開発にまつわる問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/16 23:25 UTC 版)
「利根川上流ダム群」の記事における「開発にまつわる問題」の解説
このようにして利根川水系は首都圏の水需要と治水に応えるため、多数のダムが建設された訳であるが、反面多くの問題を特に上流地域に与えた。藤原ダム建設の際には169戸の住居が水没することから「首都のために犠牲になるわけにはいかない」として5年にわたる反対運動が起こり、田子倉ダム補償事件の問題もあって事態は複雑になったが、群馬県知事の斡旋もあってようやく妥結に漕ぎ着けた経緯がある。これを皮切りに各ダムで反対運動が発生したが、老神温泉が水没する薗原ダム、川原湯温泉が水没する八ッ場ダムの建設反対運動は特に強固だった。八ッ場ダムでは吾妻川酸性水問題や民主党政権による中断も併せて計画発表の1952年(昭和27年)から60年以上に亘り本体工事が開始されず、着工は2015年(平成27年)、運用開始は2020年(令和2年)となった。そして極めつきが沼田ダム反対運動であり、沼田市官庁街を含め市の大部分2,200世帯が水没する事から沼田市・群馬県両者が事業に反対し、1972年(昭和47年)に時の田中角栄内閣が白紙撤回するまで社会問題として国会でも議論の対象となった。利根川放水路計画も移転物件が余りに多大である事から事業は立ち消えとなった。 1990年代に入ると公共事業の見直しという新たな問題が起こり、大規模な公共事業に対する風当たりが強まった。折からバブル崩壊による地方自治体の財政悪化や人口増加が鈍化したこと、工場拠点の海外流出による水需要の減少がダム事業の見直しを迫ることと成った。これを受け奈良俣ダム完成以降の新規ダム事業は大半が建設凍結・中止となった。国・公団直轄事業としては川古ダム(赤谷川)・戸倉ダム(片品川)・平川ダム(泙川)・栗原川ダム(栗原川)及び渡良瀬遊水地第二期工事(渡良瀬第二貯水池)が中止となっている。現在も進行中のダム新設事業としては南摩ダム(南摩川)があるが、日本の長期化ダム事業の代表例として、ダム問題の縮図の1つとなっている。また、下流域の市民団体からは「水余りの状況で、両ダムは不要な公共事業であり税金の無駄遣い」として建設中止の訴訟や仮処分申請、監査請求がしばしば行われている。 利根川はこれら上流ダム群を始めとする河川整備によって、カスリーン台風以後堤防決壊を伴う大水害は地球温暖化で記録的な豪雨災害が頻発する現在においても起こっていない。また、1994年(平成6年)・2005年(平成17年)の全国的大渇水においても首都圏は深刻な渇水被害は起こらなかった。 現在、「利根川水系ダム群再編事業」が計画中である。これは近年の地球温暖化に伴う極端な集中豪雨と旱魃に近い水不足の多発を受け、利根川水系のダム容量を再編して異常気象に対応しようとするものである。この中で新規ダム建設や貯水容量配分の修正(目的の改廃)、さらにダムの嵩上げによる貯水容量の増加など多角的に検討されたが、最終的にダム嵩上げによるダム再開発事業を行うこととなった。そしてその対象として藤原ダム・薗原ダム・下久保ダムの三ダムが選定され、堤高嵩上げによる貯水容量増加を現在調査している。
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