退所後の生活と問題点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 22:20 UTC 版)
「児童養護施設」の記事における「退所後の生活と問題点」の解説
1973年以降、特別育成費の支給制度が行われ入所児童の高校への進学が増え、厚生労働省の2008年調査では、施設入所者の中学卒業後の98.5%が高等学校等(専修学校、職業訓練施設も含む)に進学している。また、高校卒業者の4人に1人が大学等(短大、専修学校、職業訓練施設も含む)に進学し、73.4%が公務員や民間企業に就職をする。 原則として18歳になると児童養護施設を退所しなければならないが、退所者(ケアリーバー)たちは頼ることができる親族がいないため仕事を失えば住むところがなく、住所がない場合は、新たに携帯電話を契約したり、銀行口座を開設、印鑑登録、賃貸住宅の契約、運転免許証を取得することができない、日本国パスポートやマイナンバーカード作成することができない、公民権や選挙権を行使することができない、住民基本台帳と印鑑登録ができない、アルバイトの面接を受けることができない、所持金や預貯金がなくなったり、疾病や障がいで就労が困難になっても生活保護を申請することができない、住民基本台帳への登録がないと、印鑑登録ができず、実印を必要とする契約(賃貸住宅の契約、金銭の借り入れ、自動車やオートバイの購入契約など)は契約相手に拒否される。自治体の各種行政サービスを受けることができない、ケガしたり、病気になっても健康保険証がないから、医療機関を利用することができない、仕事が見つからない。保証人の問題で進学や就職、賃貸住宅の契約、敷金、礼金、前家賃、仲介手数料、賃貸保証料の捻出やクレジットカードの契約に影響があり、ホームレスやネットカフェ難民に陥ってしまう児童も多い。男性の場合何らかの犯罪に走り、少年院や刑務所に収容されたり、女性の場合風俗嬢や水商売などに走り、望まない妊娠・出産をして子育てできずに、その子供が児童養護施設入所という悪循環がある。公共料金の振込や電車やバス、タクシーの乗り方、スーパー、コンビニなどでの買い物といった、社会の基本知識が身についていないことがしばしばあり、助けを求める先も知らないことがある。 井上ひさしの自伝小説の中で、在籍していた児童養護施設の修道士は、退所者がまた自分の子どもを施設に預けに来る場合が人生で一番つらいことと語っている。 児童養護施設退所者のアフターケア相談所「ゆずりは」の所長によると、幼少期に虐待に会い児童養護施設などに保護され、施設退所後には性風俗業を「就職先」に選ぶ女性は数多く存在し、保証人なく住宅が提供されることや存在意義の承認を求めることが理由という。夜の業界を引退した女性の団体によると、性風俗では40歳を超えると年齢的に仕事が激減し、精神を病んだり生活保護受給となる事例もあるとしている。 2022年3月以前においては高校を卒業し18歳で児童養護施設を退所した児童たちは20歳未満であることから、法定代理人の同意なしでは労働契約、賃貸住宅の新規契約、印鑑登録、生活保護の申請、日本国パスポートの取得、マイナカードの新規取得、銀行口座の開設、クレジットカードの作成、運転免許の取得、携帯電話の新規申込、固定電話回線の新規開設などの契約行為が行えない問題が生じる。 施設退寮後に生活が立ち行かず、施設関係者に恨みをいだき施設長殺害に至ったとみられる事件が2019年2月に起こっているため、退寮後の生活支援を施設のみで支えるのではなく生活困窮者自立支援法に基づく救済窓口など、様々な機関で支援していく必要がある。
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