論文の概要
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/28 10:12 UTC 版)
B2FH論文は、表向きは恒星内元素合成の理論についての最近の進歩をまとめたレビュー論文という体裁であった が、単なるホイルの研究のレビューにとどまらず、バービッジ夫妻が発表した元素量の観測値や、ファウラーの実験室での核反応実験の結果を取り入れた。その結果、理論と観測が統合され、ホイルの仮説への説得力のある証拠が得られた。 この理論では、元素構成比は宇宙論的な時間の経過とともに進化すると予測しており、この考えは天体分光学(英語版)で検証可能であった。それぞれの元素が特徴的なスペクトルを持つことから、個々の恒星の大気組成は分光観測によって推測できる。これまでの分光観測の結果から、恒星の初期の重元素の含有量(金属量)と恒星の年齢との間には強い負の相関関係、すなわち、最近形成された恒星ほど金属量が高い傾向があることが判明している。 初期の宇宙は、ビッグバン元素合成で生成された軽元素だけで構成されていた。恒星の内部構造の理論とヘルツシュプルング・ラッセル図によると、星の寿命の長さは初期質量に大きく依存しており、質量の大きい星ほど寿命が短く、質量の小さい星ほど寿命が長いことがわかっている。B2FH論文では、恒星が寿命を迎えると、星間空間に「重元素」が星間物質に放出され、そこから新しい星が形成されると主張されている。 B2FH論文は、恒星がどのようにして重元素を生成するのかを絡めて、原子核物理学と天体物理学の重要項目について論じている。著者らは、核図表を精査することによって、観測された同位体存在比を生成することができる種々の恒星環境と核反応の過程を特定した。また著者らは、鉄より重い元素の生成を説明するために、現在ではp過程、r過程、s過程として知られる原子核物理学的核反応過程を用いた。これらの重元素とその同位体の存在量は、主要元素に比べて約10万分の1しかないことから、ホイルが1954年に提唱した「大質量星の燃焼殻内での核融合で生成される」とする仮説の裏付けとなった。 B2FH論文は、恒星の中で自由中性子捕獲が起こることで鉄より重い元素が核合成される現象を包括的に概説・分析している。ケイ素からニッケルまでの存在量の大きな元素の合成については、当時あまり理解が進んでおらず、B2FHにはマグネシウムからニッケルまでの元素合成に関わる炭素燃焼過程、酸素燃焼過程、ケイ素燃焼過程が含まれていなかった。既にホイルは1954年の論文で、超新星元素合成がこれら存在量の大きな元素合成の原因である可能性を示唆していた。アメリカの天体物理学社Donald D. Claytonは、ホイルの1954年の論文の引用数がB2FHに比べて少ない理由として、ホイルの1954年の論文を理解することがB2FHの共著者や一般的な天文学者にとっても困難であったこと、ホイルがキーとなる方程式を論文の中で明確に書かずに言葉だけで説明したこと、ホイルがB2FHの草稿を不十分にレビューしたこと、などの要因が重なったためであるとしている。
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