線形逆問題への利用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/28 14:18 UTC 版)
行列の逆行列を直接求めるのに比べ、QR分解を利用した逆問題の解法は、条件数が減少していることからも分かるように、数値的に安定している。 次元が m × n {\displaystyle m\times n} で階数が m {\displaystyle m} であるような行列 A {\displaystyle A} に対して、劣決定( m < n {\displaystyle m<n} )線形問題 A x = b {\displaystyle Ax=b} を解くためには、まず A {\displaystyle A} の転置行列のQR分解 A T = Q R {\displaystyle A^{\textsf {T}}=QR} を求める。ただし、Qは直交行列(つまり、 Q T = Q − 1 {\displaystyle Q^{\textsf {T}}=Q^{-1}} )であり、Rは R = [ R 1 0 ] {\displaystyle R={\begin{bmatrix}R_{1}\\0\end{bmatrix}}} という特殊な形である。ここで、 R 1 {\displaystyle R_{1}} は m × m {\displaystyle m\times m} 正方右三角行列、零行列は ( n − m ) × m {\displaystyle (n-m)\times m} 次元である。計算すると、この逆問題の解を次のように表すことができる。 x = Q [ ( R 1 T ) − 1 b 0 ] {\displaystyle x=Q{\begin{bmatrix}\left(R_{1}^{\textsf {T}}\right)^{-1}b\\0\end{bmatrix}}} ここで、 R 1 − 1 {\displaystyle R_{1}^{-1}} はガウスの消去法で計算でき、 ( R 1 T ) − 1 b {\displaystyle \left(R_{1}^{\textsf {T}}\right)^{-1}b} は前方置換法(英語版)を用いることで直接計算できる。後者の手法の方が数値的精度が高く、計算量も少ないという利点がある。 ノルム ‖ A x ^ − b ‖ {\displaystyle \|A{\hat {x}}-b\|} を最小にするような過決定( m ≥ n {\displaystyle m\geq n} )問題 A x = b {\displaystyle Ax=b} の解 x ^ {\displaystyle {\hat {x}}} を求めるためには、まず A {\displaystyle A} のQR分解 A = Q R {\displaystyle A=QR} を求める。 Q 1 {\displaystyle Q_{1}} を直交行列 Q {\displaystyle Q} 全体のうち最初の n {\displaystyle n} 列を含む m × n {\displaystyle m\times n} 行列、 R 1 {\displaystyle R_{1}} を先述の通りに置くと、この問題の解は x ^ = R 1 − 1 ( Q 1 T b ) {\displaystyle {\hat {x}}=R_{1}^{-1}\left(Q_{1}^{\textsf {T}}b\right)} と表せる。劣決定の場合と同様に、 R 1 {\displaystyle R_{1}} の逆行列を直接計算しなくても、後方置換法(英語版)を用いることで早く正確に x ^ {\displaystyle {\hat {x}}} を求めることができる。( Q 1 {\displaystyle Q_{1}} と R 1 {\displaystyle R_{1}} は数値ライブラリによっては高速な(economic)QR分解として実装されている。)
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