車
『宇治拾遺物語』巻4-3 薬師寺の別当僧都が病気になり、念仏して息を引き取ろうとした時、意外なことに、地獄の迎えである火の車がやって来た。車についている鬼どもは、「寺の米を5斗借りて返さないので、迎えに来たのだ」と言った。別当僧都はただちに弟子たちに命じて、米1石(*5斗の倍)を寺へ寄進させる。火の車は帰って行き、入れ替わりに極楽の迎えがやって来た。
『平家物語』巻6「入道死去」 平清盛が重病になり、妻・二位殿が恐ろしい夢を見た。清盛を閻魔庁へ迎えるために、猛火(みょうか)の燃える車が門内に入って来る。前後には、牛頭人身の牛頭(ごず)や馬頭人身の馬頭(めず)が立っている。車の前に立つ鉄(くろがね)の札には、「無」という文字だけが書かれていた。それは、清盛の堕ち行く先である無間地獄の「無」の字であった〔*「間」の字は、まだ書かれていなかった〕。
★1b.葬送の時、風雨が起こって棺を吹き飛ばす現象も、「火車(かしゃ)」と呼ぶ。
火車(水木しげる『図説日本妖怪大全』) 葬式の時、にわかに大風雨が起こり、葬列の人々を倒すほど激しくなって、かついでいる棺桶を吹き飛ばし、桶の蓋まで取ってしまうことがある。これを「火車に憑(つ)かれた」といって、大いに恐れ、また恥とした。その亡者が生前に悪事を多くしたゆえに、地獄から「火車」が迎えに来た、と見なされたからである。
★2.人力車。
『反対車』(落語) 客が、神田から上野の停車場へ行こうと人力車に乗り、「万世橋を渡って北へまっすぐ行ってくれ」と言う。すると、やたらに速い人力車で、上野を通り越して、埼玉県川口まで行ってしまった。客が「引き返せ」と命ずると、また上野を通り過ぎて、今度は神奈川県川崎まで行ってしまう。もう1度引き返して、ようやく上野に着いたが、すでに午前3時だった。客「終電車は出ちまった」。車夫「心配いりません。1番列車には間に合います」。
『やみ夜』(樋口一葉) 陰暦5月28日の闇夜、身寄りのない青年・高木直次郎(19歳)が、疾駆する人力車にはねられて怪我をする。人力車は、そのまま走り去ってしまった。そこは、美女・松川蘭(25歳)が召使い夫婦と住む屋敷の門前だったので、直次郎は蘭の屋敷に運び込まれる。直次郎をはねたのは、衆議院議員・波崎漂(ただよう)の人力車。その波崎は、松川家から受けた恩を忘れ、蘭を捨てた男だった→〔暗殺〕2a。
『無門関』(慧開)8「奚仲造車」 夏(か)の時代の人・奚仲は、百台もの車を造ったが、車の両輪や車軸を取り外してバラバラにした、ともいう。それによって彼は、いかなる真理を明らかにしたのだろうか?
*琴の音色がどこにあるのか捜して、琴をバラバラに壊してしまう物語を連想させる→〔琴〕7aの『大般涅槃経』。
『聊斎志異』巻1-5「瞳人語」 長安の士人・方棟は、女好きだった。郊外を行く幌車の幔(とばり)が少し開いていたので、方棟は近寄って、車中の16歳ほどの美女をのぞき見る。お供の腰元が、「こちらは芙蓉城の七郎様の若奥様(*神女の類であろう)ですよ」と怒り、土くれを方棟に投げつける。土くれが目に入って、方棟は失明してしまった。方棟は反省して『光明経』を読誦し、1年ほどがたった→〔瞳〕2c。
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