ぎゃく‐もんだい【逆問題】
逆問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/06 16:49 UTC 版)
逆問題(ぎゃくもんだい、英: inverse problem)とは、数学・物理学の一分野であり、入力(原因)から出力(結果、観測)を求める問題を順問題(じゅんもんだい、英: direct problem)と呼び、その逆に出力から入力を推定する問題や入出力の関係性を推定する問題を逆問題と呼ぶ。
歴史
逆関数の問題であると解釈すると、紀元前から扱われている問題である。しかし歴史的には物理において順問題と逆問題は今の使われ方とは異なっていた。例えばニュートンの時代では物体の動きからその作用する力を導くことが順問題だとされ、作用する力から物体の軌道を導くことが逆問題だとされていた。順問題と逆問題の定義は実際曖昧で、時代や学問分野によって異なることが多い。一般的には1820年代にニールス・アーベルがヤコビの逆問題を研究したのが、逆問題の最初の研究とされる。アーベルは方程式の解の公式の研究でも有名だが、方程式の解の公式自体も逆問題である。1929年にヴィクトル・アンバルツミャンも逆問題に関する論文を発表している。第二次世界大戦中に、弾道計算やレーダー探査など軍事上の目的により急速に発展した。現在では、非破壊検査や医療を目的とした利用も盛んに研究されている。
概要
順問題と逆問題は対になる概念であり、どちらが順でどちらが逆かというのは相対的な問題である。しかし対称的ではない。一般に、古くから問題として認識され研究が行われている方向のプロセスによるものを順問題とし、その逆方向のプロセスで解く方法は自明ではないのだが、それを解くことで何らかの工学的・その他の利用ができるような問題のことを逆問題と言う[注 1]。
単純な順問題・逆問題の例を示す。f(x) = x2 という関数について考える。f(2) や f(3) を計算して 4 や 9 と求めるのが順問題である。逆問題は2通りある。1つ目は、f(x) = 25 という問題で、x = 5 と解く問題である。2つ目は、関数が未知で、f(1) = 1, f(2) = 4, f(3) = 9 という情報から、f(x) がいかなるものかを推測する問題である。
この例において、特にひとつめは逆関数 f -1(x) = √x によって容易に得られる。しかし、一般には逆関数が容易にはわからない関数も多く、そういった場合を特に扱うのがこの分野である。
逆問題は入力を求める、と一口に言っても、ここでの「入力」とは単に入力信号のようなものだけを指すのではない。例えば、物理学・工学で材料に関する問題においては、扱う材料に作用している外力を求める逆問題だけでなく、
- 材料の境界・領域形状を求める
- 材料を支配している方程式を求める
- 材料についての境界値あるいは初期値を求める
- 材料の物性値を求める
といった、複数の逆問題が存在する。様々な問題設定があるように、様々な有益な用途があり、理論・実用の両面から研究が行われている。
問題の種類
逆問題としては、以下の2つのパターンがある。
- 既知:モデル(関数)と出力
未知:入力 - 既知:入力と出力
未知:モデル(関数)
順問題は、入力とモデル(関数)が既知で、出力が未知である。
適切性と非適切な問題
逆問題を解く際によく問題になるのが適切性 (良設定問題、英: well-posedness) である。次の3つの条件が満たされるとき、アダマールの意味で適切であるという。
- 解の存在性: 解が存在すること
- 解の一意性: 解がただ一つであること
- 解の安定性: 入力に微小な変動を与えたときに、出力の変動も微小であること
上に挙げた f(1) = 1, f(2) = 4, f(3) = 9 から f(x) を推測する例で、逆問題の答えとしては
逆問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/29 14:41 UTC 版)
詳細は「逆問題」を参照 脳活動の位置を決定するために、頭外側で計測された磁場から活動源の位置を推定する信号処理の手法が用いられる。このような推定は逆問題を解くこととなる。 (この場合、順問題は活動源の位置とそこからの距離から磁場を推定する問題となる。) 一番の技術的な問題は逆問題が唯一の解を持たないことである。(つまり、いくつもの"正しい"解を持つ。) そして、最適解を見つける手法自身が徹底的な研究対象となっている。適切な解を得るには脳活動に関する前提的な知識を含んだモデルが用いられる。 電流源のモデルは過剰決定モデルと過少決定モデルの2種類がある。過剰決定モデルではデータに基づき位置を推定された数個の点状の電流源から構成される。一方、過少決定モデルは、多くの異なる広がりを持った領域が活動しているような場合に用いられる。計測された結果を説明する電流源の分布はいくつか考えられるが、もっとも可能性の高いものが選択される。より複雑な電流源のモデルほど、解の質を向上させると考える研究者も存在する。しかし、そのようなモデルは推定の頑健性 (robustness) を下げ、順モデルの誤差を上げてしまう。多くの実験では、単純なモデルが用いられ、誤差の起きる可能性を減らし、解を見つけるための計算時間を減らしている。位置推定のアルゴリズムは仮定された電流源と頭部のモデルを利用して、焦点となる磁場源の最適な位置を推定するものである。別の方法として、順モデルを用いずに電流源を分離するために独立成分分析をまず用いて、次にその分離された電流源のそれぞれの位置を推定するものがある。この方法は、非神経由来のノイズと神経由来の信号を正確に分離することで、優れた S/N 比 (信号とノイズの比) を示し、焦点となる神経電流源を分離することが可能になる。 過剰決定モデルを用いた位置推定アルゴリズムは、初めの位置推定に連続的な微調整を加えていくというものである。このシステムでは、まず初めに推定された電流源の位置情報から、順モデルを用いて、その電流源によって生み出される磁場を計算し、計算された磁場と実施に観測された磁場との誤差が減少するように電流源の位置が修正される。この修正を2つの磁場が一致するまで繰り返すのである。 別の方法としては、この不良設定な逆問題を無視し、ある固定点における電流を推定するもので、ビームフォーミング法を利用したものである。その様な手法の1つとして、データの共分散行列と双極子の磁場導出行列から、センサーに線形な重み付けをする空間フィルターを計算する、SAM (Synthetic Aperture Magnetometry) と呼ばれる方法がある。SAM は信号の時間的な要素を利用して双極子の非線形的な推定を行うが、信号のフーリエ変換を利用して、双極子の線形な推定を行う手法も存在する。そのようにして近似された電流源は巨大な脳神経ネットワークの同期を推定するための計算に用いられる。
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