轢死
『窮死』(国木田独歩) 三十男の文公は、家族もなく、住む家もない。肺病で、思うように働けない。夜、知り合いの弁公を頼って家を訪れると、3畳一間に弁公とその親父が寝ていた。それでも一晩、泊めてもらうことができた。翌日、親父は人力車夫と喧嘩をして、打ち所が悪く、死んでしまった。3畳で通夜をするので、文公には居場所がない。次の日の夜、雨の中、どうにもやりきれなくなった文公は、鉄道線路の上へ倒れた。
『三四郎』(夏目漱石) 熊本から東京へ出て来てまもなく、三四郎は、野々宮さんの家で一晩、留守番をした。その夜、誰かの「ああああ、もう少しの間だ」という声が、遠くから聞こえた。すべてに捨てられた人の、すべてから返事を予期しない、真実の独白(ひとりごと)だった。そこへ汽車が遠くから響いて来て、高い音を立てて過ぎ去った。三四郎は、この2つを因果で結びつけて、ぎくんと飛び上がった。轢死者は若い女で、身体は2つに引きちぎられていた。
『鉄道員』(ジェルミ) アンドレアは、特急列車のベテラン運転士である。ある日、1人の男が線路上に立ちはだかり、アンドレアは急ブレーキをかけたが、間に合わなかった。その時アンドレアは男の顔を見た。まだ若い青年だった。事故処理が終わって運転再開後も、アンドレアの動揺はおさまらず、彼は赤信号を見落として、向こうから来る機関車と衝突しそうになる。この失策のために、アンドレアは降格される。
*鉄道自殺する夢→〔眉毛・睫毛〕3bの『たね子の憂鬱』(芥川龍之介)。
『郊外』(国木田独歩) 踏切近くの八百屋の主人が、夜、便所へ行くと、外に誰かがたたずんでいる。「鉄道自殺するつもりだな」と主人は思い、大声で独り言を始める。「命あっての物種だ。落ち着いてよく考えるんだなァ。出なおした方がいいねェ」。立っていたのは村の男で、八百屋の娘に逢いに来たのだった。男は「入りそこねたから、また出なおすよ」と娘に言って、帰って行った。
★3.轢死事故。
『寒さ』(芥川龍之介) 霜曇りの朝、保吉は出勤途中に轢死事故の現場に行き合わせた。女の子を助けようとして、踏切り番が轢かれたのだ。線路には血がたまり、薄うすと水蒸気さえ昇っている。保吉は、数日前に同僚の物理の教官から聞いた、伝熱作用の法則を思い出した。血の中に宿る生命の熱は、法則どおり1分1厘の狂いもなく、線路へ伝わっているのだった。
『正義派』(志賀直哉) ある夕方、電車が永代橋を渡った処で、5歳ばかりの女児を轢き殺した。現場にいた3人の線路工夫は、「運転手は狼狽して、電気ブレーキを忘れたのだ。ブレーキをかけていれば、女児を殺すことはなかった」と、警察へ行って証言した。この証言のために、彼らは仕事を失うかもしれなかった。3人はその夜、遅くまで牛肉屋で酒を飲んだ。その後、1人は家へ帰り、2人は人力車で遊郭へ向かった。
『信号手』(ディケンズ) トンネル近くの駅の信号手が、幽霊を見る。幽霊は「おーい、下にいる人!」と叫び、右腕を激しく振り、左腕を顔にあてた。何度か幽霊を見た後、信号手は作業中に機関車に轢かれた。その時、機関車はトンネルのカーブまで来て、背中を向けて作業をしている信号手を見つけたのだ。運転士は「おーい、下にいる人!」と叫んで右腕を振り続け、見ていられなくなって左腕で眼をおおった。
『アンナ・カレーニナ』(トルストイ) アンナ・カレーニナはモスクワの兄オブロンスキー夫妻のもとへ来て、駅で青年将校ウロンスキーと出会う。その時、線路番が轢死する事故が起こり、アンナは「凶兆だ」と兄に言う。アンナはウロンスキーと恋に落ち、夫を捨てて駆け落ちするが、やがてその恋も破局を迎える。アンナはウロンスキーと出会った日の轢死人のことを思い出し、列車の下へ身を投げる。
『日本の黒い霧』(松本清張)「下山国鉄総裁謀殺論」 昭和24年(1949)7月6日早暁、北千住駅近くの鉄道線路で、下山定則国鉄総裁の轢死体が発見された。下山総裁は大量の人員整理を巡って国鉄労組と対立状態にあり、心労から自殺したとの見方があった。しかし「私(松本清張)」は、進駐軍の関連組織が5日に下山総裁を殺し、死体を線路上に置いたのだと考える。それは、日本の「行き過ぎた民主主義」を鎮圧するための、謀略であったのだろう。
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