魚類のせっそう病菌 [Aeromonas salmonicida]
せつそう病は日本ではサケ科魚類の養殖が始まった1929年頃からヤマメ(サクラマス)、ヒメマス(ベニザケ)、アマゴ(ビワマス)、カワマス、イワナ(アメマス)に発生し、最近はギンザケの被害も増加している。ほとんど全てのサケ科魚類がこの細菌に感染するが、ニジマスは比較的かかりにくい。この魚病が最も多発する時期は5~6月、次いで9~10月である。
症状は急性の場合にはわずかに発赤や出血がみられる程度であるが、死亡率はきわめて高い。亜急性または慢性になると体側部に膨隆体が現れて、じょじょに内臓、筋肉、鰓(えら)、血管などが冒されて、ついには組織が破壊され敗血症で死亡する。原因菌が運動をしないエロモナスであるから、非運動性エロモナス敗血症ともよばれている。
予防法としてワクチンの実験的注射で免疫効果はあり、欧米では注射ワクチンが市販されている。治療法はおもにサルファ剤や抗生物質などの化学療法剤が有効であるが、近年は薬剤耐性菌の問題がおきている。
せっそう病菌は病魚や保菌魚がいる環境水中だけに生育していることから偏性病原菌に近い細菌で、空気の有無によらず生育できる通性嫌気性、グラム陰性の運動しない短桿菌(1×2μm)である。20-25℃、pH7付近、塩分0-3%でよく生育する。この細菌はメラニンに似た水溶性の褐色色素を培地へ産生することが特徴である。また、タンパク質や脂質を分解し、哺乳類や魚類の赤血球を強く溶解(溶血)するが、褐色色素を産生しない菌種(A.salmonicida var.achromogenes,A.salmonicida var.masoucida)も分離されている。ほとんど全ての菌株は共通のO抗原をもち、その病原性は白血球溶解因子、溶血毒素(サルモリジンなど)、タンパク質分解酵素とその他の酵素や、細胞の表面物質としてリポ多糖やタンパク質などが関係すると考えられている。
なお、ヘラブナの紅斑性皮膚炎の原因菌は褐色色素をわずかに産生し、キンギョの穴あき病(潰瘍性せつそう病)の原因菌は色素を産生しないせつそう病菌の変異株である。
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