長い糸状で[10][1]、表皮はクチクラが発達しており、上部な構造をしている[1]体節構造をもたない[10]。一部のものは体表に剛毛を持つ。触手や付属肢を持たない。基本的に無色透明である。

海産種は外皮に環節構造(annulation)を持つものが多い[1]

食性

種類により人間に有害な細菌を食べたり、農作物の根に寄生して弱らせたりする[11]

ウィザー氏は1953年に、自由生活性の線虫の食性についての研究結果を発表しており、それによると、食性は口器の形態から4つのグループに分けることができる。以下がその4つのグループである。なお、この分類は必ずしも系統的な分類と一致しているわけではない[1]

  • 主に微小な有機粒子やバクテリアを食べるグループ。口腔がないか、あっても未発達なため、食道の吸引力によって捕食する。
  • 主に珪藻などを食べるグループ。口腔の中には特別な装備がないので、唇や口腔を動かして食物を吸い込む。
  • 砂の表面に生えた菌類をかき取ったり、穴を開けて吸ったりするグループ。口腔に小さな歯に類似した装備を持ち合わせている。
  • 動物を飲み込んだり、穴を開けて液を吸うグループ。発達した針状または歯に類似した装備を持ち合わせている。

生態

雌雄異体で有性生殖をすることがほとんどであるが[10][1]単為生殖を行う種もあり、同一種内で系統により生殖が異なる場合がある。交尾を行う。オスは交尾刺(gubernaculum)を持つことが多い[1]。卵からは仔虫(幼虫ともいう)として孵化し、幼生期を持たない[1]。仔虫は脱皮をしながら大きくなっていく[1]

体長1mmほどの線虫が静電気を使って空中に飛び上がり、昆虫に乗る行動をするものもいる。跳躍は秒速1メートル。(北海道大学広島大学の研究による)[11]

周囲の環境が汚れると2ヶ月間エサを食べずに生きられる幼虫に変態し尻尾で立ち上がれるようになるものもいる[11]

シベリア永久凍土から掘り出された線虫の一種が再び動きだしたといい、4万年以上もの間休眠状態を保っていた[12]

間隙性の線虫を観察していると、尾端を砂粒子に付着させながら体を渦巻き状にまとめる行動がみられる。Trefusia属は細長い尾部をもつため、コイルのように尾を縮めることができる。この行動の意義については、強い水流によって体が砂で破壊されたり流されたりしてしまうのを防いでいるのだと考えられていたこともあった。しかしながら、泥の中に生息する種もこのような行動を示すことがあることから、1974年の研究によれば、移動手段としての意義もあるのではないかとされている。ただし、通常の移動方法はウナギのように体をくねらせて前進するという形をとる。腹側に発達した粘着性の剛毛によってシャクトリムシのような匍匐行動を示す仲間も確認されている。例えば、ニッポンリュウセンチュウはホンダワラコンブの表面を匍匐することで知られ、滑らかな海藻の表面では匍匐前進をすることが有効であることが分かる。他にも、田辺湾の畠島でみられるエピスロネマ科の一種は、砂粒の表面を匍匐することが知られている[1]

分類

分子系統解析によって分類は大きく再編されており、以下の体系も暫定的なものである。

特に表記のない分類群は自由生活性である。

系統

Meldal BH et al.(2007)によるリボソームDNAを用いた分子系統解析では、以下のような系統樹が得られている[13]

線形動物門

ニセハリセンチュウ綱 Dorylaimea

エノプルス綱 Enoplea

クロマドラ綱
Chromadorea

Microlaimoidea

クロマドラ目 Chromadorida

デスモドラ目 Desmodorida

モンヒステラ目 Monhysterida

イソレムス目 Isolaimida

アレオライムス目 Araeolaimida

Plectida

桿線虫亜目 Rhabditina

旋尾線虫亜目 Spirurina

茎線虫亜目 Tylenchina

従来の分類

頭部の感覚器の形態から、2つの綱に分けられていた。

双器綱 Adenophorea
双器と呼ばれる感覚器があるが、双腺はない[2]。ほとんどは寄生生活を送る。自由生活する種のほとんどは陸上で生活[14]
  • クロマドラ亜綱 Chromadoria
    • アレオライムス目 Araeolaimida
    • クロマドラ目 Chromadorida
    • デスモドラ目 Desmodora
    • デスモスコレクス目 Desmoscolecida
    • モンヒステラ目 Monhysterida
  • エノプルス亜綱 Enoplia
    • ドリライムス目 Dorylaimida
    • エノプルス目 Enoplida
    • シヘンチュウ目(糸片虫目) Mermithida
    • イソレムス目 Isolaimida
    • モノンクス目 Mononchida
    • ムスピケア目 Muspiceida
    • ベンチュウ目(鞭虫目) Trichocephalida
双腺綱 Secernentea
双器と双腺の両方がある[2]。ほとんどの種が水中で自由生活[14]
  • 桿線虫亜綱 Rhabditia
    • カイチュウ目(回虫目) Ascaridida
    • カンセンチュウ目(桿線虫目) Rhabditida
    • エンチュウ目(円虫目) Strongylida
  • 旋尾線虫亜綱 Spiruria
    • カマラヌス目 Camallanida
    • センビセンチュウ目(旋尾線虫目) Spirurida
  • ディプロガスタ亜綱 Diplogasteria
    • ヨウセンチュウ目(葉線虫目) Aphelenchida
    • ディプロガスタ目 Diplogasterida
    • クキセンチュウ目 Tylenchida

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k 伊藤, 立則 (1985年2月20日) (日本語). 砂のすきまの生きものたち 間隙生物学入門 (1 ed.). 海鳴社. pp. 15-18 
  2. ^ a b c d e 白山義久 著「線形動物門」、白山義久(編著) 編『無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)』裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ5〉、2000年、142-144頁。ISBN 4785358289 
  3. ^ 千葉修「殺線虫剤」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p184 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行
  4. ^ 使用禁止農薬リスト” (PDF). 農林水産省. 2020年6月3日閲覧。
  5. ^ 毎日新聞2015年3月12日
  6. ^ Hirotsu T, Sonoda H, Uozumi T, Shinden Y, Mimori K, Maehara Y, et al. (2015-03-11). “A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis elegans Scent Detection”. PLOS ONE 10 (3). doi:10.1371/journal.pone.0118699. ISSN 1932-6203. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0118699. 
  7. ^ 線虫で膵臓がん疑い調査 ベンチャー企業、来年から”. 産経ニュース (2021年11月16日). 2021年11月16日閲覧。
  8. ^ 精度が疑問視された線虫がん検査、ブラインド条件での検証を望む:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2023年10月20日). 2023年11月25日閲覧。
  9. ^ 一部メディアでの報道について”. 2023年11月25日閲覧。
  10. ^ a b c d 藤田敏彦『動物の系統分類と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2010年、151-152頁。 ISBN 9784785358426 
  11. ^ a b c 読売新聞 2023年7月31日 30面
  12. ^ NHK NEWS WEB
  13. ^ Meldal BH et al. (2007). “An improved molecular phylogeny of the Nematoda with special emphasis on marine taxa”. Mol Phylogenet Evol. 42 (3): 622-636. doi:10.1016/j.ympev.2006.08.025. 
  14. ^ a b 藤田敏彦『動物の系統分類と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2010年4月28日。 ISBN 978-4785358426  pp.136-137.

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