資本による消費制限の突破
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/26 15:14 UTC 版)
賃金労働者の消費制限による市場の限界は、資本が自分に与えた制限-内的制限-である。資本はこの制限を突破するために、様々な方法を駆使する。 資本家や富裕層による奢侈品の消費、すなわち浪費はその一つの方法である。 利益の再投資すなわち資本蓄積は、支払賃金の増大による労働者の生活手段の消費拡大とともに生産手段の消費拡大をもたらす。 資本は新たな使用価値を開発し、それに対する人々の欲望を喚起することを通じて、社会的欲望の限界による消費制限を突破しようとする。 国家の財政出動(ケインズ政策)は、租税収入や国債発行による資金を支出し国家が買い手となることによって、巨大な消費をつくりだす。軍事費に国家予算を投じることによって経済成長が可能であるとするのが、軍事ケインズ主義である。また、グリーンニューディールなど、環境対策に国家予算を投じて市場を拡大しようとするのが環境ケインズ主義である。賃金労働者の生活安定のために国家財政を投じる社会保障制度は、賃金労働者の消費能力を増大させて国内市場を大きくする。ベーシックインカムなどの最低限所得保障政策は、生存権保障だけでなく貧困者の消費拡大による経済的効果も見込まれている。 なお、ケインズ経済学に対置されるサプライサイド経済学の政策は、資本間の競争を自由化し企業倒産やM&Aを促し、生産の集中・集積と過剰資本の価値破壊を促すことによって、利潤率の回復を促して景気回復をはかろうとするものである。生産と消費の矛盾に対して、消費を拡張するのでなく、意図的に過剰生産を調整しようとする。失業者や非正規雇用の増大によって国内市場が縮小するなど、副作用も大きい。 貿易は、狭い自国市場の制限を越えて海外市場での販売を可能にする(ただし外国資本との摩擦を生む)。国内市場の制限を突破して海外市場を求める資本の国際的運動は、国境の垣根を低くし世界市場をつくりだす。EU(欧州統合)も各国の狭い消費市場をこえた巨大な統一市場を創出する試みである。 貿易とケインズ政策が結びつく場合もありうる。政府開発援助は、先進国国家の財政出動によって先進国企業のための市場を途上国でつくりだす政策である。 消費者信用は、生活費に限定された賃金労働者の低い賃金の制限を超えることを可能にする。ただし、世界金融危機の発端となったアメリカのサブプライムローン問題に見られるように、借金による消費拡大はあくまでも一時的なものであって、生産と消費の乖離を大きくする。一般に、様々な信用制度の発展は、貨幣量の制限を超えた消費をつくりだして好況時には生産に刺激を与えるが、生産と消費の矛盾を大きくし、恐慌の規模を深刻なほど大きなものとする。 このように様々な方法を駆使して資本が消費制限を突破しうる間は、恐慌は起こらず、好景気はつづく。しかしその間にも生産力の上昇はつづく一方で、消費制限の拡大方法には限りがあり、生産と消費は乖離して矛盾が蓄積されていく。19世紀資本主義では、以上のような消費制限突破の諸手段は未発達であり、10年周期の周期的恐慌現象として現れた。20世紀資本主義においては、兌換貨幣から不換貨幣への移行と管理通貨制度の採用によって、国家の財政出動の能力が飛躍的に高まったこと、帝国主義時代における植民地市場の獲得、第二次世界大戦後のドル体制のもとでの外国貿易の発達によって消費制限が飛躍的に拡大し、景気循環は長期化し、国際的な相互依存が強まっている。また、1929年恐慌(世界恐慌)や2008年恐慌(世界金融危機 (2007年-))のように、ひとたび恐慌が起こればグローバルな規模で激烈な長引くものとなっている。
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