麻痺性貝毒原因微細藻 [Paralytic shellfish poisoning microalgae]
貝毒の本体はアルカロイドの1種でサキシトキシン(saxitoxin: STX)とその誘導体から成り、現在20種を越える毒成分が知られている。毒は水に溶ける無味、無臭の物質で、われわれが五感でこれを関知することはできない。しかも熱に安定なため通常の調理では無毒化しない。これらの貝毒はわが国でよく知られているフグ毒(tetrodotoxin: TTX)と同様の薬理作用をもつので、中毒症状もフグ毒による中毒症状に似ている。また、中毒に対する効果的な治療法はなく、人工呼吸が比較的効果があるとされている。
このような中毒を引きおこす生物は海水中のプランクトンを集めて餌とする、いわゆるプランクトン・フィーダーであり、中毒の原因はいくつかの植物プランクトン(微細藻)である。貝類を毒化させる微細藻はアレキサンドリウム属、ギムノジニウム属、ピロジニウム属などの渦鞭毛藻とよばれるグループで、このほかに貝類毒化との関係は明らかではないが、淡水性藍藻(藍色細菌)の数種も毒産生が認められている。渦鞭毛藻は単細胞性で2本の鞭毛で泳ぐが、植物的な原生生物の1群とされ、有毒渦鞭毛藻は全て光合成色素をもっている。これら渦鞭毛藻は多量の毒成分をもつため、ごく少量発生しただけでも貝類を毒化させる能力がある。したがって、海には一見なんの変化もおこっていなくても貝類が毒を蓄積していることがある。この点から貝毒現象は赤潮現象とははっきり区別される。これら微細藻の多くは環境が増殖に適さなくなると、休眠胞子をつくって海底に沈み、条件が良くなると発芽して、再び増殖するというサイクルをもつので、一度これらが発生した海域では繰り返しその発生がみられる場合が多い。一方、それぞれの有毒渦鞭毛藻に含まれる毒成分の誘導体は微細藻種ごとに特徴があり、毒化した貝の毒組成から原因種を推定することもできる。有毒渦鞭毛藻の分布は世界的に拡大する傾向にあるから、今後これまで出現のなかった海域や微細藻種についても注意する必要がある。さらに原因微細藻における毒成分が産生されるメカニズムや毒成分の生物学的な意味についてはまだ不明な点が多く、研究の進展が望まれている。
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