不完全履行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 14:30 UTC 版)
履行遅滞や履行不能のように、債務者による履行行為が無いという消極的容態によってではなく、債務者により積極的に履行行為がなされたが、それが不完全なものであったために債権者に損害が生じた場合を、不完全履行(独:Schlechterfüllung)、不完全給付ないしは積極的債権(契約)侵害(独:Positive Vertragsverletzung, Positive Forderungsverletzung)と称し、履行遅滞・履行不能とは別の、第三の債務不履行形態として位置づけられている。 比較法史的には、かつて立法及び学説において債務の不履行は債務者の遅滞及び履行不能をもって尽きるものとしていたために、ドイツの学説の問題提起を受けて立てられた概念である。 日本民法は「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」は、債権者は損害賠償を請求することができるものとしており(415条)、このような場合も債務不履行に含まれることは疑いがない。このために、あえて条文に無い概念を導入する必要はないとの批判もある。しかし、履行遅滞や履行不能と異なり、外見上は債務の履行があるため、債権が時効によって消滅しない限りは強制履行や解除を認めるべきかは問題であり、例えば落丁のある本を数年使用収益した後、新品の本の給付を請求するような場合など、一定の場合にはこれを制限すべき場合が生じる。その根拠として信義則の規定などが挙げられている。 従来、債務不履行には、この三つの態様のものがあるとされていたが、判例・学説は415条前段の債務の本旨に従った履行をしないというのには、契約の本来の給付義務に付随する説明義務・情報提供義務などの付随義務違反、更に雇用契約における使用者の労働者に対する安全配慮義務のように相手方の利益を保護すべきだという保護義務違反のような態様のものを含むと解するようになっている。
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