論文への批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/03 17:40 UTC 版)
ユーズネットでの議論が始まった後、ほとんどのコメントはボグダノフ兄弟の仕事について否定的だった。例えば John Baez は兄弟の論文について「正しい専門用語(バズワード)をだいたい正しい順序で含む表面的にはもっともらしいセンテンスを、ごちゃごちゃに混ぜたものだ。彼らが書くものには論理も脈絡もない」と述べている。Jacques Distler も似たような意見を述べ、「ボグダノフ兄弟の論文は、数理物理学・弦理論・量子重力理論などさまざまな分野のバズワードでできており、文法的には正しいものの意味論的には無意味な形でそれらを並べたものだ」としている。 その他の人々はボグダノフ論文の質をより広い学問領域のものと比較した。「ボグダノフ兄弟の仕事はとんでもなく論理性に欠けていて、出版された他のどんな論文よりも欠けているくらいだ」と Peter Woit は述べている。彼は続けて、「しかし、論理性の基準が低いものがどの分野にも次第に増えており、そのことが彼らに自分たちは思慮分別のある行動を取っていると思わせ、論文を出版しようとするのを許した」とも述べている。Woit は後に2006年の自著『ストリング理論は科学か—現代物理学と数学』の中でボグダノフ事件に1つの章を割いている。 最終的に、論争は主流メディアの注意を引き、物理学者たちのコメントが広まる新たな場ができた。『ル・モンド』紙は1982年のフィールズ賞受賞者アラン・コンヌの「自身の精通していない事について彼らが話していると私が確信するのに長くは掛からなかった」という言葉を引用した。またノーベル物理学賞受賞者の ジョルジュ・シャルパク はフランスのトークショー番組で、ボグダノフ兄弟の科学界における居場所は「存在しない」と述べた。 一連の論文自体についての最も好意的なコメントは弦理論研究者の Luboš Motl によるものである。論争の絶頂期からほぼ3年が経った頃、彼は自身のブログに「ボグダノフ兄弟は、思慮深い、量子重力についてのもうひとつのストーリーとなる可能性を秘めた何かを提示している…彼らが提示したものこそ重力を数値計算する枠組みとして可能性を秘めたものである。それらが役に立つことは無さそうだと私は気付いたけれど、ループ量子重力理論や他の離散手法のように致命的な難点が既に詳しく特定されているものよりは可能性があるだろう」と書いている。ただし、これはあまり適切な比較とは言えないだろう。なぜなら理論物理学者たちは未だループ量子重力理論という手法が実際どの程度役に立つものなのかについて議論しているところだからである(弦理論や他の全ての量子重力理論と同様に、ループ量子重力理論は(少なくとも現在のところは)実験による証明・反証の段階には程遠い。ループ量子重力理論に関する議論は弦理論自体が抱える問題と密接に結びついており、しばしば加熱するその議論については、この項目で扱うべき範疇を越える)。
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