食性と生態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 06:33 UTC 版)
バラウルの行動については理解が進んでいない。頭骨要素を欠いているため、歯の形態からバラウルが動物食性だったか植物食性だったかを決定することは不可能である。原記載ではヴェロキラプトルに近縁とされたため動物食性動物と推定された。より大型の獣脚類の化石がルーマニアから発見されていないため、島という制限された生態系においてバラウルは頂点捕食者だったと Csiki は2010年に推測した。彼はまた、バラウルが後肢の2つのシックルクローを獲物を切り裂くのに用い、前肢の退化はそれらが狩りに用いられなかったことを示唆していると信じた。当初の発見者の1人はバラウルをヴェロキラプトルと比較して「短距離走者というよりはおそらくむしろキックボクサー」と評し、自身よりも大型の獲物を仕留めることが可能だったと提案した。しかしながらデンヴァー・ホウラーらによる後の研究では、バラウルのような原鳥類の足の解剖学的特徴により、彼らが巨大な鉤爪を獲物の保持と地面への固定に用い、原始的な翼で羽ばたき運動を行って獲物の上でバランスを取ったと示唆されている。獲物が疲弊するとバラウルは現代の猛禽類が行うように獲物を生かしたまま捕食した可能性がある。鉤爪の形状から、斬撃に用いるには有効でなかったとみられている。 なお2015年にドロマエオサウルス科のシックルクロウ(鎌状の鉤爪)の断面が詳しく研究され、それによるとシックルクロウは薄い刃物のような構造をしていたため、相手を強烈に切り裂いて十分な致命傷を与えられたとされている。加えて本種との関連が疑われたヴェロキラプトルは、自身の数倍はある体重のプロトケラトプスと刺し違えたまま化石になった“闘争化石”が発見されており(詳細はヴェロキラプトルを参照)、それよりも頑強とされるバラウルが捕食者であれば、その攻撃力は計り知れない。 バラウルの癒合した非常に短い中足骨と巨大な第1指の鉤爪は本当のドロマエオサウルス科の基準から見ても奇妙であり、後の研究とともにバラウルが捕食動物であったことを強固に裏付けている。第3指の縮小は動物食性が弱いことを示す可能性があり、太い第1指は武器というよりも自重の支持への適応と解釈された。 イタリアの古生物学者アンドレア・カウは、バラウルが大半の非鳥類型獣脚類のような動物食性ではなく植物食性または雑食性であることにバラウルの異様な特徴が由来すると推測した。これらの特徴には比較的短く太い四肢や後退角のついた広い恥骨が含まれ、ゆっくりと植物を消化する腸の存在を示唆している。カウはこの食性を「ドードーラプトル」モデルとして言及した。しかし、フォウラーらによりなされた研究の視点から見ると、バラウルの解剖学的特徴はバラウルが捕食動物であるという仮説に近い可能性があるとカウは述べた。こういった前肢の退縮は優れた肉食動物のティラノサウルス類やカルカロドントサウルス類でも広く見られる事である。 2015年にカウらはバラウルの系統学的位置の再検討において生態学を再考し、バラウルが鳥類であればサペオルニスやジェホロルニスといった植物食性であると知られている分類群に統括されるであろうと主張した。これは非超肉食性の生態が極度に倹約的な結論であることを示唆し、植物食性へ特化していたというカウの当初の解釈を支持している。これは第3指の縮小、第2中足骨の下部関節の欠如、適度に湾曲した第2指の鉤爪によっても示唆されている。バラウルの骨盤と足は広く、第1指のつま先が大きく、中足骨の遠位端が広かった。このような特徴は、他の獣脚類では植物食性であるテリジノサウルス科でしか確認されていない。しかし、2020年にはバラウルを含む多数の小型獣脚類の後脚の第三末節骨(爪先の骨)が研究され、その結果バラウルの爪は地面の走行や、獲物への攻撃に使っていた可能性が他のアヴィアラエ類よりも高かったことが示唆された。さらにアヴィアラエ類の代表格ともされるアーケオプテリクスは、その鋭い歯や爪を使って小動物を主食としていたと推測されている。 だがバラウルと断定できる頭部が発見されるまで、こういった混乱や議論は続くだろう。一応ハツェグ島(現ルーマニア)からは、ドロマエオサウルス類や小型獣脚類と思しき遊離歯(抜け落ちた歯)が見つかっている。そして同論文からは、ハツェグ島より断片的ながらアベリサウルス類の可能性がある化石も見つかっているとされ、それが正しければアベリサウルス類も頂点捕食者だった可能性がある。
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