不完全性定理によるヒルベルト・プログラムの発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 10:04 UTC 版)
「ゲーデルの不完全性定理」の記事における「不完全性定理によるヒルベルト・プログラムの発展」の解説
「無矛盾性」、「ヒルベルト・プログラム」、および「数学基礎論」も参照 フランセーンによれば、数学者ダヴィット・ヒルベルトは「数学に“イグノラビムス(ignorabimus, 永遠に知られないこと)”はない」と述べた。数学上に不可知は無く、全ての問題は最終的に解決されるというヒルベルトのこの見方は、「ノン・イグノラビムス」として知られている。ゲーデルの不完全性定理は、「決してこのヒルベルトの楽天的な見方を否定するものではない」とされている。何故なら、不完全性定理によって否定されたものとは単に、「ノン・イグノラビムス」へ到達する手段の一つとしてヒルベルトが提案したもの ―― すなわち、「すべての数学の問題が解けるような単一の形式体系」 ―― であり、「ノン・イグノラビムス」自体は否定されていないからである。 実際ゲーデル自身は以下のような、「ノン・イグノラビムス」的なヒルベルト流の見解を持っていた。 「あらゆる算術の問題をその中で解決する単一の形式体系を定めることは不可能であっても、新しい公理や推論規則による数学の拡張が限りなく続いていくなかで、どんな算術の問題もいずれどこかで決定されるという可能性は排除されていない。」 こうした見解に基づき、ゲーデルは現代数学を拡張する手段として「巨大基数公理」を提案した。哲学等において「不完全性定理がヒルベルトのプログラムを破壊した」という類の発言がよくあるが、これは実際の不完全性定理やゲーデルの見解とは異なる。正確に言えば、ヒルベルトの目的(数学の「無矛盾性証明」)を実現するには手段(ヒルベルト・プログラム)を拡張する必要がある、ということをゲーデルが不完全性定理を通して示したのだった。日本数学会が編集した『岩波 数学辞典』第4版では、不完全性定理について次の通り記述されている。 「ゲーデルも書いているように,有限の立場は特定の演繹体系として規定されるものではないから,彼の結果はヒルベルトの企図を直接否定するものではなく,実際この定理の発見後に無矛盾性証明のための様々な方法論が開発されている.」 「ゲンツェンの無矛盾性証明」も参照 述語論理式を自然数論の体系内に構成し、証明を形式的に進めるために、ゲーデルはゲーデル数化という操作を導入した。自由変数、論理式、証明図などを自然数でコード化し証明可能、反証可能などの概念を数論的関数として表現する。このように、論理式や証明を数学的に表現して数学内に埋め込む上記の手法は、数学そのものを分析する「超数学(メタ数学)」を、分析すべき数学の中に写像する技法の先駆けであり、その後数学基礎論や理論計算機科学でよく用いられるようになる。
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